表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/23

友の生命


『――魔王だ! 化け物が出たぞ!』


『違う! 僕は、僕は魔王なんかじゃない……!』


『やめて……なんで、なんで……?』


『苦しい……、体が、熱い……っ』


『見つけたぞ、魔王の生き残りだ! 殺せ、今すぐ殺せ!!』


『――っ!! やめて!! 来ないでえええええええ!!』


『身体が……、何かが、溢れる……! ああぁあぁああああッッ!!!!』


……妙な夢を見ていた。

いや、夢というには生々しすぎる。まるで誰かの記憶を、無理やり覗かされたみたいだった。


(……なぁ。そんな、何もかもが燃え尽きた焼野原で……お前、一人で何してんだ?)



「……っ……う、、は……っ」


深い、深い闇の底から浮上するように、俺は意識を取り戻した。


酷く頭が重い。ここはどこだ……?

レヴァナスと、ネフィリアさんと一緒に、魔素の元を閉じて……。 魔獣……。 それで――。


(……あれ? 俺……生きてんのか……?)


視界の先が、やけに眩しい。チカチカとして、まともに目が開けられない。

ここはどこだろう。俺は一体、どうなって――。


「――アルス」


聞き慣れた、だけどどこかいつもより穏やかな、レヴァナスの声が鼓膜を震わせた。


あぁ、よかった。レヴァナスの声だ。……よかった? 心配してた……?


いや、違うな。


ただ純粋に、すぐ傍に、あいつがいてくれることが――嬉しかった。


「ここは……どこだ……? なんか、やけに眩しくて……上手く目が開けられないんだが……」


「無理に開けようとするなよ。お前、さっきまでほとんど死んでたんだからさ」


レヴァナスの言葉に、思考が繋がっていく。


(あぁ、そっか…… 最後の最後、油断したところをやられたんだった……)


「……もしかして、またレヴァナスが助けてくれたのか?」


「……アルスの言葉があったからさ。私の力を、誰かを救うために使ってみた。私の魔力をありったけ流し込んでみたんだ」


「……」


何だろう。


言葉はいつものレヴァナスそのものなのに、『違和感』があった。

心の奥が、奇妙なざわめきを訴えかける。


「お前、すごいことするんだな……」


俺の呆れたような言葉に、レヴァナスは「ははっ」と、どこか遠い場所から響くような軽い笑い声を返した。


「冷静ではなかったかもしれないな。腹を貫かれて、両目まで失っていたからね」


「……怖いこと言うなよ」


「ははっ。 まぁ意識が戻ってよかったよ。 構築された体が馴染むまでは動かない方がいい」


「そうだな……」


身体に感覚が戻ってくるのを感じながら、俺はふと思い至って尋ねた。


「そういえば……ネフィリアさんは? 目がまだ見えなくて……」


「ネフィリアもいるよ」


(ん……? いるのか……?)


油断してたことを詰められてもおかしくないはずだけど……。 周囲からは気配も、声も聞こえてこない。


(なんか……おかしい。 変な感じがする……)


「――なあ、アルス」


「なんだよ」


レヴァナスの呼びかけに、胸の奥が一層ざわつく。


――もう、すべてが変わってしまったような。


――もう、取り返しのつかないことが起きてしまったような。


「ありがとう。……そして、すまない」


レヴァナスは、暖かく、そして、冷たい声で言った。


「なんだよ、お前……。なんか……変だぞ……?」


「アルスのおかげで、私の力が他者を救えるって気づけた。今こうして君の命を助けることができた」


「『死にそうだから魔力を流し込んじゃおう!』は、ちょっと俺のイメージと違かったけどな」


違和感を誤魔化すように、俺は茶化すように言った。


「ははっ……確かにね。 ……でも、誰かを助けるために力を使うなんて思ったことなかったから。それだけで、十分さ」


目を開けたい。

すぐ目の前にいるはずなのに、どうしてこんなにも遠くから聞こえるのか。


この声の主を、今すぐこの目に映さなければならない。

俺はまだ激しく霞む両目を、痛みに耐えながら必死にこじ開け、周囲の景色を無理やり視界に焼き付けた。


……人影が、見える。二人。

徐々にハッキリとしてくる。確かに、そこにはレヴァナスと、ネフィリアがいるようだ。


「アルス。君は本当に凄い男だよ」


レヴァナスが言葉を紡ぐたびに、胸の奥の不安が肥大化していく。

頼む。もう話さないでくれ。


「君は、私たち魔族に比べれば圧倒的に弱い。……だけど、どんな状況でも立ち向かうその姿は『勇者』そのものだったよ」


やめろよ。


「私の、『魔王』としての生に、もし少しでも意味があったとするなら。……それは、ネフィリアと――」


世界が、焦点を結んだ。


「――そして、君という友に出会えたこと、だろうな」


そこに立っていたのは、ネフィリアだった。

彼女は、一点を見つめたまま、一切そこから目をそらさない。


その唇を、血が滲むほどに強く噛み締めながら、溢れ出そうになる感情を、必死に押し殺して立ち尽くしている。


彼女の、目線の先――。



―――レヴァナスの肉体は、灰のように白く染まり、今にも崩れ落ちそうだった。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ