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第3話「その傷口から流れる色は」




 なぜ、今朝ぶつかった交差点へ行かないのかだって?

 その答えはやつの服装にあった。

 ぶつかった時、顔の次に目に飛び込んできた、『I LOVE 万代』Tシャツを着てたからだ(怒)

 あのふざけたTシャツが私の怒りを掻き立てるのは言うまでもない。

 だから、この放課後を使い万代シティへ私はやってきた。

 ここは多くの商業施設の集まるショッピングエリアだ。



 私は万代にある大きな建物内をあの男がいないか見て回った(あのTシャツの販売元も含めて)。

 しかし、建物内には全く見つからない。


「あいつはどこにいんのよ〜」


 ずっと室内にいるのも疲れるので、少し外の空気を吸いに屋外へ出た。

 階段を登り、二階にある広場で座って休もうと空いてる椅子を探す。


「…ん?」


 探し物は必死に探すと見つからず、ふとした時に見つけるというが、私が見つけたものは、空いた席でもあの男でもない。



 

 頭のない白く光る『ヒトの形をしたモノ』だった。




「動いてる………」


 それが最初の感想だ。

 知らない、分からない、どうして、何が起きてる、どうすればいい

 私は吸い込まれるようにその物体に気を注ぐ。

 でも、何も帰ってこない。

 その情報を私が理解しようとしない。

 それは光る蛍光灯をぼーっと見ているようで、私を殺そうとする重厚な光が眼瞼を焼き切り、強制的に瞳を掌握するかのような感覚。

 その物体もゆっくりと、でも確かなヒトの歩みでこちらに近づいてくる。




 私が静寂に包まれる。

 それを見つめることしか、できない。




〈頭のない白い物体が弾け飛ぶ〉


「!?」


 静寂の中の私の耳が久しぶりに聞いた音はその物体が吹き飛ぶ音。

 その物体は後ろへ吹き飛び、ビルの壁にめり込んでいる。

視線を下に向けると、そこにはあの男がいた。


「…ペッ」


 男は唾を吐いた。

 でも床を見ると、そこには明瞭な赤色が飛び散っていた。


「あちこち逃げて、今日のは面倒だなぁ…そろそろ決着つけないと」


 男は私の前に降り立ってから、一度も白い物体から目を離さない。

 白い物体もめり込んだ壁からそろそろ抜け出そうとしている。

 男はしゃがみ、両手を地面につける……

 

「うんッ!!!」


 男は一直線に物体へ飛びかかり、物体もさらにビルを凹ませ、男に飛びつく


〈ビルの壁、地面を経由し、空中で蹴り・殴りを連発し合う〉

 

 私はただ、その場に立ち尽くすしかなかった。

 妙な感覚だ。

 あの男と物体がぶつかるたび、体がゾワゾワする。

 感覚が敏感になっている?

 いや、掌握されているんだ。

 曲げている?伸びている?そもそも地面についている?

 歩き出そうにも今自分の足がどんな状態かわからない。

 だから、動けない。


〈攻撃が落ち着く〉


 両者がゆっくりと歩き出す。

 白い物体は人の座っている椅子やテーブルをすり抜けるように一直線に、対して男はそれらの間を避けるようにして歩いている。

 だが、この場において共通していることがある。

 ここにいる人間全員がこの異変に何の反応も示さないことだ。

 まるで、それが日常のように。

 異変に囚われているのは、私だけ。


「…ん?」


 男が私に気づいたようだ。

 先程まで明確な殺意を向けてきていたあの物体が血相を変えてこちらへ歩き出す。


「あの子、どこかで………!!!!!」


 気づくのが遅かった。

 男が少女に目を向けた瞬間には物体は少女目がけ、猛進していた。

 すかさず男も最短距離最高速度で向かう。

 

(迂闊だった、このバケモノに逃げられないように気を削ぎすぎた)


 白い物体がどんどんと少女に接近する。

 少女は依然として動くことができない。


(間に合わない!どれだけ速く近づいても拳一つ分俺の方が遅く到着する!!何か手は?数センチでもいい、ヤツの位置をズラせる手は)


「!!!」


 次の瞬間、少女が吹き飛ぶ。

 物体の拳は彼女の頬を掠め、あとは空振りに終わった。

 男はわずか0.7秒の間に解決策を考え抜いた。

 彼の出せる瞬間最高時速は物体のそれより劣る。

 だがそれはあくまで彼の肉体の最高速度。

 彼もとい彼らの扱う『気』は条件こそあれど音速に近い速度を叩き出す。

 そこで彼は一瞬だけ出力を高めた気を解放し、『気迫』を作り出した。

 こんなものがあのバケモノに通用するはずもない。

 ましてや周りにいる人間にも何の影響も与えない。

 しかし、微量ながら体内に気を流した少女にはどうだろう。


「おらッ!!!!!」


 物体に追いついた男は拳を横に勢いよく振り上げる。

 上空へ撃ち飛ばされた物体はそのまま逃げるようにビルの間に消えて行った…


「また逃げられたか………さてと…」


 少女の安否を確認するため、後ろを振りむく。

 が、そこには誰もいない。


「?………!?」


 気迫で飛ばしたとはいえ、あの物体の拳に比べれば、横に突き飛ばした程度の威力だったはず…

 戦闘中のように思考速度を速めずとも、結論は誰でも簡単に導き出せる。


「こっちにも逃げられた!!」




 一体何だったの!?

 私は走りながら今頭の中で散らかっているものを整理しようとしていた。

 一歩も動けなかった。

 全ての感覚が私の管轄下から離れた。

 おそらくこれを『気が動転した』というのだろう。

 でもなぜかは知らないが、あの物体が私に触れる直前に体を横から誰かに押されたような感覚が頭に入ってきた。

 気づいた時にはあの男が目の前にいて、物体が逃げていくのを見てた。

 せっかくあの男を見つけ出せたけど、あんな暴力的なシーン目の前にして「次はお前だ」なんてもし言われたら、逃げ出すしかない。

 そう、戦略的撤退だ!




「ふぅ…」


 二つの建物を繋ぐ橋の上で、私は橋の下の道路の消えかかった白線を見ながら一息ついていた。

 瞼を下ろし、暗闇の中で冷静に考えると、あの場面がはっきりしてくる。

 彼は私を守ろうとしていた。

 あの白いやつの攻撃をくらってたら、私の命はどうなっていたかわからない。

 謎の白いやつの正体、なぜ戦っているのか、あの力は何なのか。

 私の脳がそれらの情報を欲しているのがひしひしと伝わってくる。

 もう一度、あの男に会わなければ。

 会って話を聞かないと。

 そう思い、私は瞼を持ち上げ目線を上げる。


「みーつけた♡」


 目と鼻の先とはこのことか。

 気づかないうちにあの男が目の前でニヤけ顔をしている。

 ………。


「ギャァァァァ!!!!」


 反射的に彼を突き飛ばす。

 飛ばした先は橋の下、道路だというのに。

 どうも気になっていたが、私の緊急時の咄嗟の殺意はどうやら凄まじいらしい。

 暗殺者も目を見張るほどだろう。

 男は握っていた手すりをあっさりと放し、下へと姿を消す。

 恐る恐る橋の下へ顔を出す。

 しかし、彼はいない。


「びっくりした〜」


 私はびくっと震える。

 その声は後ろの方から聞こえてきた。

 振り向くと彼がジト目でこちらを見ている。

 

「しぶといな」

「マジで殺す気で突き落としたの!?末恐ろしい…」

「そんなことより、説明してもらおうじゃない。この体に起きた異変をね(怒)」

「ん?…これは」


 男が詰め寄ってくる。


(ち、近い…///)


 彼の唇に、また目が止まる。

 端には血が滲み、赤く染まっている。

 近くで見ると顔中に小さな傷跡がいくつかあり、これまでの戦いの様子を表明している。


「これは……気が溜まってる…よりにもよって………」

「どういうことよっ」

 

私はぐいと彼の顔を押し放し、詳しく聞く。

彼は真剣な顔で私に聞き返す。


「今日一日おかしなことなかった?」


 顔を突き放す私の手に、抗うように顔を戻そうとする。


「体がいつもより軽やかだったり…やけに感覚が敏感になったり」

「質問に質問で返さないで!って…確かにそうだけど」

「多分、今朝君とぶつかった時に俺から君に流れ込んじゃったのかも…でも体が触れたくらいで流れ込むようなものじゃ……そんな、まさかこれが…」


 私は押し離す力を弱め、先ほど至った結論を口にする。


「…したからでしょ」

「ん?何?」


 私のか細い声が彼の耳まで届ききらずに消える。

 本当に言わなきゃいけないのか?

 

「だから!///…キス、したからでしょ…」

(ああああ〜恥ずかしい!//何でこんなこと私の口から言わないといけないの!!)

「…」


 男は少し考える素振りをして真っ直ぐな目で私を見る。


「キスって、何?」

 …

 …

 …

「……………え?」

「え?」


 この男は何をほざいている?

 キスを知らない?

 箱入りのお嬢様ですら、この程度のこと知っているぞ…

 ………多分。


「初めて聞く言葉だ…どう言う意味?」

「ええっ!?///」


 男はそういうと、真剣な顔を真っ直ぐこちらに向けてジリジリと私に近寄ってくる。

 私も後ろに後退りして彼と距離を取ろうとする。

 が、しかし橋の手すりにもたれ掛かり、行き場を失う。


「えぇと…だから、その……」

「ふむふむ」

「二人の……人が……く、くく口を、その…///」

「口?」


 また彼の唇に目が吸い込まれる。

 顔に血がのぼって熱い。

 どうかしちゃったのか?私は……


「ああああ!!そんくらい自分で調べろォーー!!!」


 バシィィィン!!という音と共に私の平手が彼の頬に炸裂する。

 男は「グハァ…」という気の抜けたような声で地面へ倒れ込む。

 もちろん、周りを通っていた人々は一斉にこちらを向く。


「え?何々?」

「何だろう、あれ…」

「修羅場?」

「あの子、顔真っ赤だよ?」


 男は倒れたまま私の足首を掴み、「頭に響く…そ、それより…き、キス…キスを……」とうめき声をあげている。

 私も思わず「いやァァァ!!」と叫んでしまう。


「違う!あれは修羅場なんかじゃない!痴漢だ!!」

「何!?痴漢!?」

「確かにあんなに顔を赤くして涙ぐんでる女の子にしがみつくなんて!!痴漢しかないわ!」

「誰か!誰か警備員さん呼んで!!」


 私は恥ずかしさと周りの騒がしさに当てられ、パニックになり、そのまま走って逃げてしまう。


「こら!!JKに向かって何してる!!」

「痴漢容疑で逮捕だ!!」


 二人の警備員に取り押さえられているのが声を聞いて分かった。

 パニックになりながら全力で走る私の耳にも唯一届いた言葉があった。


「痴漢って何だーー!?!?」




謎の白い物体…。

名前だけ聞けば相当まずい響きをしていますが、なんたって光を放ってますからね…。

放ってるのは光だけかい?ってのは野暮なもんで。

白という色はなかなか見た目に反して深いものを感じさせますよね。

「白衣高血圧」なんてものもあったりして、白衣を着た医者やナースを前にすると緊張して血圧が上がってしまうんだそうで、最近ではナースさんも薄ピンクなどの温かみのある色を着てらっしゃいますよね。

あの男の子は何者なんでしょうね?

やはり男というべきか、白いものへの対処は手慣れていそうでしたが…。

キッスと知らないと来ましたか……。

純白を装ったってそうはいきませんよ!?


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