【04】アーチー・ドレイクとの出会い
アリステアに会った後、ゼインは埠頭に向かった。
石造りの階段を降り、停泊している船を見渡した。
夜に出港する船はないが、朝一番で出る船があるはずだ。
潜り込んでしまえば、何とかなる。
そう思い、足を早めた。
すでに積み込みを終えている船は、荷の重みで船体が深く沈んでいる。
それを目印にすれば、明朝に出港する船を見つけられるはずだ。
暗がりの中、ゼインは一隻ずつ確かめていった。
その時、背後から声がした。
「ゼインじゃねえか。大丈夫だったのか。アルクの所は大変なことになってるぜ」
声を掛けてきたのはアーチーだった。
四十代半ばの引き締まった体つきをした男で、商船の船長だった。
彼の船は外洋にも出られるほど大きく、海賊との戦いにも耐えられるように造られていた。
乗組員は気の荒い男ばかりで、先日も海賊を返り討ちにしたと噂が立っていた。
ゼインは、アルクの屋敷で起こった出来事を短く説明した。
「ひでぇ状況だった。だから逃げてきた。明日一番で出る船を探している」
話を聞き終えたアーチーは、深くうなずいた。
アーチーは普段からゼインに「早く船乗りになれ」と言っていた。
いつものゼインはその言葉を軽く聞き流し、「船乗りにはならないぜ」と笑って返すのが常だった。
そんな遠慮のいらない関係だったからこそ、ゼインもアーチーには隠し事をしなかった。
もっとも、アーチーの船は三日前に入港したばかりだ。
すぐに出港するとは思えず、当てにはしていなかった。
「俺の船に来るといい」
「いや、時間が惜しいんだ。このままだと俺も捕まっちまう。
何一つ悪いことをしていないとは言わねえが、すぐに牢屋行きになるような覚えもねえ。
お願いだ、明日の朝一番で出る船を紹介してくれ」
「おっ、あのゼインが俺に頼みごとをするとは、気分がいいな」
そう言って笑ったアーチーだったが、ゼインの焦った様子を見ると表情を改め、その肩に腕を回した。
「今夜は俺の船で休め。埠頭でうろついて見つかるよりはましだ」
ゼインは一瞬ためらったが、すぐにうなずいた。
今のゼインに、その申し出を断る理由はなかった。
冷静に考えれば、アーチーの言う通りだった。
海賊さえ恐れない彼らに、ナホトカの兵士も簡単には手を出せないだろう。
領主とて、武装した商船の乗組員と争いを起こしてまで、自分ひとりを追うとは思えなかった。
「アーチー、すまない。しばらく厄介になる」
「俺から誘ったんだ。気にするな」
アーチーは片目をつぶって見せた。
その軽い仕草と気さくな言葉が、彼の人柄をそのまま表していた。
ゼインは、こうした余裕が人をまとめる力なのだろうと漠然と思った。
「それで、お前は一人なのか。
アルクたちは全員捕まったのか」
「わからねぇ。
逃げるのに必死で、確認する暇がなかった」
「そうか」
「ああ、それと申し訳ないんだが、後からアリステアが来る。
一緒に乗せてもらえないだろうか」
「ああ、ヴァレリウス家の赤毛の少年か。
貴族出身だろう。お前と一緒にナホトカを離れるのか」
「ああ、俺には奴が必要だ」
アーチーは目を細めてゼインを見た。
「わかったぜ。
もう少しこの辺りにいるから、アリステアが来たら俺の船に案内してやる。
お前は先に休んでいろ」
ゼインはアーチーに礼を言い、教えられた船へと向かった。
それからしばらくして、アリステアが埠頭に姿を現した。
停泊している船を見回し、ゼインがどの船にいるのか探していた。
その時、背後から声がした。
「おい、アリステア」
「アーチー、びっくりさせないでください。
こんな夜更けに急に声を掛けないでくださいよ」
「家出をしてきたんなら、少しくらい驚いた方がいい。
ゼインと一緒に行くのか?」
アリステアは、すでに事情を知っている様子のアーチーに尋ねた。
「ゼインのことをご存じなんですね。
それなら話は早いです。どの船にいるか知っていますか?」
「俺の船に乗り込んでいるぜ。
それにしても、お前はなかなか落ち着いているな。こんな夜更けに声をかけられても、その程度しか驚かねぇのか」
「そうですね。ゼインと一緒にいると毎日が驚きの連続ですから、多少のことでは驚きませんよ」
「そうか。確かに、奴と一緒にいると毎日が楽しいだろうな」
アーチーはそう言って笑い、アリステアを自分の船へと案内した。
アーチーの船に乗り込むと、ゼインが待っていた。
アリステアの姿を見つけたゼインは、少しためらいながら言った。
「よかったのか」
その言葉に込められた意味を、アリステアは理解していた。
「今さらですよ。
ゼインが必要とする限り、一緒にいます」
二人の少年の長い夜が終わり、間もなく夜明けが訪れようとしていた。
これからどうするのか、二人にはまだ何も決まっていなかった。
若すぎる二人は、大人たちに追い詰められるようにして故郷を離れようとしていた。
それでも、ゼインもアリステアも、自分たちの選択を無謀だとは思わなかった。
彼らは信じていた。
自分たちの未来は、きっと光り輝くものになると。
結局、二人はアーチーの船に身を隠し、そのまま出港の日を待つことになった。
そして一週間後。
十六歳のゼインと十五歳のアリステアは、生まれ育ったナホトカの街を後にした。
【外伝】ナホトカのゼイン・アグリウスは、全十一話となります。
本日中に全話投稿予定です。
順次投稿していきますので、ブックマークをしてお楽しみいただければ幸いです。




