【07】 アーチー・ドレイクとの約束
「それよりゼイン、今後どうするつもりだ?
この船はウルク王朝のドゥブロヴニクを経由して、最終目的地をザルツ帝国としている。
このままずっと俺の船に乗っていても構わんぞ。
そうするなら、ナホトカでの悪名は必ず晴らしてやる」
ゼインは不満そうな顔をしていたが、アーチーは気に留める様子もなく続けた。
「ゼイン、俺だぜ。やろうと思えば何とでもしてやるよ。
で、俺の船に乗るか?」
「いや、今回はやめておく」
「なんだよゼイン、今の流れなら俺の船に乗る話になってもいいんじゃねぇか」
「今、あんたの船に乗ってしまうと、居心地が良すぎて、あんたの側から離れられそうにない。
あんたは俺を待ってくれるんだろう。
なら今じゃなく、この先、俺があんたを必要とした時にそうしたいと思う」
「いいねぇ、ゼイン。男前な答えだ。
好きな港で降りればいいさ。
降りる場所が決まったら、そこにいる俺の知り合いを紹介してやるよ。
言っておくが、どの港でも俺の顔は利くから安心しな」
「アーチー、感謝するよ。
俺が偉くなったら、あんたを一番に迎えに行くから待っていてくれ」
「そうだな。
俺は陸の上より海の上が好きだから、お前が偉くなって、海の男が必要になった時は声をかけてくれ」
「ああ、そうだな。約束する」
ゼインとアリステアが部屋を出ようとした時、アーチーがアリステアを呼び止めた。
「アリステア、少し話をしてもいいか?」
そう言ってアーチーがゼインに視線を向けると、ゼインはその意図を察したようにうなずいた。
「わかった。先に出てるぜ」
ゼインはそう言い残し、静かに部屋を出ていった。
「アリステア、お前もゼインと一緒に船を降りるのか?」
アリステアは、なぜそんなことを聞くのだろうと思った。
「そのつもりです。そのために家を出てきましたから」
「そうだよな。そのつもりで家を出てきたんだもんな。
お前は、死ぬまでゼインと一緒にいるつもりなのか?」
「自分もゼインも、死ぬという姿が想像できません。
ですが、ずっと一緒にいるつもりです」
アリステアの答えを聞いたアーチーは、ゆっくりとうなずいた。
「これは、お前に対する助言だと思ってくれていい」
そう言って、アーチーはアリステアの顔を見た。
「お前はゼインに取り込まれている。
まだ十五歳のお前が、一歳年上のゼインに憧れる気持ちは分からんでもない。
しかし、自分を大切に育ててくれた家族を残してまで、ゼインについていくというのは、そうだな、正しいことではないだろう。
この船に案内したのは確かに俺だ。
だが、あの場で俺がお前を突き放したとしても、お前は必死になってゼインの乗っている船を探したはずだ。
そして、あのままゼインを見つけられなければ、きっと自分を許せなかっただろう。
あの時のお前は、俺にそう思わせるほど必死だった」
アーチーは一度、言葉を止めた。
どこまで、どのような言葉で伝えるべきか迷った。
しかし、ゼインの時と同じように考えることにした。
まずは、考えるために必要なことを伝える。
それをどう受け取り、どのような答えを出すかは、アリステア自身の問題だった。
「お前はそこまで必死になって、ゼインについてきた。
だが、お前にとって何より大切なゼインから「お前は必要ない」と言われた時の自分を、想像したことがあるか。
お前を不安にさせたいわけじゃない。
自分が今、どんな状況にいるのかを考えてもらうために言っているだけだ。
今は、ゼインと一緒にいればいい。
だが、この先もずっと今の距離のままでいるのは、俺には危うく見える。
近い将来、一度ゼインと離れてみることを考えた方がいいだろう。
この先も長く一緒にいるつもりなら、短い期間でも別々に過ごすことが、どれほど大切か俺は知っている。
お前から離れようと言われれば、ゼインは悲しむだろう。
だが、離れて初めてわかることもある。
そして再会した時には、今よりもっと強い関係になっているかもしれない。
お前たちより長く生きてきた人間の言うことだ。
心に留めておいてくれ」
アリステアは、初めにアーチーから「助言だと思ってくれていい」と言われていなければ、そんな馬鹿なことがあるはずがないと思っていただろう。
ゼインとの関係をどうするかは、自分たち二人の問題だとも思った。
しかし、アーチーはナホトカでも名の知れた船長である。
そんな男が、何の理由もなく自分を不安にさせるような話をするとは思えなかった。
まして、そうすることでアーチーが得るものなど何もない。
だからこそアリステアは、その言葉を簡単に聞き流すことができなかった。
「アーチー船長、助言ありがとうございます。
今すぐに行動を起こすつもりはありません。
けれど、これから先、その言葉がどんな意味を持つのかを考えていきます。
そして必要な時が来れば、今日の助言を思い出します」
「アリステア、お前はいいな。
人の言葉を真剣に受け止め、自分で考えようとするところが気に入った。
これまではゼインの友人で、十五歳の少年として見ていたが、その見方は改めるよ。
アリステアという一人の人間として、俺は付き合っていくつもりだ。
ゼインとこの船を降りるまでの付き合いかもしれんが、今後困ったことがあれば、俺の名前を使ってくれていい。
お前には、それだけの値打ちがあるだろう」
「ありがとうございます。私はアーチー船長の後ろ盾を得たと考えてよろしいですか」
アリステアは、言葉を変えてアーチーの意図を確かめた。
アーチーは嬉しそうに笑って言った。
「確認するまでもない。
このナホトカのアーチーは、お前だけでなく、ゼインの後ろ盾にもなってやるよ」
アリステアは、アーチーに丁寧にお辞儀をした。
アーチーの気持ちを嬉しく思うと同時に、先ほどの助言をもう一度心の中で思い返した。
【外伝】ナホトカのゼイン・アグリウスは、全十一話となります。
本日中に全話投稿予定です。
順次投稿していきますので、ブックマークをしてお楽しみいただければ幸いです。




