表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/23

他者を守る強大な力

レヴァナスの全神経、その肉体の自由を完全に掌握した俺の意識に、流れ込んできた。

それは――限界すら見えない、世界そのものを手に入れたかのような、桁違いの『強大な魔力』。


「……これは、凄いな。レヴァナス、お前の言ってた意味が、今になってよーく分かったよ……」


魔獣の猛攻に晒されながら、俺の、いや、レヴァナスの異変に気づいたネフィリアさんが、焦ったように大声を張り上げる。


「アルスなの!? あなた……何をしているの!!」


俺はその制止の声に耳を貸さず、レヴァナスの体を使って、意識だけとなったレヴァナスに向けて、心の中で静かに語りかけた。


「レヴァナス。……本当に済まなかったな。お前の体を借りて、初めて、お前がどれだけ恐ろしい強さを抱え込んでいたのかを知ったよ。……でも、俺を気遣うことなんて必要ないんだ」


(アルス……? まさか、君……)


「俺のことなんて、ハナから気にするなよ。お前がどれだけ本気になったって、俺は絶対に死なないさ」


(やめるんだアルス!!! 私のその魔力を完全に開放したら、人間の君が耐えられるわけない!!!)


「さて。とっととこのバケモノを片付けようぜ」


俺はレヴァナスの体に、限界を超えた魔力を注ぎ込んだ。

漆黒の雷光が、洞穴の空間そのものを軋ませていく。


(やめろ……)


レヴァナスの声が、頭の奥で震えた。


(やめてくれ、アルス……)


その声は、恐怖ではなかった。

懇願だった。


(頼む……頼むから……っ!!)


(私はもう……嫌なんだ……!)


(大切なものを、自分の力で壊す絶望を……もう二度と味わいたくないんだ……ッ!!!)


「アルス!! やめなさい――っ!!」


ドゴォ!!!


俺を静止しようとしたネフィリアさんだったが、その隙を突かれ、魔獣の触手によって激しく吹き飛ばされてしまった。


遮るものは、もう何もない。

魔力を極限まで溜め終えた俺は、レヴァナスの体を使い、渾身の魔力をもって眼前の魔獣へとその全てを解き放った。


「喰らいやがれ――『ヴォイド・カタストロフ』!!!!」


(やめろおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!)


レヴァナスの絶叫。


魔獣を中心に、空間そのものが軋んだ。

巨大な漆黒の魔法陣が展開し、その中心から、光すら飲み込む暗黒の奔流が解き放たれる。

着弾と同時に、爆音すら置き去りにして、周囲が木端微塵に砕け散った。



荒れ狂う破壊の嵐が去り、魔獣の気配が完全に沈黙した直後。

濛々と立ち込める粉塵を切り裂いて、黒煙にまみれたネフィリアさんが狂ったように飛び込んできた。

そして、未だ俺の意識が宿っているレヴァナスの体を見るなり、思いっきりその頬に平手打ちを炸裂させたのだ。


彼女の美しい目には涙が浮かんでいた。


「何やってるのよ!!! レヴァナスが望んだのは、あなたの自己犠牲じゃない!!! レヴァナスにとって、あなたは初めて……初めて心を許せる、本当の『仲間』だったのよ!?」


(……)


意識だけのレヴァナスは、絶望のあまり何も言葉を紡がない。

俺は、そんな深刻すぎる空気の中、2人に向けて、お調子者の一声をかけた。


「えーっと……。今、俺の意識がここにあるってことは……ってことなんだけど……」


俺がそう言って、視線を少し横に向けさせる。

徐々に粉塵が落ち着き、視界が晴れていく。……そこには、俺の本来の体である『アルス』が、無傷のままポツンと立っていた。


(!!! まさか……っ)


ネフィリアが息を呑む。


「ありえない……。あの破壊魔法の範囲内にいて……人間の体が残ってるなんて……!」


俺の体の周囲だけ、空間そのものが不自然に静止していた。

2人も気づいたようだ。俺の風魔法をレヴァナスの魔力で極限まで増幅して発動した魔法。

あらゆる破壊を拒絶する絶対防御魔法。


――【ゼピュロス】。


俺はレヴァナスの口を使って、してやったりと高笑いした。


「ははは! 二人とも驚いたろ!? ちゃーんとレヴァナスの魔法から、俺の体を守る魔法も仕込んでたんだよ! ネフィリアさんのあの焦った顔……良いもの見れたよ!」


「……っ!!」


ネフィリアが今度は鬼の形相で、レヴァナスの体に向けて2発目の強烈な平手打ちを繰り出してきたので、俺は慌てて隷属の刻印の制約を解除し、自分の体へと意識を戻した。


パチィィィン……ッ!!!


レヴァナスの意識が肉体に戻った瞬間、静まり返った洞穴の中に、痛烈で乾いた音が響き渡る。


「いったあぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」


肉体を取り戻したレヴァナスが、頬を押さえて情けない悲鳴をあげる。

それを見て、自分の体に戻った俺はまたケラケラと笑った。


ネフィリアさんは、俺が自身の体へと意識を戻したことを悟ったのだろう。

レヴァナスに手を挙げてしまったことなど今更お構いなしに、まさに瞬間移動のような速度で俺の眼前に詰め寄ると、その胸倉を思いきり掴み上げた。


「あなた……! 本気で心配したのよ、死んだと思ったのよ!! ふざけるのも大概にしなさい……っ!」


(ぐっ……結構……くるし……)


それは今まさに生命を絶たれるのではと思う程の締め上げだった。……魔族に冗談はやめよう。


「アルス……」


今度は、背後からレヴァナスの声が聞こえた。


振り返ると、レヴァナスは何かを堪えるように唇を強く噛み締めていた。

それでも、その瞳から零れた涙だけは、止められなかった。


「君が……無事で……本当によかった……」


俺は胸倉を掴まれたまま、笑顔を向けて言った。


「俺が生きてるのは、お前の力が守ったからだろ?」

「だから、その力は暴力なんかじゃない。」


「――っ」


レヴァナスは言葉を出さず、静かに微笑みを返した。

ネフィリアは、そんな主の姿を横目で確認すると、ふん、と息を吐き出し、ゆっくりと俺の胸倉から手を離した。



これで、何かが少しずつ変わってくれるといい。

レヴァナスの心を、凍りついた孤独を、ここから少しずつ、時間をかけて溶かしてやろう。

ここから、俺たちの本当の平和が始まるんだ。時間はたっぷりあるんだから――。


そんな風に、未来への希望を確信していた、その瞬間だった。


「――がはっ、え……?」


視界が、急速に歪んでいく。

激痛すら置き去りにして、俺はゆっくりと自分の腹部を見下ろした。

夥しい血が、溢れていた。


振り返ると、今にも消滅しつつある魔獣の触手が、最後のうねりを見せていた。

次の瞬間、黒い閃光が、俺の両目を薙いだ。


「――ッ」


視界が赤く染まり――消えた。

読んでいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ