第五章 三保松原の燈台下焼肉センター 7
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「とは言ったものの、どういうふうに作ればよいか」
芽里亜は自分の部屋で皆に聴こえるようにつぶやく。
そう、ここは井の頭通りにある芽里亜の部屋。
皆とは菜乃とあきらと虎丸。
カフェテラスで集った後、彩を筆頭としていせや総本店に、つまり居酒屋に飲みに行くという話になっていたので、その場にいた大半の者は行くことにした。
「すみません、次回作の構想を練ります」
菜乃がそう云うと、野笛と亜美衣は同行を申し出た。
「私たち四人で方針を固めたいのです」
そう二人に菜乃は返事した。
―だからといって、亜美衣さん!なんであなたまでいせや総本店に行くかよ!
映画界の巨匠の地位を約束されたヤバい女にケンカを売られ、部活の女性陣ほぼ全員に嫌われ・去られ、そしてこの二大勢力が合併して、あとふた月ちょっとで開催される映創祭で対決することとなった。
「まず聴いておく。おれらの方の映画『デリリウム』、芽里亜と菜乃に出てもらう予定だった映画。アレ、どうする?」
「どうするって?」
虎丸が云って、菜乃が尋ね返す。
いつの間にか、虎丸は菜乃を〈酉野さん〉ではなく〈菜乃〉と呼ぶようになっていた。
「なんかスゲェのに目を付けられたようだから、主力は菜乃と芽里亜だ。未だ評価されてないどころか製作経験もないおれと相川の方は止めて、そっちに集中するけど」
「虎丸、そりゃあ、おかしい。創るべきだよ。ナノメリアは、虎丸と相川くん入れてのナノメリアだ」
芽里亜が返す。
「うん、そうだ、今回は私と芽里亜が製作のが一本と相川くんと室井くんので一本、合計2本の併映でいきたいんだよ」
「いやぁ、お二人のジャマになりたくないのもありますけど、正直スゴいプレッシャーです」
あきらのその言に虎丸は図星を突かれた気分がした。
―そうだ。菜乃みたいに漫画の才能があるワケでは、おれら二人とも無い。
「芽里亜が最初、どういうふうに作ればいいか?と言ったけど、好きなように作るしかない。幸い、夏休みは未だちょうどひと月ある。来学期最初のひと月なんて講義でなくともいいし、相手をあまり気にしない方がいい」
菜乃が云い終わると、虎丸が「気にならないのか?」と返す。
「さっき、そのエリスって子に会った先輩たちや星さんたちと一緒にお店行かなかった理由に通じるんだけど、私は未だそのエリスって子に会ったことない。皆がその子のことを何を言っても、私は会ったことないんだ。だから、気になるかどうかは多分気になるんだろうけど、判断はつかないよ。みんながどんな判断して、どんなに悪く言っても、会ったことないから、嫌いようもないし、反対に崇めることもない」
―好きな子が『あの嫌い』と言ったら、自分もそうしないといけないっていうルールは無いのだ。
これは珍しくあきらの独白。
そしてチャイムが鳴るのだが、これはパエリアのデリバリーが到着した音。
菜乃と芽里亜がパエリアが好きになっていた。だから魚介とステーキの2種類。
というワケで遅いランチとなった。
その間、虎丸と芽里亜はお互いの企画に関して説明した。
「『デリリウム』は閉鎖的な世界に閉じ込められて女の子二人の話。そこで二人は宗教や貨幣といった人類の文化や文明に気づいていく。でも哲学ではなくSFでありたい。二人の女の子は勿論、芽里亜と菜乃に演じてもらう。その他にも二人に秘跡を与える人物が出てくるが、なにより彩先輩と野笛さんに意外な役ででてもらう、ああ!ひとに説明すると違うな!書きたくなってきた!」
「じゃあ、虎丸、先に書き上げた方が撮影を先にスタートするようにしよう!私が今脚本を書いていて、菜乃が又画コンテと監督を務める『トゥ・オブ・アス』はロードムービーにします。ハッコウが壊した世界、二人は今でも特権階級が暮らすと言われる楽園〈ファライソ〉を目指して旅をしています。でも〈ファライソ〉は噂だけで無いかもしれない。自分が壊した世界の惨状に恐れおののくリュウセイ、そして病に侵されるハッコウ。こっちは虎丸と違って、展開が巧くいかず困っています」
その後、菜乃があきらを教えるカタチで、画コンテの切り方教室となった。
パエリアも美味しく、次回の二作品も順調な感じがして、楽しいひと時と云えた。
―18時、女の子の部屋にいるのはここいらが潮時か。
そう思った虎丸だったが、それをあきらが打ち消した。
「実はですね。河都先輩からこんなDVDを受け取ったのです。あの騒ぎで返却できなかった、とか」
ジャケと菜乃、芽里亜、虎丸が見る。
「これって!」
「龍王院エリスの!」
「『パーティーズ』!」
これもやはり菜乃、芽里亜、虎丸の順。
「はい、河都先輩が言うには終業式の時に島カリンさんから『ノブ先輩、久々にコレ観て下さいよ』と言われて、はは~ん、菜乃たちに嫉妬でもしたかなと思って、サークルの集まり、つまり今日返却する約束で手渡されたと言っていましたが、でも、これって、つまり」
あきら、いつもはここにいて何が楽しいのだろうと他人に思わせるほど、ぼーっとしている男の子で、さすがにこの三人とは五か月の付き合いで、それなりに色々考えているのが判ってもらえるようになった。そのあきらが自分の発言に後悔したのだ。
―河都先輩が、あきらくんの判断に委ねる、と言ったのはそういうことか。コレ、挑戦状か。
「あーーーーーーーーー!」
「芽里亜、女の子が男の子の前でそんな声出さない!」
「でもさ、菜乃!わたしんちのPC、ディスク入れらんないし、DVDプレイヤーもない!」
「しゃっ!おれんちにはある!直ぐ持ってくる!」
そう虎丸の住む五日市街道と芽里亜の住む井の頭通りは平行に走っている。
歩けば10分くらいで行き来でき、帰りは自転車をこいだので、虎丸は15分ほどで戻って来た。
―マズいな、観るか・観ないかの議論であるよりも前にみんな見る気まんまんだ!気にならない、っじゃあ、なかったの!?
―このジャケ、ネットで見たことある。確かビルボード誌の全米セルビデオチャートにラインクインされていたけど、まさか1位じゃなかったよな!?
それはスマホをいじれば直ぐに判るのに、虎丸にはそれができなかった。
「みなさん、落ち着いて下さい。ここは決を取りましょう」
「うるせぇ!相川!おまえが持って来たんだろうが!」
で、芽里亜が大画面ディスプレイにUSBケーブルで繋ぎ、菜乃が部屋を暗くして、虎丸がイジェクトし・再生が始まる。
画面脇に「ERITH ryūōinn A FILM」
続いて「パーティーズ」
更に「本作を西田敏行に捧ぐ」
画面は最初肌色、カメラが離れるとそれは女の子の頬だと判る。
毛穴まで撮っている近さ。
女の子は元気に笑顔で自転車をこいでいる。
ーこれ、エッ、画質、エッ?35ミリフィルム!?いや、今ではデジタル処理でこれくらいの質感出せる、か?
女の子の顔のアップ。はつらつ。
―これが島カリンさん!?かわいい!セーラー服姿で、履いている白の三つ折りソックスまで衣装に気遣いしているのが判る!
その女の子を自転車ごとダンプカーがはねる。
普通の演出ならば、そのまま空を映す、シーンを既に病院の集中治療室に移すと色々あろうが、島カリン演じる女子高生はダンプカーの下敷きにゆっくりとなっていき、右肩に自転車のハンドルが貫通している。
―これ、どうやって撮ったんだよ!?素人ががんばればなんとかなるレベルじゃねーぞ!
病院とは思えない実験室のような場所に運び込まれた島カリン。
一瞬だけ西田敏行が映る。
それからは怒涛の展開だ。
女子高生の脱走、だが人間体でなく、機械化された姿のままだから目立つし助けも呼べず、なにより羞恥が勝って苦しい。
5体の機械化ニンゲンのシルエット、そのうち2体が島カリンに襲い掛かる。
そのバトルシーン、ネトフリのデスゲームものやufotableの剣劇アニメの同等の力作。
それからはめくるめくジェットコースターのようだが、40分というしばりからか中途で西田敏行の博士が説明、女子高生が偶然、事故に遭って・改造されたのでなく、出生の秘密に絡むどんでん返しがあり、更に残り3体の機械化ニンゲンが残っているという幕引きで次回に続く、という余韻。
「どうでした?」
あきらがスタッフロールが終わり、照明をつけるとみんなに問う。
「観なきゃよかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!!!」
ハモっているワケではないが、これは菜乃、芽里亜、虎丸の発声にして心の雄たけび。




