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【09】二人の鍛錬

「ゼイン、それだけか。それだけなら、俺は失望するぞ」


アリステアは、アーチーの言葉の意味を考えたが、分からなかった。

しかしゼインは、すぐに顔をしかめて言った。


「くそっ、分かっているよ。俺の油断だ。

相手が防具を着けているにもかかわらず、いつものつもりで腹を打ちに行ったからな。

防具の上から木剣を入れたところで、それほど効果のある打撃を与えることはできなかっただろう」


「そうだな。相手は大柄で、隙が多く見えたはずだ。

だが、あいつがわざと腹を狙わせるように隙を作っていたことに、気づかなければならなかったな。

何のために防具を着け、盾を持ったのかを考えれば分かるはずだ。

しかし、まだ足りんぞ」


ゼインは少し考えた。


「防具を着けているところを狙ったことか」


確信はなかったが、自分が倒された理由から考えれば、狙う場所が悪かったのかもしれない。


「そうだな。

これまでは街のならず者や、同年代の少年たちを相手にしていれば無敵だったかもしれん。

だが、この先さらに成長したいのであれば、防具で守られていない部分を見極めて打ち込む必要がある。

完全防備の騎士を相手にしたら、今の戦い方では歯が立たんぞ。

他に、気づいたことはなかったか」


「体格差を戦いの中で考えていなかったかもしれん。

さっきのように、お互いに木剣を交えるのではなく、体格差で押されると、俺には打つ手がない」


「そうだ。

相手も剣で応じてくるなら、体格差があっても、お前の剣技でそれなりに戦うことも牽制することもできる。

だが、剣を交える気のない、体格差のある相手との戦い方は、まるで素人だったな。


剣に頼りすぎだ、ゼイン。

剣術だけでなく、体術も覚えないと長生きはできんぞ。


さっきまでしていた素振りを見て思ったが、実際の相手を思い浮かべ、戦うつもりで剣を振るのはいい。

だが、実戦を想定しているというなら、まだまだ足りない部分がある。


それにな、実際の戦場では、普段とは違う重い空気に呑まれて、思うように身体を動かせないこともある。

それに防具を着ければ、今までと同じようには動けん。

防具を着けた状態でも動けるよう、普段から防具を着けて素振りをしておくといい」


「ああ、分かったよ」


「なんだ、ゼイン。

えらく嬉しそうな顔をしているじゃねぇか」


「やることがまだまだあるからな。

これまでのことが間違っていたと言われたわけじゃないのは分かった。

これまで知らなかったことを覚えれば、もっと強くなれるってことだろう」


「お前は前向きだな。

ゼイン、これからは毎朝、船員たちと稽古をすればいい。

皆には俺から言っておく」


「ありがてぇ」


ゼインは右の拳を左の手のひらに打ちつけ、大きな音を響かせた。


「ゼイン、明日からは体術も併せて学ぶことだ。

それと、船上での戦闘では大振りを避けろ。船が揺れた瞬間に手元が狂って、逆にやられることもある。

剣だけに頼らず、体術も使って相手の体勢を崩せ。

馬に乗って戦う時も、自分と相手の体勢を意識することが大切だ」


「さすがは、表向きは商船の船長のアーチーだ」


ゼインは、ナホトカで海賊を討伐できる数少ない一人であるアーチーをからかった。


「この船以外で言うなよ。

海賊たちも頭が悪いわけじゃねぇんだ。あらゆる港町で情報を集めているからな」


「わかったよ」


ゼインはそう言って、その場を離れた。


残されたアリステアに向かって、アーチーは言った。


「構えてみろ。俺が見てやる。打ち込んでこい」


「はい!」


アリステアは木剣を構え、アーチーに挑んだ。


しかし、全く歯が立たなかった。


何度打ち込んでも通用しないというのに、アリステアは楽しそうだった。

不思議と、その時間は楽しくて仕方がなかった。


アリステアは両膝をつき、肩で息をしながら、今の自分には越えられない壁のようなアーチーを見上げた。


アーチーは落ち着いた声で、言い聞かせるように言った。


「アリステア、最後になぜ木剣を落とした。

ゼインなら、どんなことがあっても木剣を手放すことはなかったはずだ。

戦場で剣を手放すことは、命を落とすことと同じだぜ。


死力を尽くして戦ったから、それでいいと思うか?

そんなわけはない。

最後は、生き残らなければならない。

どんなに無様でも、生き残ることが大切なんだ。


ゼインと、ずっと一緒にいたいのだろう」


アリステアもゼインも、まだ実際の戦場に出たことはなかった。

しかしゼインは、アルクたちに鍛えられたことに加え、日常的に喧嘩をしていたため、それなりの度胸があり、場数も踏んでいた。


一方のアリステアの剣術は、まだ稽古の域を出ていなかった。

アーチーの言葉を聞いて、自分が剣術を命のやり取りとして考えたことがなかったことに気づいた。


「アリステア、相手を見ることも重要だし、相手に合わせて変化することも重要だ。

だが、最も大切なのは、自分が自信を持てる部分を作ることだ。


ゼインよりも大柄なお前は、一人で鍛える時には木を叩け。

どれだけ強く打ち込んでも木剣を落とさないようになるまで、硬いものを叩き続けろ。


一般的には、打撃の衝撃で剣を落とさないよう、無意識に力を加減するものだ。

だが、お前は全力で振り抜いても武器を手放さないようになれ。

そうすれば、剣でも槍でも、お前の体格と力そのものが武器になる。

相手がどんな奴であっても、自信を持って立ち向かえるようになるだろう」


アーチーは、両膝をついて肩を落としているアリステアに声をかけた。


「落ち込む必要はないさ。今気づいたことは、明日からやればいい。

お前たちには、まだまだ時間がある。

お前たちの時間は、これからだ」


アーチーは、二人と過ごす時間が楽しかった。

二人は未来を恐れることなく、ひたむきに前を向いていた。

その姿は、かつての自分を思い出させた。


自分にも、こういう時期があった。

まだ何者でもない自分に気づき、何者かになりたいと願っていた。


自分にできることなら、できる限り手伝ってやろう。

【外伝】ナホトカのゼイン・アグリウスは、全十一話となります。

本日中に全話投稿予定です。

順次投稿していきますので、ブックマークをしてお楽しみいただければ幸いです。

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