第10話「鉄屑の風車①」
テネルが立ち去ろうとした瞬間、あたりが暗闇に呑まれる。
私たちを照らしていた朝日の熱が遮られ、風のそよめきを籠らせる。
混乱状態にある私とは裏腹にテネルとヒビキは各々戦闘体制に静かに入る。
サヤ「これは…」
テネル「何者かの原創に取り込まれたな。ヒビキ、お前の大事なもんしっかり守っとけよ」
ヒビキ「言われなくても」
今この中には静寂に沈む闇しかない。
おそらく、何かしらの次の一手が来るはずだ。
それまで意識が少しでも綻びを見せないよう、二人は集中をやめない。
ゴロゴロゴロ…
闇の中から、唸り声のようなものが聞こえ、大きな一匹の獣が姿を現す。
私たちをしっかりととらえた獣の目がカッと大きく開き、咆哮とともに飛びかかってくる。
テネル「散れ!」
〈テネルが鉄の嵐を起こし、獣に鉄釘を突き刺すと、身動きが取りづらくなったようだ〉
ヒビキ「ッ!!」
〈身動きの取れない獣に向かい気の結晶を握った拳を爆発させ、爆風と共に気があたりに飛び散る〉
サヤ「すごい…」
テネル「これで終いか?ちゃっちぃなぁ、ハッハッハッ!」
しかし、彼女が気を緩めた一瞬の隙だった。
ヒビキ「!、テネル!!」
彼女の背後に本体であろう示神が現れ、彼女の体に飛びつく。
反応が遅れ、手も足も出せず、示神はテネルに憑依するように姿を消した。
テネル「ぐっ…」
サヤ「テネル!?大丈夫!?」
テネル「シクったな…あの毛玉は囮かよ…倒した衝撃で気を撒き散らして流れをかき消したな、へへ…やられたぜ」
テネルは余裕そうに話すが、姿勢を低くし顔を顰めて苦しそうだ。
ヒビキもテネルに駆け寄り、どうするべきかと思案する。
サヤ「ど、どうしよう…ヒビキ」
ヒビキ「…虚玄の気だ。快月、テネルに気を流し込んで!示神の体内に虚玄が流れ込めば拒絶反応が出て、分離するはず」
サヤ「でも、そんなことしたらテネルが…!!」
テネル「へへっ…大丈夫だサヤ。やってくれ」
サヤ「でも…」
テネル「示神ってのは人間よりも単純だ。強いやつが弱いやつを制する。アタシの体を未だに乗っ取れてねぇこいつより、アタシが先にへばるわけねぇ。そう言いたいんだろ?ヒビキ…」
ヒビキ「ごめん、俺の油断のせいだ」
テネル「どっちかっつうとアタシのせいだろ、いや過ぎたことはもういい。サヤ、やってくれ」
サヤ「…うん」
〈テネルの手を握り、深呼吸して気を流し込む〉
テネルの体が青白く光り、苦しいのか先ほどよりも顔を顰め、小さく呻きをあげている。
こんなにも心苦しいことはない。
どうか早く終わってくれと私は願う。
テネル「ああっ!!」
ヒビキ「出た!」
一際大きく声を上げると同時に強制的に分離した示神が出てくる。
ヒョロリとした男のようで、陰湿な笑みを浮かべて、私たちから逃げようとする。
示神「シシシッ…」
ヒビキ「逃すかよ!」
〈逃げようとする示神に拳を振り下ろす〉
示神「原創、我はここに定める」
ヒビキ「!!!」
突如、あたりの暗闇が白くのまれ、視界を奪う。
憎たらしい示神の笑みが最後に聞こえ、新たに創造された世界に、私たち三人は呑まれるのだった。
ー
一つの拳が空虚に終わる。
向ける先のなくなった拳は静かに解かれた。
気がつくと、私たちは見知らぬゴミ山の上に立っていた。
ヒビキ「ここは一体…」
テネル「アタシが元居た世界…いや、原創の中だよ」
私はまだ足取りのおぼつかない彼女を支えながら一緒に立ち上がる。
テネルは立ち上がる時も少し息を張って辛そうにしていた。
テネル「サヤ、ありがとな。もう一人で立てる」
サヤ「ごめんね…テネル」
テネル「なぁに言ってんだよ!お前のおかげであのクソゴミ野郎をアタシと分離できたんだろ?気にすんな。まぁ、さっきよりも面倒なことにはなったがな…」
ヒビキ「ここがテネルが元々居た原創なら、テネル自身にしか作れないはずだよね」
テネル「さぁな、さっきアタシの中に入った時に記憶でも抜き取って再現したんだろ。あのレベルの雑魚じゃ、こんなしっかりした原創を維持できるハズがねぇ。いいとこアタシの記憶をそのまま原創に落とし込んだってとこだろうよ」
ヒビキ「…それなら可能かもね」
サヤ「ここが、テネルが暮らしてた場所なの?」
周りを見ても一面瓦礫で埋め尽くされ、人間の生活している面影は感じられない。
空は鉛色の厚い雲が覆い、遠く先の景色を霞めている。
テネルはあたりの景色を一周見て周り、言う。
テネル「ふーん…いやこれは全てが終わった後だな」
ヒビキ「全てが…」
サヤ「終わった、後?」
テネル「多分、今あのクソゴミ野郎がアタシの記憶を漁りまくってるハズだ。そのうち最初からになんだろ。おそらくアイツはこの世界の誰かに自分を置き換えて現れる。まぁ誰になるかは大体予想はつくが…」
テネルはそういうとどっこいしょと効果音がつきそうな動きで地面の瓦礫に座り込む。
私たちは座り込んだテネルの背中を見下ろして困惑の顔を見合わせるしかできない。
テネルは目を閉じて、息を深く吐き出し、ゆったりと生ぬるい風が遠くからやってくるのを感じ、私たちに語りかける。
テネル「すまねぇな二人とも。ちとつまらねぇ昔話でも聞く感覚でいてくれ。………後は、アタシがやる」
テネルがいつもより少し低く、重たい声で私たちに話し終えると、遠くから大きな風壁が迫ってくるのが見える。
どうしよう、と少し震える私の手をヒビキが無言で握り、大丈夫だよ、と囁くようにこちらを見てくる。
私も彼のその行動に取り乱すのを抑え、深呼吸をする。
その様子を後目でチラリと覗いたテネルは優しい笑みを浮かべて前を向き直し、迫り来る壁を堂々と待ち構えるのだった。
また、ここに帰ってきたよ。レジーさん。
へそっていいですよね。
なんかこう…深淵?というか生物の根源的なものを感じますよね。
へそを中心に腹直筋が走行して、それに伴って全体的に丸みのあるお腹に陰影が付け加えられます。
人間の目も平坦な場所に1つの点があれば、自然とそこに目線が動きますから、へそへの執着は自然な流れですええ、その通りです。




