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【06】 ゼイン・アグリウスの悪名

ゼインと赤毛の少年アリステアを乗せた船は、無事にナホトカを出航した。

アーチーは船員たちに次々と指示を飛ばし、船員たちはそれに迷いなく応えていく。

その姿を、ゼインとアリステアは憧れのまなざしで見つめていた。


数十人の船員を率いて大きな船を自在に操るアーチーは、ナホトカで見ていた気さくなおやじとは、まるで別人のように見えた。


外洋に出て海が落ち着いた頃、二人の少年はアーチーに呼ばれ、船長室へと入った。

ゼインが興奮気味に言った。


「何度見ても、洋上のアーチーはさすがだな。

あんたの船に乗せてもらうのは三度目だが、操船の技術には頭が下がる」


アーチーは笑って答えた。


「おっ、ゼインには俺の素晴らしい技術がわかるのか」


「すべてがわかるわけじゃないが、他の船長と比べると、指示と動きに無駄がないように見えた。

多分、気にしている部分が違うんだと思う。どうなんだ?」


アーチーは、船上での経験が浅いゼインの感想に驚いていた。

経験を積んだ者ならわかる違いでも、慣れない者には同じようにしか見えないものだ。

だが、ゼインは違っていた。


うまく言葉にはできていないが、確かに本質を捉えている。

それを説明しきれないのは、単純に経験が足りないからだ。

この先、船の上で多くを学べば、いずれ自分を超える船長になるかもしれない。

アーチーは、そんなことを考えていた。


「一番の違いはな、俺の船の乗組員が優秀ってことかな。

他の船長がこの船に乗れば、きっと自分が上手いと勘違いするだろう」


アリステアは、二人のやり取りを黙って聞いていた。

だが、何にそれほど関心を示しているのか、よく理解できなかった。


その様子に気づいたアーチーが、笑って言った。


「ゼイン、お前の友達は、俺たちの話がわからんって顔をしてるぞ。

後で何の話をしてたか、きちんと説明してやれよ」


アーチーの言葉に、ゼインはアリステアの方を振り返り、「後で説明する」と短く言った。


「さて、ここからが本題だ。

ゼイン、無事にナホトカを出られたわけだが」


「ああ。あんたの言うことを聞いて正解だった。

それで、あの後どうなったんだ?」


アーチーは目を伏せて答えた。


「残念な知らせだ。

出航するまでは黙っていたが、アルクは捕まった翌日に処刑されたそうだ。

仲間たちも同じだ。

ただ、全員が捕まったわけじゃない」


ゼインは、その話を静かに聞いていた。

結果は予想していた通りだった。

できることなら外れてほしいと思っていたが、そうはならなかった。


「それで、皆が処刑された理由は何だったんだ」


「お前なら、ある程度は察しているんじゃないか。

領主が急に手のひらを返して、アルクたちを捕らえた理由だ」


「領主の娘の件なのか」


「知っていたのか」


「顔見知りの奴に少し聞いた。

しかし、ひでぇ話だ。

今回の件に限れば、俺たちは何も悪いことをしていない。

それなのに、アルクの親父も仲間も処刑されるなんて、どうなってんだよ」


アーチーを責めても仕方がないことは分かっていた。

それでも、胸の中に込み上げるやるせない気持ちを抑えることはできなかった。


「まだ続きがあるんだが、聞くか?」


「続きだと?」


「ああ」


「何があった?」


「アルクが処刑された翌日、領主が殺された。


今回の件を知っている者なら、領主側に非があることはわかるだろう。

今までさんざんアルクたちから金を巻き上げてきたんだ。

娘のことで頭に血が上って、アルクと娘に手を出した男を処刑した。


だが、お前を含め、アルクの仲間には何人も逃げられている。

生き残った者から復讐されてもおかしくない」


「まあ、誰がやったかは知らねえが、仲間の誰かがやったのなら、少しは気が晴れるぜ」


「何を他人事のように言っているんだ。

ナホトカの噂じゃ、ゼイン、お前が殺したことになっているんだぞ」


「俺がだって?

アーチー、お前も知ってるだろ。

出航するまで、この船から一歩も出てねぇってことを」


「ああ、知ってるよ。

だが、ナホトカの連中も領主の兵たちも、お前がどこにいるのか知らなかった。

そこへ領主が殺されたもんだから、ゼインならやりかねないって噂が広がったんだ」


「おいおい、アーチー。

こんなままだと、俺はナホトカに帰れなくなるじゃないか。

それに、殺してもいない人間を俺が殺したってことになってるのか?」


「ああ。名誉なことじゃないか」


「どこが名誉なんだよ」


「領主はアルクたちを処刑した後、警備を強化していた。

その厳重な屋敷に忍び込んで領主を殺せるのは、ゼイン、お前くらいしかいないって噂されているんだ」


「アーチー、冗談はほどほどにしてくれ。

このままじゃ、俺は領主殺しで指名手配されることになるぞ」


「心配するな。ここに乗っている連中は、お前がやったとは思っていない」


ゼインは顔をしかめて詰め寄ろうとしたが、アーチーがすぐに手を振った。


「こうして船も出ている。今さら街に戻ることもできん。

諦めるしかない。

それに、出航前に街へ戻って『俺は領主を殺していません』と主張したところで、捕まって処刑されていただろう。

今度ナホトカへ戻った時には、お前を乗せていたって話をしてやるよ。気が向いたらな」


言い方は軽かったが、その言葉の裏には覚悟があった。

ゼインは苛立ちを覚えたが、冷静に考えれば、この状況を受け入れるしかなかった。

アーチーも、表立って自分を庇えば立場が危うくなる。

それでも船に匿い、ナホトカへ戻れば自分を乗せていたと証言すると言ってくれている。


アーチーは軽く笑って肩をすくめた。


「まあ、お前はやっていないんだ。今は気にするな」


ナホトカに戻った時は、街の様子を見てから話すつもりだった。

その頃には、真犯人が捕まっている可能性もある。

そうなれば、わざわざゼインを乗せていたと証言する必要もないだろう。


それでも今のうちに伝えておいた方がいいと、アーチーは考えていた。

どう受け取り、どうするかはゼイン自身が決めればいい。


そこまで聞いたゼインは、しばらく考えた後、ふっと肩の力を抜いた。


「アーチー、もういいぜ。

そういうことなら、領主を殺したのは俺ってことでいい」

【外伝】ナホトカのゼイン・アグリウスは、全十一話となります。

本日中に全話投稿予定です。

順次投稿していきますので、ブックマークをしてお楽しみいただければ幸いです。

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