3話 捜索
3 捜索
外は体を刺すような寒さだった。全身に鳥肌が立った。
吐く息も白かった。
正直な話、どこに行くかも決めてなかった。ただあの映像を見て衝動的に出てきてしまったのだから。
リオが俺の袖を引っ張ってきた。
「これからどこに行くの。」
ウッ。まさに今困っている状況をストレートに突く質問だった。
俺が黙っていると、またリオが話しかけてくる。
「あの女の人を探しに行くんだよね。」
俺はああと答えた。
「どうしてそんなに気になるの。」
また返答に困った。
俺は足を止めた。
昼に起こった光景を思い出す。彼女がボロボロになって現れた姿が目に浮かんだ。
「あの女の人が心配だから。」
小声で答えた。
するとリオは、ニコッと笑顔になった。
「わかったよ。僕も協力するよ。」
急な言葉に少し驚いた。
だが協力してくれると言ってくれたことは、とても感謝した。
一瞬、彼女が学校の壁から来たことを話そうと思ったが、今はやめとくことにした。
俺はリオの答えに頷き、夜道を歩き始めた。
とりあえず俺らは、テレビで流れた目撃情報があった場所に行くことにした。その場所は、俺が学校に登校する時に通る市街地だった。家から歩いて5分の場所だった。
すぐに着いた。
その付近には人が集まっていた。当然テレビを見て集まってきた野次馬だろう。みんなそれぞれに空を目を凝らしながら探していた。
俺は少しでも情報を聞こうと、近くにいた人に訪ねてみた。だがことごとくそれは不発に終わった。聞いた人全員テレビを見て駆けつけた人ばかりだった。
「トモヤ。他にあてはないの。」
俺は首をひねる。
少し経ってひとつ思いついた。それをリオに話す。
リオは、「なんで」と聞いてきたが、俺は「何となく」と言ってごまかした。
俺らは、街を抜けて、丘の間の道を歩く。数分歩くと建物が見えてきた。
学校だ。
リオはまだ少し腑に落ちない顔をしていた。俺はそれに気にせずに歩いていく。
学校の近くの道まで来た。
ザッ!
近くから不審な音が聞こえた。リオがサッと俺の後ろに張り付く。そして俺の前方をじっと見ている。
「リオ、どうした。」
「トモヤの正面に何かいる。」
正面‥‥‥。リオに言われるまま道の前方に目を向ける。見えるのは少し伸びる道とそこから四十五度に曲がる曲がり角と、道の横の草むらが見えるだけ。
「何も見えないんだが。」
困った俺はリオに聞く。するとリオは即答した。
「ここから正面の、少し歩いた曲がり角の近くの草むらに何かいるよ。」
俺はその場所を凝視する。だが暗いせいかそこに何かがいるとは思えなかった。
だがリオは居ると言った。とりあえずリオの言葉を信じて、その場所に進んだ。草むらに足を忍ばせる。ザッザッと音がなる。4歩ほど進んだ。
俺はピタッと足を止めた。
草の隙間から白色の物体が見えた。恐る恐るその付近の草を手で開いた。
そこから現れたのは、人、いや翼が生えた人だった。
今日学校の屋上で出会った翼の少女だった。
だが今日の昼に会った姿から一変していた。体のいたるところから出血をしていた。その上に、翼はボロボロになり白い羽が近くに散らばっていた。
その悲惨な姿に俺は声が出なかった。
しばらくの間、その場から動けなかった。
「トモヤ。どうしよう。」
リオは俺にしがみついて少し体を震わせている。
「と、とりあえず家に連れて帰って手当しよう。」
今は一刻を争うと思った。リオはすぐに頷いた。
俺はゆっくりと近づいた。彼女は顔が赤く火照っていた。額には汗が光っている。呼吸も荒かった。
俺は体を支えながら上半身を起こして、そのまま背中に背負った。
(あ。でもどうしよう。)
ひとつ不安なことが思い浮かんだ。今彼女は新種の生物とかで、野次馬などがひっきりなしに探している。そんな状況の中で、この人を運んでる最中に人目につかれたら、とても言い逃れができないじゃないか。
「どうしたの。」
考え事をしているとリオに声をかけられた。素直に答える。
「いや。この人を運ぼうにも、人目につくと少しまずいなと思って。」
「なんで?」
リオは首をかしげる。
その反応に俺は当惑した。説明をしようと思ったが、彼はまだ子供だった。理解できるかどうか怪しかった。
数秒考えてこう答えた。
「こんな血だらけの人を背負っていたら、みんなビックリするだろ。」
我ながらなかなかの答えだった。
リオの表情を伺った。
彼は一瞬考えこんだが、すぐにわかったようにポンと手を叩いた。
「確かにそれは、びっくりするよ。」
そう言って、彼は腕を組んで考え始めた。そして思いついてパッと顔を上げる。
「いい方法があるよ。」
リオはそう言って、1・2歩後ろに下がり両目を閉じた。そして閉じた左目の上から手を抑えて、右手を前に突き出す。そしてリオが小言で何かをつぶやいた。言い終わると右目を開いた。
初めは何が起きているのが分からなかった。だが少しづつ時間が経つにつれて、背負っていた少女の腕がだんだん薄くなった。そして終いには跡形もなく消えた。
俺は呆気にとられた。必死に目を凝らしたが見えなかった。ただ背中にかかる重さは変わらず感じていた。
戸惑っている俺にリオは近寄る。
「これで大丈夫、もう人目にはつかないよ。」
リオは左目を抑えてた手を外し、微笑を浮かべる。だけど俺には若干の不安があった。
「確かに良いんだが、見えない人を背負うって、難しくないか。」
俺が疑問を述べたが、彼は動じず即答した。
「それはなんとか君のセンスで!」
リオはウインクまでした。
(おいおい。少しはこっちのことも考えてくれよ。)
俺は心底うなだれた。とりあえず一応に納得して、とりあえず見えない彼女をなんとかセンスで背負った。
俺とリオは彼女を連れて、家に向かった。念のため市街地を通らず大きく迂回して行った。途中で落としそうになったが、そこはリオのサポートによりなんとかなった。
家に入ってからすぐにカーテンを閉めて、電灯をつけた。そしてリオの透明の魔法を解いた。
改めて見ると彼女の傷はひどかった。特に一番ひどかったのは翼だった。左の翼は下半分が原形を留めていないほどボロボロになっていた。
即座に手当を始めた。とりあえず傷口を抑えた。運良く消毒液と包帯はあったので、不器用ながらもなんとかなった。
あとは、彼女の熱だった。顔は真っ赤になり汗が出ていた。タオルを水で濡らして、顔の周りを拭いた。そして頭の上に濡れたタオルをおいた。夜通しでできる限りのことはした。
気がつけばもう外が明るくなっていた。今日が土曜日で学校が休みということで少し安堵の息を漏らした。彼女の呼吸は少し安定してきていた。だがまだ熱は引いていなかった。俺の提案で、リオと俺は交代しながら彼女を看病することにした。
この日は一日中看病をした。彼女の顔色は良くなったが、まだ目を覚まさなかった。
夜の11時になった頃だった。リオが予定の時間より早く起きてきた。
「どうした。まだ早いぞ。」
「眠れないよ。」
そう言って軽く目をこすりながら、膝を付きながら歩いてきて、俺の横に座った。
「女の子の目は覚めたの?」
「いや、まだだ。」
リオは静かに息を吐いた。
一瞬の沈黙が流れた。
静かすぎるのは好きではないので、俺は気になっていることをひとつ聞いてみることにした。
「なあ。一つ聞いてもいいか。リオ。」
「ん?いいよ。」
リオは少しだけ俺に近づく。
「昨日の人を透明にする能力の事なんだが。あれは一体なんだ。」
リオは一瞬口を絞ったが、すぐに話し始めた。
「そうか。知らなかったよね。」
ゆっくり俺に目を合わせる。
「アレね。僕の世界には一応魔法があって、あの透明にする能力もその一種だよ。」
へえー。要はリオの世界では魔法が使えるということか。
「なるほど。」
俺は頭で納得し、簡素に答えた。
「なんだよ。驚かないの」
リオが少し口を尖らす。
「いやいや実際見たときは驚いたよ。俺らの世界には魔法がないからな。」
「ほんとにぃ。」
リオが身を乗り出してくる。
俺は顔を上下に振る。
するとリオはクスッと笑う。俺はなんで笑われたか分からなかった。
「何だよ。」
「別に何もないよ。」
リオは笑顔のままだ。
俺はリオから目線をそらした。
しばらくの間、そんなやりとりをしていた。
少し区切りがつき、また新たな質問をする。
「リオの住んでいた世界ってどんなところだ?」
俺は横目で視界に捉えながら聞いた。
「‥‥‥。」
返答がない。
不思議に思った俺はリオの顔を伺った。リオの顔から明らかに笑みが消えていた。急に空気が重くなった。
「ごめん。眠たくなったから、もう一度寝るよ。」
さっと立ち上がり、歩いてソファーに行き、毛布をかぶって横になった。
俺は何も返事が出来なかった。
その後の俺は、正直居心地が悪かった。聞いてはいけない事を聞いてしまったのか。そんな自分への嫌悪感が襲った。
しばらくの間、ボーッとしていた。
急に喉がカラカラになった。立ち上がって台所に向かい、近くにあったガラスのコップを手に取った。蛇口をひねり水道の水をコップの八分目まで入れて蛇口を止める。そしてコップに口を付け、一気に飲み干した。のどにスーッと冷たさが走った。
台所のカウンターから部屋を眺める。
電照はぼんやりと部屋を照らしている。リオと翼の少女は、それぞれ布団とソファーで寝ている。ソファーの後ろの壁にかかっている時計は、夜1時を示していた。
俺はコップを台所に置き、寝ている翼の少女の横に座った。エアコンの暖房の音が静かに鳴り響いている。
彼女はまだ目を覚まさない。静かに寝ている。
俺はさっきの事が有り、あまり落ち着かなった。次第に目の前の視界がぼやけてきた。体力の限界だった。抗うすべもなく、俺は座ったまま深く眠りに入っていった。
「‥‥‥て」
(ん?)
「お‥‥‥て」
体が揺れる。
「起きて!」
声が聞こえた。
俺は重たい瞼を開く。目の前にはリオがいた。体を起こす。頭がボーっとしていた。
ただ次の一言で眠気と頭の重さは吹っ飛んだ。
「あの娘がいないよー!」
俺は目を丸くしてリオの顔を見た。そして目の前の布団を見る。掛け布団が乗っているだけで、あとはもぬけのからだった。
「リオいつ起きた?」
「僕もさっき。」
リオは頭に手を当てていた。
「とりあえず手分けして部屋の中を探そう。」
リオはコクリと頷き部屋を探し始めた。
俺はすぐさま玄関に向かった。玄関の扉は、チェーンと鍵がかかったままだった。
(外には出ていない。)
すぐに部屋に戻った。
するとリオが押し入れの方を指差していた。ガタガタと不審な音をたてていた。
俺は恐る恐る押し入れの扉を開けた。
ズシ!
視界が真っ暗になり、鈍い音と共に顔に激痛が走る。そのまま俺は尻もちをついた。俺の横にはティッシュ箱が転がっていた。
「近づかないで!」
鋭く高い声が部屋に響いた。
痛みでしびれるデコを手で抑えながら、押入れの中に目を向ける。
「こないで。」
翼の少女は後野の壁に張り付き、体を震わせ、目に涙を浮かべていた。
「大丈夫だよ。僕たちは悪い奴じゃないよ。」
リオは一歩、翼の少女に近づく。
「こないで!そう言って私を捕らえるくせに。とにかくここから出して!」
少女はまたティッシュ箱を投げた。リオの頭に直撃し、床に尻もちをつく。俺は拳に力が入る。
「やめてくれ。俺らはお前の敵じゃない。」
「そういう風に言っても私は騙されない。あなたも私を捕まえて何かしようとする人よ。」
またティシュ箱を投げてきた。今度は腕でガードし凌いだ。
だけどこのままだと埒があかない。だけど何て言えばいいんだ。
俺が言葉に困っていた時、リオがムクっと立ち上がった。
「僕たちは、キミが倒れていたところを見つけて、ここまで運んできて、そして傷を治したんだよ。」
リオが真剣な口調で語りかけるように話す。
「トモヤくんもキミの為に、必死に君を助けようと頑張ってくれたんだよ。」
リオは、俺の傍まで寄る。
「助けてくれた?」
少女は目を丸くした。そして箱を投げようとした腕が止まった。
一瞬硬直状態になった。
するとリオはさっと座り、上半身を倒し頭を床に付ける。
「だから君には絶対に危害を加えないよ。」
そんなリオの姿を見た俺もすぐさま土下座をした。
「俺からも言う。絶対に危害を加えない。何も悪いことはしない!」
この対応に、少女はどういう反応したかは、今の角度からだと分からなかった。
ただ床からコトっと音が聞こえただけだった。




