第五章 三保松原の燈台下焼肉センター 4
4
「確かに私たちはなんの作品もつくらなかった。でもあんな出しゃばり腐女子コンビがしゃしゃり出て、その下働きをさせられるなんて、まっぴらゴメンです!」
これは矢間りえか。
「ごめんなさいね。野笛さんとは仲良かったからこうはしたくなかったんだけど、でも野笛さん、部内で女の子同士の陰湿なイジメやるより、きっぱり出て行った方がマシだと判断して、りえかの誘いに乗った。ちゃんと作品で勝負します」
こちらは海藤ライム。
「そう!言われちゃったけど、私たちヘディラマーは映創祭に短篇映画を発表します。あと二か月と少し、どっちの映画が観客動員数多いかで勝負よ!」
「ちょっと待った!上映用大教室はわが校に1室しかないゾ!」
エリスに対する彩の反論はもっともだった。
『二人の失楽園』を流した規模の映写設備とキャパがあるのはあの大教室だけなのだ。
「先輩、演劇サークルが学祭ではいつも使って、平時は授業で映画やテレビジョン出身の演出家や役者の講師の皆さんがワークショップやる演劇大教室あるじゃあないですか?あすこ、もう学祭の五日間、既に抑えてあります」
ー理事云々って、マジかよ!
彩は恐怖した。
「出ていくのはみんな、女の子だから、私が発言するわ。みんな、私が悪かった!4回生の女子でここで活動を未だやっているのは私だけだ。気持ちを汲んでしかるべきだった!」
野笛が軽く頭を下げる。
「そうですよね、私たちはモブですから。あの電車内でのシーン、あの子たち二人とノブ先輩が話し合いながら、撮影していて、私も是非混ざりたいと思ったものです!」
これは矢間りえか。確かに『二人の失楽園』でハッコウが電車内ディスプレイに映った時に彼女をエキストラで呼んだ。
「じゃあ、やりゃあよかったんじゃないのー!」
皆が、特にこの場合、ヘディラマーの面々が視線を発言者に向けた、亜美衣だ!
「『誰だ?』って聞きたそうな表情してんで自己紹介させてもらうけど、私は通りすがりのおせっかい、亜美衣!やりゃあよかったんだよ。好きに作ればいい、そのためにここには潤沢な機材も同じものが好きな仲間もいる。なんだい?ずっと指示待ちかい?で、今度は権力と学歴をひけらかす女ボスのスカートに隠れて被害者ヅラかい!?あなたは大した悪ではない。そういうのをオプチュニズムって言うんだっ!」
りえか、そう発言した亜美衣を睨む。
「だから作るんだよ、べっぴんなおねえさん。ネタ割れ一つさすけど、既に私は後人育成を視野に入れている。実際今youtubeやInstagramで素人がハイレベルな単発映像を創っている。そして音楽なんて顔出しNGでデビューして、大ヒットするのはフツーになっている。映像はその点、遅れている。目立とう精神や承認欲求でない、音楽のように違う考えのひとも取り入れ、もっと映像は自由でいいと私は言いたい!」
エリスの言に亜美衣は置いておくにしても、彩も野笛も、岸間も簗木も虚を突かれた思いがした。
確かに論理のすり替えは感じられたが、やる気はあってもできない部員は大勢いたし、むしろその方が多かったが、結局なんのサポートもできなかったからだ。
「亜美衣さん、ありがとう。でも、これ以上は言わなくていい。いや、言わないでおいてくれ」
これは彩だが、ここにいる部員の気持ちの代弁であろう。
「部室、みんなで行って、私物を回収します。みなさんは20分ほど、ここにいて下さい」
ライムがそう云うとヘディラマーの面々はカフェテラスから去った。
「クーデタ、まさか生きている間に自分が遭遇するとは思わなかった」
彼女たちが退場した後、30秒後、沈黙を破って、簗木部長は発言した。
「とても飲む気分じゃあないでしょう?」
と野笛。
「いや、これはむしろ飲まないとやってられない」
彩の発言だが、亜美衣も同じ気持ちだった。
その後、レコンキスタのメンバーで部室に用があるものが出て行き、その者たちがカフェテラスに戻る間に菜乃たちがやってくる。
芽理亜の部屋で合流ということになっていた。
駅前や学内ではないのでは芽里亜がこの炎天下でシャワーを浴びてからにしたかったからだ。
―やっぱり、酒2本、ジュース2本は重い!
ほどなくして菜乃が到着。
「ああー、おでん種で好きだったけど、遂に名称が判らなかったのはジャコ天っていうのかー!」
とお土産を気に入ってきれて芽里亜も喜ぶ。
虎丸は入浴後の芽里亜に少しドキッとしたが、口には出さないものの、菜乃とあきらにはバレバレだったのだが、芽里亜じしんは気づいていない。
「せっかくだから、飲んでいいかい?」
あきらはおそらく両親に飲ませたいだろうから、虎丸が口火を切った。
で、4人に蜜柑ジュースが注がれる。
「あ、美味!わけなきゃ、よかった」
「いや、虎丸、ありがとう。地元の私が数年ぶりに飲んで感動する甘さと酸っぱさだ」
「そう言われると切り出し辛いな」
「あ、例の話ね」
「そう、おれが脚本と演出、相川が画コンテと編集やるから、二人とも出演してくれないかな」
「いいけど、やはり百合?」
「そんな感じ」
虎丸は菜乃と芽里亜にあきらにも読ませたシノプシスを渡した。
「抽象的で、さっぱり判らないけど、なんか甘いのをやりたいのは判った」
「ふた月ちょっとしかないし、以前出てくれたから脚本読まないでも出るけど、いろいろ口は挟ませもらうよ」
と芽里亜。
「実は役者もいいなと撮影の時にずーっと思っていたんだよ。だから、むしろ是非出たい」
と菜乃。
「おいおい、本当にいいのか?酉野さんはご家族にも会っているから、そんなムチャはさせないけど、ちょっとしたキスシーンくらいはやってもらう予定なんだよ」
というか、シノプシスにもう書いてある。
「いやぁ、私たちが『二人の失楽園』というBL映画作って、今日の要件が百合映画作るから出てくれと言われたらベタ過ぎて爆笑だね、とさっきLINEでやり取りしていたくらいなんだよ」
とスマートフォンの画面を見せながら菜乃。
又発言も描写もないですが、あきらはちゃんといます。
「まぁ、出演OKならばいいか。もっと交渉とかするかと思った」
「だってねー、又こっちの映画も出てもうらうし」
「実質上の続編だから虎丸くんと相川くんには更に過激なシーンが待っているかもよ!」
これは既に脚本を半分まで書き上げている芽里亜。
「じゃあ、こっちも負けずにスゴいことしてもらうからな!」
「いいよ、虎丸くん。私たち、もうそういう関係だから」
と菜乃は芽里亜を抱きしめる。。
「コミケの打ち上げの帰り、私たち二人、方角別なのに、一緒に帰ったよね」
「ノブさん言っていたでしょう、コミケのブースで二人とも泣きながら抱きしめたっていたって!」
「私は初めてだったけどさ、芽里亜は違うからズルいよ!」
「大丈夫、女の子同士でしても汚れないんだよ」
菜乃、芽里亜、菜乃、芽里亜の順での発言。
虎丸、絶句。
あきら、涙目。
でもあきらのその反応に三人は気づかなかった。
何故なら、直ぐに虎丸が咆哮したからだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「冗談だよ」
「うん、嘘だよ、嘘」
「芽里亜のクルマに戦利品の同人誌を忘れたから取り入っただけ」
菜乃、あの状況で買うべきものはゲットしていた!
あきら、涙を拭く。
「冗談、キツいよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
と、こんな若くて・青いジャレ合いの後に、エリスと彼女率いる新団体ヘディラマーに蹂躙されたカフェテラスに到着するのである。




