第五章 三保松原の燈台下焼肉センター 8
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こうして芽里亜と虎丸は自室へ引きこもり、脚本の完成を急いだ。
―スターウォーズ、ロッキー、ブレアウィッチプロジェクト、娯楽の映画史的に、どれと比べても遜色ないデキだった!
虎丸はこんなことを思いながら、自分を励まし書いたのだが、自分もその理由に気づいていた。
―そう、40分なのに、脚本、つまり物語も面白かった。
面白いアクションや観てるだけで痛いスプラッターシーンの必然性を担保するための脚本だ。
つまり映像で見せて、ナンボ!
―あの脚本には私心が一切、感じられなかった。
虎丸も、いや、別の部屋で書いている芽里亜も同じことを思っていた。
―自分たち素人同然の純粋な感性が、技術のカタマリみたいなプロ志向というかほぼプロというかプロすら超えている世界的映画監督に、ズバ抜けたアイデアや奇抜なセンスでは決して勝てない!
そういうことで逆転とかは現実的に有り得ない。
そこいらはこの物語、シビアにいこうと思います。
―音楽はあると思う。奇妙な旋律や心地良い不協和音を楽器持ったばかりのアマチュアが奏でることが。小説もあるかな。いちいち描写や叙述が面倒だと思って書いた文体が、実はスゴい文体になった、詩に近づいていたってことはあり得る。でも、漫画はそれはあり得ない。アレは計算の様式だから、確かに異常なセンスで奇抜さをアピールしてうけることはあってもそれはイラストや絵画の面白さになっている。そして、映像は更に計算が必要。感性やセンスでなんとなく撮影したものを同じく感性やセンスで編集して、音つけたらゴミ以下のものができている。
これは芽里亜との会話中に菜乃が語った映像と漫画の共通点と相違点。
ちなみに菜乃が亜美衣と画策しているサブスクでの放映は10月いっぴに一斉公開となっている。
―あれをみせられた後に『二人の失楽園』を海外でも観られるというのが怖くなったよ!
そして龍王院エリスが観るのである!
あきら以外の3人、菜乃、芽里亜、虎丸は俄然やる気が出た、というか、かなり追い込まれた気持ちになっていた。
そんな中、脚本を書き上げたのは虎丸だった。
三日経ち、木曜になっていた。
直ぐにあきらに送って、虎丸はとりあえず寝た。
あきらは徹夜して、独自の仕方で画コンテを起こし、それを菜乃に送る。
その日の内にシェイプされて、皆にメールで配られた。
アキラ『どうでしょうか?』
アメリア『想像以上にいい!相川くん、私たちの次にカメラよく回していたもんね』
アキラ『はい、あれで画角やパース、カメラの持つ運動が勉強できました』
ナノ『うん、私は視易くしただけで、そういう意図はむしろ生かすように描いた』
アメリア『また撮りだすのか。楽しみ!』
タイガー『そう、そうだよ!よそはよそ・うちはうち、撮り始めれば直ぐに、没頭するよ、前回みたいに!」
アメリア『いいこと言うじゃん!』
タイガー『だからさ、もう撮影に入ろうと思うんだ』
ナノ『!』
アキラ『!!』
タイガー『脚本と画コンテはできた。衣装はもう用意している。ロケ地も決まっている、アメリアちゃん、クルマお願い( `ー´)ノ』
アメリア『しゃっ!ドライブ大好き!(/・ω・)/』
虎丸としては、気分転換というかデートというかの意味合いの提案であった。
GW頃から本格的な撮影と編集、ナビゲーション・フェスタでは臨機応変に対応し、画コンテ集と改訂版パンフレット製作に、夏コミに参加、芽里亜の帰省の際は皆も一週間ばかり静養できたが、四人で打ち上げめいたものをしていなかったことに虎丸は気づき、チャンスをうかがっていた。
―だが、それも龍王院エリスの登場で、映創祭までまた走り続けなければならなくなったけど。
でも、虎丸としては、だからこの脚本をこもって書いていたからこそ、どこかに出かけたくなった、特に芽里亜はそうとう煮詰まったいるようなので、まさに気分転換に誘いたかったのだ。
虎丸は北海道出身なので、ロケ地はあきらに相談した。
前回が近郊での撮影だったので、地方へ行かなくとも、自然が多い場所、この場合は海岸を所望した。
そういう理由で三人を誘った虎丸だから、撮影とはいってもロケハンくらいに思っていた。
あきらには日帰りできるロケ地をお願いしていたから。
だが、脚本と画コンテは皆に渡っているのだ。
アメリア『この脚本だと最初と最後のシーンは同じような場所じゃない?』
アキラ『そうですね。迷宮めいた世界に入って、また迷宮から出るワケですから』
ナノ『でもファーストシーンは真夜中で、ラストシーンは朝』
アメリア『相川くん、泊まるトコある?』
タイガー『エッ!マジ!?』
アキラ『そういうかと思って、温泉付きの健康ランドに宿泊施設が付いたトコですが、ここはどうでしょう』
あきらは宿泊施設のURLをコピペした。
そして今、芽里亜のランクルは新東名高速道路を南下している。
8月の下旬、未だ残暑が厳しい時期。
助手席には菜乃、後部座席にはあきらと虎丸、更に後方には衣装や撮影機材。
クーラーではなく、全面ドアウィンドゥを開け放している。
だから、風の音が激しい。
それでも、芽里亜が小声ではなく、カーステレオから流れる歌唱を自分も歌っている。
♪まだ眠る 街を抜け
逢いに行くのよ 遠いあなたに
♪ホロあげた カブリオレ
朝の光を つんで走る
♪海の近くに住むのは趣味と
キメていた 昨夜の横顔
♪女の子たち ため息つかせる
素敵なハート
ひとりじめしたい MyDarlin!
♪わたしが取る ポールポジション
恋のレースは負けられない
♪心は余裕のポジション
自分に自信がなくちゃ ダメね
―芽里亜の歌声初めて聴くな。
隣の菜乃はカーステレオから流れる今井美樹の声を遮断して、芽里亜の声を追っていた。
後部座席ではあきらと虎丸がこれからの打ち合わせをしているらしい。
でも、それは撮影の打ち合わせではなかったようだ。
「安さん、そろそろ曲がります。合図します」
あきらが云うには昼ごはんにお勧めがあるとのことだった。
「あの灯台を目指してください」
そう、あきらが云うように肉眼で灯台が目視できた。
芽里亜が運転席に固定したスマートフォンではあれが清水灯台だと指している。
グーグルマップを芽里亜がいじる。
―燈台下焼肉センター?
果たして数秒で燈台下焼肉センターに着いたのだが、プレハブを思わせる外観に、いざ四人が入ってみると実に地方の定食屋という風情のレトロ感。
―この相川くん、って子は、食べ物屋を選ぶと、女の子が普段一人や同性とは絶対に行かない店をチョイスしてくるな。
芽里亜の口に出さないこの気持ちに菜乃も同意見だった。
でも、そんなことは二人とも直ぐに忘れた!
―テーブルに直付けのコンロで焼いて食べる店だ!
そう、菜乃は焼いた肉が好きだ。
で、メニューをみて悩んでいる。
「とりあえず同じ、焼肉定食を四つ頼んで、おれはみんなに上ロースをおごるぜ!それでどうだい?」
菜乃は上焼肉定食と普通の焼肉定食で悩んだ(価格差900円)が、室井くんがそう云ってくれるならば、普通でいいかと悟った。
「じゃあ、僕は皆さんに上カルビをおごります」
これは鼻高々なあきらくんであった。




