第五章 三保松原の燈台下焼肉センター 6
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「いや、そりゃ、おかしいよ。そんなハリウッド映画の大作や権威ある芸術映画に関係してきた世界トップクラスの映画女がどうして私たちみたいな小童の存在を知っているんだよ」
「いや、酉野さん、私もそれはあり得ると思う。最初に学内ほとんどの講義と表現系サークルに全部関わって、爪痕残すくらいと説明したのは、そういうことも決してバカにせず、学んで帰るタイプだと知って欲しいからだ」
そう、彩もどこかで夢想していた、『二人の失楽園』のナノメリアと『パーティーズ』の龍王院エリスの対決を。
そしてエリスと同学年だった島カリンがナノメリアの存在を教えたと想像できた。
「菜乃、マジメに話すよ。ありゃあ、バケモノだよ。私やふみちゃんは未だフツーのバケモノモドキだが、龍王院エリスはホームラン級のバケモノだ。身震いしていると丸呑みのされるだけだ!あいつが神様だとは言わない!だが明らかにフツーのニンゲンじゃない!」
「亜美衣さん、私は夢取られちまったから」
「夢?夢ってのは女のことか!?」
「実際、クラシックだよ、あんたって人は!」
勿論このやり取りは亜美衣と菜乃。
「マジメにやってよ!マジメにやってよ!マジメにやってよ!大事なことだから三回も言いました!」
これは芽里亜。
「究極にヤバい女が帰って来ただけじゃない!まさかここでレコンキスタ総数38名中、15名に離反されるとは!しかも女子部員ばかり!」
簗木部長が云う38名とは、院生の彩が1名、四回生は野笛と今日は来ていない6人の計7名、三回生は簗木じしんと岸間に来ていない4人の計6名、二回生は千田と島カリンの二人に来ていない女子ばかりの7人ばかりの9名、そして一回生は酉野菜乃、安芽里亜、高木彩花、星ヒカル、矢間りえか、海藤ライム、相川あきら、室井虎丸、住田賢二で、焼き肉食べ放題には来たがじょじょにこなくなった新入部員3名がいたが、『二人の失楽園』を観て入ってきてくれた女子部員が3名いた。
ヘディラマーには現在、二回生の龍王院エリスと島カリン、その他女子部員7人の計11名。一回生に矢間りえか、海藤ライム、ナノメリアが好きで入って離反した女子3人の計5名の合計16人。
「よりにもよって、なんで女の子ばかりなんだ?」と虎丸。
「3、4回生に離反者がいないということは女性の島さんが中心になって動いたからだろう」と岸間。
「多分、3、4回生のみなさんは引退が近いからだと思います」とヒカル。
「あの子たちはあの子たちなりに、実作を作るという動機を語っていましたから」と彩花。
「いや、それはそうとして、でもそれは問題じゃない。そうとう恨まれていたんですよ。ぼくたち」とあきら。
空気を読まないキャラに見えるがあきらは彼なりに気が遣える。
ここで〈ぼくたち〉と云ったのは、菜乃と芽里亜への露骨な気遣いだ。
だから菜乃はあきらへの進言に答えるかのように云う。
「うん、やり過ぎたんだ。同人やメンバーが自分のサークルや部活に誇りを持つのは当たり前だけど、相手からすれば、その誇りは不当な圧力と見え、反発が生まれる。それとは別に、生きがいや愛情の対象を見つけられなくなった人間は、はけ口を求め、行き過ぎた考えをしばしば持つようになる」
「酉野さん、二つ。イチ、そうですか気づいていましたか。ニ、うーん、それはそうなんですが、相手はそう分析されたら、よけい逆上しますよ。特に女性はね。『謝ってもダメ!何で怒っているか、ちゃんと言ってから謝って!』でその図星突かれたら、キレるでしょうよ」
―菜乃の分析の上に、更に天然キャラと思われたあきらのその上を行く分析。
皆は妙に感心した。そして、
―この菜乃ちゃん、かわいくて、元気と行動力あって、リーダーは張るけど、屈託なく・驕りもない。と、完璧に見えたが、そういう分析はまさに不当な圧力と感じる輩にはその分析をしているコトが漏れていて、感知されているのかもしれない。
これは彩や岸間ら男性だけでなく、野笛も似たようなことを思った。
「マジメにやってよ!と言われたからそうするけど、具体的な話はしないが、菜乃は、こういう同性同士のトラブルにかなり巻き込まれてきていてね。こっちの世界に引きずり込んだ私が言うのもおかしな話なんだが、ともかく菜乃だって、離反したひとたちが憎いからって映画作ったワケなんて絶対ないじゃん!そりゃ、分析すればそう見えるけど、『ミネルヴァの梟は夜明けに旅立つ』ってね、終わった後になんないと判らない。結果論だ」
「亜美衣さんはそう言ってくれるけど、これで三回目だから言っておくよ」
「菜乃!何もこんな大勢の前で!」
この内容の台詞は亜美衣より芽里亜の方が早かった。
「ありがとう、芽里亜。私さ、芽里亜に高校の時の友達の話をしたり、実際会わせたりしたけど、中学は友達一人もいなかった」
「そんな話さ、後でゆっくりと聴くよ」と芽里亜。
「そうだ、不愉快な話だ。あの龍王院エリスの登場は恐怖だが、その中学の話は不安を催させる。恐怖は娯楽になるが、不安はそうならない」と亜美衣。
「小学校からコミケ行って・同人誌売っていたから自然、亜美衣さんたち高校生や女子大生との付き合いが増えた、というかその人間関係が全てだった。それが不当な圧力に同級生の女の子たちから見えたんでしょう。学校裏サイトにはレズの巣窟で乱交しているオタク女と書かれていた」
少しの間。菜乃、深呼吸をする。
「ところがね、そんなの開示請求で直ぐに誰が書き込んだか判る。警察は動きが遅いんだけど、法務省は直ぐに動いてくれる。コレ、マメね。お父さんが直ぐにそれして、名前が割れた。勿論先生たちに報告した。けどね、けど」
「けど、どうしました」
あきらが菜乃の息継ぎに今協力する。
「だからって、謝って欲しいワケじゃなく、クラス換える・学校替えるになるワケでもない。一切読まなかったけど、反省文は書いたらしい」
「お咎めなしかよ!?」と虎丸。
「暴力受けたワケじゃないからね。ただ、私は言った。『挨拶もいらないし、気を遣わなくていい、だから一切無視してくれ!』って。そして、その通りにしてくれた。その一件は中一の3学期で、だから誹謗中傷したグループとは2年生でクラスを離された。でもそれから学内にお互いを無視し合う間柄。けっこうストレスだったな、アレは」
「教師の怠慢だよ」と彩。
「いや、あれ以上、何もできないのが本音でしょう。私には亜美衣さんたちに兄たちがいたから、むしろそんな一般人の相手しなくてせいせいしたよ!」
―いや、菜乃、そんなワケないじゃん、中学の間、休み時間、発端となったから漫画だって描けないから、読書して過ごした。いや、誰が自分の噂やイヤミを言っているか気になって活字ひと文字も頭に入ってこなかったんじゃあないか。
芽里亜は少しでも菜乃を羨ましく思った気持ちを恥じた。
―どちらの中高時代もかけがえのない・修行の場だったのだ。
「高校に入ったら、例のユキエやふみちゃんと出会えて本当に楽しかったんだ。でも、サークルそれ自体が又ネットで誹謗中傷受けて、って、そうでしたよね。亜美衣さん」
「うん、中学の時は助けてあげられなかったから、歯がゆい思いしたから、アレは私も解決に奔走した。ユラやミヤコも協力してくれて、ところが相手方の敵サークルの3年前の未解決・殺人事件が浮上して、私たちは感動のラストを迎えたって、これは外伝2巻参照の事!」
「いや、亜美衣さん、詳しい話はする気が無いから、それくらいでよかった、ありがとう。でね、こんな不愉快な話したかというと不幸自慢や逆張りの人生経験豊富な私をそらんじたのではない。もうね、こういうのイヤなんだ」
菜乃はようやく云うべき一行を口にできた。
「そりゃ、そうだ。自分らが能動的に危害を加えているんじゃないのに、やっかみだけでそんな不愉快な目に遭うなんて、そりゃ、そうだ」
虎丸も何か自分の数年前を思い出していた。
「違うよ、室井くん。酉野さん、そうでしょう、違うよね?酉野さん、どうしたいの?」とあきら。
みんなが注目する、特に野笛、彩花、ヒカルの女子部員が注目する。
―そうか、女の子だから、身に覚えがあるから、気になるのだ。
これは珍しく内面までマジメな亜美衣さん。
「仲直りしたいんだ。あの時に、切るような台詞吐かないで、私が歩み寄るようなこと、『私の漫画読んでみてよ、全然エロくないよ』とか『進学の相談とか乗ってくれたり・美味しいお店よく知っているから今度一緒に私の年上の友達たちと会ってよ』って言えれば、どれほどよかったことか。中学の時のあの子たちに会うことは二度とないけど、出て行ったカリン先輩やりえかちゃんには未だ校内で会える。私は同じ間違いをする愚か者にはなりたくない」
―なんで、この子の周りには慕ってくれる友人やライバルがいっぱいできたのかがようやく理解できた。こういう子だからだ!そして私もこの菜乃に導かれた一人だ!新坂さん!やっと仲間が私にもできたよ!
そう思った芽里亜は菜乃に云う。
「よし、あっちが観客動員数で勝負するのが目的なら、こっちの目的は仲直りする!だ!甘ちゃんと笑いたければ笑え!尊さではこっちの方が上だ!」
最初はあきらだった。
続いて、野笛、虎丸と伝播する。
その頃にはみんな気づいた。
―あ!今はこうすべき時だ!
カフェテラスはレコンキスタ残党たちの割れんばかりの拍手に包まれた。




