第五章 三保松原の燈台下焼肉センター 3
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芽里亜が羽田空港に降り立った月曜AM11時頃、三々五々で映像研レコンキスタのメンバーが集まり始めていた。
元々住まいがこっちな者、アルバイトの関係でこっちに残った者、2か月の夏休みを全て実家で過ごす者はマレなので、そろそろ帰ってくる者も多く、なんとなく8月の第三週あたりで集まってくる習慣がこのサークルにはあった。
今回は首脳陣が声をかけた。
つまり残暑にちょっと飲みに行くか、というノリが高かったので、実際は午後イチに集合し、吉祥寺の昼飲みできるいせやあたりに繰り出す予定だったが、ランチも採ろうと早めに来ていたのだ。
井の頭公園内のイタリア料理屋でランチピザをシェアしながら食べているのは、彩、野笛、簗木部長、千田の4名だった。
「虎丸くんからも相談を受けていてね。来年は部長の千田はどう思う?」
彩が尋ねた相手・千田はクールギンの中のひとを務めた。
「虎丸くんと相川くんの新作1本と物議を醸しだしたナノメリアコンビで1本、それだけに絞ろうというんだな」
「実際、もうPVみたいなやつやTikTokみたいなのを流してお茶濁すなんて、『二人の失楽園』見せられたら、できないだろうよ」
これは簗木部長、野笛と同じでカメラや編集の技術が好きなタイプ。
「そうだ。『二人の失楽園』以上のものを作らねば、観客は納得しないのも事実。ここはレコンキスタの総力を上げて、あの4人をバックアップする体制を取ろうと思うんだ」
彩は声をかけたが、その『二人の失楽園』に触発されて自分らも作りたいと云った部員はいなかった。
逆に『二人の失楽園』を観て入部してきた女の子が3人もいたくらいだ。
潮目がナノメリアを中心に制作する方をよしとする流れになっていた。
―そうだ、これでいいんだ。けれども、ね。
ピザの周縁の生地だけの部分。
―こういうのも鶏肋というのだろうか。
ピザのその耳の部分を持て余していた野笛は言語化できない不安を感じていた。
部室では手狭なので、カフェテラスを借りる部活申請書を学生課には出しておいた。
14時から出かけるので13時だとあと1時間はある。
ピザ屋を後にした首脳陣4人以外にも3回生の岸間や高木彩花と星ヒカルの1回生の女子コンビがいる。やる気があるのかナノメリアの活動に惹かれて入った新入部員の女子3名はこの場に来ていない。
「イロドリ先輩、菜乃ちゃんたちは未だ来ないんですか?」
これは菜乃たちと同じく焼肉屋の新入生歓迎会にもいた矢間りえか、1回生。
―確か、キシェロフスキが好きだと云っていたコだったな。
「うん、実家に帰省していた安さんと合流して来るから、14時ジャストに来るようにするとLINEがあったよ」
「へー、そうなんだ」
別のテーブルに亜美衣がいて野笛は驚く。
「なんで、亜美衣さん、いるんですか!?」
「あなたと同じ。芽里亜ちゃんから地酒を受け取りに来たんだ」
―このひと、案外寂しがり屋なのかもしれないな。
そう、亜美衣はこのまま居酒屋にも同行しようと企んでいる。
つまりカフェテラス内はこんな雰囲気だった。
昼ごはんも食べ終わり、腹をもう少し空かしておかないと肴や酒が美味くない、だから時間調整として駄弁って・腹を空かす。
そんな牧歌的な大学生の一般的風景。
そこから二百メートル先に校門があり、その門をくぐる者。
この暑さに、ベルベットの黒いマントを着用している。
女性にしては背が高い170、マントの中は漆黒のスーツで、時折の風でその仕立てのいいスリーピースが見える。
威圧感がある割に薄化粧で、無表情を貫くためにあえてこのひとの笑顔を見てみたいと男女問わず思わせるようなカリスマ性があった。
今その人物がカフェテラスに来訪。
「エリスさん!」
その人物を今呼んだのはりえか。
―その名は、龍王院エリス!
「あっ!龍王院エリス、さん!?」
こう発言したのは彩。
「ふ、お久しぶりです。彩さん、河都さん、千田くん、あとは忘れた」
「どうしたの!?あなた、とっくにうちの大学、辞めたんじゃあ?」
そう野笛もこの人物に面識はあった。
「いえ、席は残してありましたよ。休学扱い」
岸間や簗木も知っていた。
去年の新入部員、夏休み前に辞めたハズの1回生、龍王院エリス。
「その休学を解除したのです。河都さん、これで理解しましたか?」
「いや、この1年、洋画のスタッフロールを見ていたらきみの名を4回は見つけた!海外の映画祭で短編2本受賞していたのも知っている!もうこんなトコ、用事ないだろうに!」
これは彩、カンヌやベネツィアではないがそれに勝るとも劣らない映画祭、カナダと釜山で入賞していた。そしてその目立つ名はアルファベット表記でも目立つので、既にプロとして活躍しているのが判る。
しかも役職や担当は毎回、録音や編集、広告やアシスタント・プロデューサーと毎回違った。
そして米仏韓の映画専門のコースで教育も受けていた。
龍王院エリスはこれを1年で成した!
「私の真意なぞ、誰にも判らない。だから説明の必要を一切感じません!以上!」
「じゃあ、何しに来たんだよ」
元・同級生だった千田が尋ねる。
「この大学に新しい映像研究会、つまり映画制作のサークルを立ち上げに来ました。新団体!映像研ヘディラマー!」
エリスはマントを撥ね上げ、万歳するようにして言い切った。
「それはいい、いいことだ。でも今は夏休み中、部の申請はどうする?そして部員は?」
これは彩。
「はい、大丈夫!イロドリ先輩、さっき『もうこんなトコ、用事ないだろう』と仰っていましたけど、うちの大学の理事10人中、4人は私の操り人形のような存在、いち部活の受理なんて、造作もない!そして!」
矢間りえかがエリスの右隣りに立つ。
それを合図に女子部員ばかり、星ヒカルと高木彩花と野笛以外のここにいた女子部員5名が同じようにエリスの側に回る。
「そしてこれは本日ここに来ていない2回生の女子部員たち6人分の白紙委任状です!」
そう宣言したのは海藤ライム。
野笛の記憶によれば、矢間りえかと仲が良かった子だ。
委任状には『二人の失楽園』に感動して入部した新入部員が3人の名があった。
そしてもう一人が島カリン、2回生の子だ。
―ここにきて、そうきたか、私のせいだ。もっと交流持っておけばよかった。
野笛のピザ屋での危惧はここいらにあった。
2回生の部員は中の人をやってくれた千田くん以外みんな女子部員だった。
このサークルに入部したものの、映像制作には及び腰だが、講義と講義の合間に話せる学友とそのための場所が欲しかった女の子が固まってしまった。
千田くんや簗木部長とは話したりはしていたが、彩や岸間は〈難しい話をする先輩〉として煙たがれていた。
カリン以外の残り7名の女子部員は半分しかおらず、残りは委任状を出したというのは意思の表れなんだろう。
―つまり、エリスの参謀役が、2回生の島カリン、1回生の矢間えりかと海藤ライム、そして3名の新入部員女子と固まっていた2回生の女子7名、って14名が離反!?」
「エリスちゃん、私から言うことがあるから、言うね!彩先輩やノブさんは私たちをないがしろにした上に新入部員の酉野さんと安さんばかりを重用した!そして秋冬学期からはあの二人の創作のため組織を改編すると私たちの情報網は捉えた!よろしい!私たち、2回生は9名、1回生は5名、只今をもってレコンキスタを離反を宣言します!」
これは島カリン、この大学から出奔してもエリスとずっと連絡を取り合っていたのだ。




