第8話:訪問
アカネたちと別れたアランたちは、さきほどの出来事を国王に報告するべく動いていた。
「ねぇ、リロイ? アカネちゃんのことどう思った?」
「どう思うとは?」
「いや、そのままの意味で、転移の話や、戦いについてとかさ」
「あぁ、そうですね…… まずは転移についてですが、信じられないことですけどおそらく事実なのでしょうととらえています」
「リロイもそう思う?」
「えぇ、彼女の話ぶりからどうにも嘘とは思えず。そして、戦いについては心底驚かされました。あれでいて、魔物との対戦が初めてとか信じられません」
「だよね。それも同意見だ。剣術についてほとんが独学というのもにわかに信じがたいよ」
「で、アカネちゃん出自についてはどう思う?」
「……おそらくは、どこかの国の王族なのではないかと考えています」
「おっと、またまた同意見だったか」
「話ぶりや所作など端々からそういった気品のようなものが感じられましたね」
「うん。あの堂々とした立ち居振る舞いは、なかなかのものだよ。きっとまたアカネちゃんに会う機会はあると思うから、話してもらえるのを待ちましょうか。さぁ、今日の巡回の報告とともに、国王様にもアカネちゃんのことを伝えよう」
二人は、国王の間を訪れる。
普段の少しおちゃらけた雰囲気が消え、アランは襟を正して国王に謁見した。
「おぉ、アラン、よく戻った。して本日の首尾はいかがであったか」
「は。国王様、本日は城下の林にて、フライングライオンの群れを討伐しております」
「それは重畳。しかし、このあたりにもそれほどの力を持つ魔物が現れておるのか……」
「国王様、その討伐に関しまして少し申しあげたいごとがございまして」
「なんだ?」
「じつは、そのフライングライオンの討伐の際に、アカネと申すものと出会いまして、そのアカネが……」
「なんと、アカネと申したか?」
国王はアカネとい単語が聞こえるや否や、身を乗り出した。
「国王様もアカネをご存じなのですか?」
「うむ。赤い髪の娘であろう? 昨日、アイナ王女らとともに登城してきてな。どこか不思議な雰囲気のある惹かれる女性であった。して、そのアカネがいかなことを?」
「はい。なんと、単独でフライングライオンと戦っておりまして……」
「なんだと?」
「私とリロイが、城下の林を巡回中に彼女を発見したときは一体のフライングライオンと対峙していました。私は、アカネが林を散策中に、敵に目をつけられ逃げられず戸惑っている状況なのだろうと推察しておりましたが、のちに彼女の話を聞くと、すでに一撃を加えるなど戦闘していたようです」
国王は興味深そうにアランの話に耳を傾け、うなずいている。
「もちろんその場の敵は私たちが討伐して事なきを得ましたが、その後新たにフライングライオン3体の群れが現れ、私、リロイ、アカネのそれぞれが一体ずつ対戦せざるを得ない状況となり、アカネは見事に敵を切り伏せました」
国王は目を丸くする。
「それはまことの話か?」
「はい。具体的な状況は省きますが、彼女は絶体絶命の状況から、敵を斬りつけることに成功しております。私たちもすぐさま助力して敵を退けましたが、彼女の力がなければ一大事になっていたでしょう」
「はっはっは。どうやら、私の見る目間違っていなかったようだな」
国王は破顔一笑した。
「国王様?」
「いや。こっちの話よ。して、一両日中にもアランたちにも参加してもらおうと思っている国防に関する重要な緊急会議があるのだが、それに、アカネも加わるよう要請しておる」
「え?」
アランたちは国防に関する会議が行われること、それにアカネが加わることに驚きを隠せない。
「国防に関することの情報はその際に伝えるが、それにしてもアカネがそれほどの実力者とは……」
「はい、それに関してですが、どうも魔物との対戦はほとんど初めてだったようで」
「驚かされることばかりだな」
「はい。ところで国王様はアカネの素性はご存じなのですか?」
「いや、そなたたちも聞いてはおるだろうか。アカネ曰く突然この地に飛ばされていたという情報を持つのみで、あとはどこかの国の第一王女だと申していたな」
「王女?」
「ん?そなたたちはアカネの事情を知らなかったか?」
「いえ、突然この地に現れたということは聞かされていましたが、王女ということは知らされておりませんでした」
「おや。これはまずいことを口走ってしまったか」
「いえ、国王様。私どももきっとどこかの王族であろうと考えていたので、あまり驚きはありません」
「はは。そうか」
「えぇ、並大抵のものでないことはすでに十分実感しておりましたので」
「うむ。して、その……」
国王が話を続けようとしていたところ、一人の使いが血相を変えて、国王の間に飛び込んできた。
「こ、国王様。緊急で申し上げたきことがございます」
ただならぬ使いの様子に国王も事情をうかがう。
全てを聞き終えると国王は固い表情のまま
「アランよ。一両日中と話した会議だが、すぐにも参加者に使いをおくるゆえ、集まり次第開催する。いつでも参加できるよう備えておけ」
アランはわけもわからずいたが、ただならぬ事情であることは容易に理解できるため
「は。かしこまりました。それではこのまま城にとどまり、時を待ちます」
「うむ。頼んだぞ」
そう言い残すと、国王は難しい顔をしたまま足早に部屋をあとにしていった。
その頃、アカネ一行はミサたちの家に到着していた。
道中、アカネは街並みを再確認しながら歩く。
(うーん。やはり、町のつくりは似ているわね。このあたりはまだ開発されていないのかしら)
アカネイトの城下町との類似点を気にかけながらも、しかし決定打となるような状況は見出すことはできなかった。
そして、アカネたちの馬車は街から少し遠ざかる道に入り、やがて、一軒の家の前で止まった。
「さぁ、お姉さまつきましたわ。ここがミサちゃんたちの家です」
アイナから紹介された家は、どこか風情のあるこじんまりとした一軒家だ。
アカネたちが馬車から降りると同時に、玄関が開きミサとミアが出迎えにきた。
「遅かったじゃない? こないのかと思ったわ」
ミサが口を開く。
綺麗に結ばれた金色の髪が日の光を浴びて一層きらびやかに輝いていた。
「ごめんなさい。少しいろいろありまして」
アイナが事情を伝えようとするも、アカネが
「私のせいで遅くなってしまったの。ちょっと魔物と遭遇しちゃってね」
「魔物?」
ミサとミアは驚く。
「でも、無事撃退できたわ」
にっこりと胸をはるアカネにミサは少し呆れ気味に
「アカネって本当に武闘派なのね…… とにかくようこそわが家へ」
「いらっしゃい」
ミサたちはそれぞれ、アカネ一行を歓迎した。
「お邪魔するわ。でも、大賢者様のゆかりある家だからもっと大きな家とかを想像していたわ」
アカネは特に悪気もなく口にするも
「小さな家で悪かったわね」
ミサの返答にアカネは慌てて
「ごめんなさい。別にけなしているわけではないの。ただ大賢者様なんて国の中でも最高峰に位置したような人でしょ? そんな人が住むならって思っただけで」
ミサは特にアカネの発言を気に留めていたわけではなく
「家なんて住めれば問題ないわよ。それに、そんなに大人数で住んでいるわけではないし、あまり大きくても手入れが大変なだけだわ」
「私たちはお姉ちゃんとお父さんの三人暮らしだしね」
「お母さんは?」
「母さんはだいぶ前に亡くなってしまったの。もう、7年くらい経つかな」
「それは、ごめんなさい」
「いいのよ。過ぎたことだし」
ミサは皆を先導し、ミアは皆にふるまう準備しているようだ。
「さ、それよりも本題に入りましょう、そこら辺に座って」
ミサは奥の部屋にアカネたちを案内し、それぞれ部屋の机を前に各々腰をおろした。
「はい。皆さん。お茶をどうぞ。それとよかったらこのお菓子も」
ミアは皆をもてなし、アカネ、アイナ、ルーベンと並んで座る。カインは万一に備えてと、外の周囲を警戒すべく馬車にとどまっていた。
「さて、早速だけどアカネ。あなた、突然光に包まれてこの国に飛ばされてきたと言ったわよね?」
ミサが話を切り出した。
「えぇ。そうよ」
「結論からいうと、魔法の力かどうなのか私たちにもわからないわ」
ミサは難しい顔をしながら告げる。
ミアも申し訳なさそうな顔をしていた。
「ミサちゃんたちにもわからないんですか?」
アイナも少し驚き気味だ。きっと二人ならわかると思っていたのであろう。
「えぇ。昨日、家に帰ってからミアと二人で考えてみたんだけど、そんな強大な魔法を仕掛けられる人なんて限られると思うのよ。そもそも転移魔法ってとても高度なもので、私たちでもできないことはないんだけどとても手がかかるのよ」
「はい。お姉ちゃんが言っているように、転移魔法は難しく、それが例えば対象人物が自ら仕掛けたものに触れた際に任意の場所に移動させる魔法なんておそらくほとんどの魔導士にそれを行うことは無理……だと思います」
「ミアの言う通りね。それこそ大賢者様レベルや、自分で言うのもなんなんだけど私たちならあるいはくらいのものよ」
ミサたちの言葉を静かに聞いいるアカネ。
「けれども、アカネが言っている事態が起きたのなら、現状では魔法と考える方が自然なのかもしれないわ」
「そうですね。私もお姉ちゃんと同じ考えです」
「突然、人が移動するなんてそれこそ魔法でしか無理だと思うもの。それに、たぶん私たちが本気をだしたらそんな魔法できると思うのよ。ね? ミア」
「う、うーん。お姉ちゃんのその自信はどこからくるのかわからないけど、でも、可能性は……あると思います」
ミアも恥ずかしそうにしながらもうなずく。
「だから魔法によるものじゃないかと思うんだけど、ただ、私の知る限りでは少なくともこの国にそれほどの魔法を繰り出せるものがいないと思うの。だから、魔法の力なのかわからないという結論に至ったわ」
「ミサたちのお父さんは?」
「父さんは優秀な魔導士であることは間違いないけれど、魔法の実力としては私たちの方がずいぶん上だと思うわ」
ミサははっきりと口にする。
「お父さんは、大賢者様の子孫ではなくて?」
「はい。お父さんは普通の魔導士で、大賢者様の血をひいていたのはお母さんでした」
今度はミアが答える。
「そうだったの」
「母さんはとても優秀だったと思うわ。もう、おぼろげな記憶しかないけど、少なくとも私たちと同等か、それ以上の実力を持っていたと思う」
ミサの言葉にミアもうなずき
「はい。私の記憶でもいろいろな魔法を見せては私たちを楽しませてくれたのを覚えています。今、思えばあれらの魔法を何でもないように繰り出せるのはきっとすごい実力を持っていたのかなと」
「といっても、父さんもすごいのよ? この国の中では少なくとも10指に入るような人よ。それでも、アカネたちを飛ばすような魔法はできないと思う……」
「……」
ミアも無言でうなずきながらうつむいてしまう。
窓から吹き込んでくるさわやかな風とは別に、アカネたちのまわりには少し、重い空気が流れた。
そんななか、ルーベンはミサたちの話を聞き思考を巡らせていた。
(おそらく私たちが飛ばされたことは魔法であろうこと、そして、大賢者レベルならできそうであること。しかし、それは転移魔法ならということで。うーむ、しかし、可能性はあるのだろうか。もしかして……)
やがて、今まで静かに聞いていたルーベンが意を決したような表情で口をはさんだ。
「ミサ様、ミア様、少し荒唐無稽なことではありますが、お尋ねしたいことがございます」
アカネはそんなルーベンを見ておそらく自分も聞きたかったことを尋ねるのだろうと察した。
「何かしら?」
ルーベンは一瞬、アカネの方に目配せをする。
アカネは、その視線を受け取り
(えぇ。私も聞いてみようと思っていたの。遠慮せず聞きなさい)
という思いの視線を返した。
アカネの表情を受けて、ルーベンは一呼吸置き
「時間を飛ばすようなことは可能でしょうか?」
一瞬、間が空いた。
「え?時間?」
ミサもミアもあまりの質問に面をくらったようだ。
ルーベンの言葉を待っていたかのようにアカネも、同様の質問をぶつける。
「えぇ。時間よ。ありていにいえば、だれかを過去に飛ばしたりするようなことはできるかしら?」
「アカネ。それってどういう?」
ミサは思いもよらない質問に返答につまっている。
「言葉通りの意味よ。誰かを過去に飛ばすことは可能なのかなって」
「そんなこと、考えたこともなかったわね……」
「……」
ミサもミアもそれぞれ思い悩んでいるようだ。
すると、ふとミサが気がついたように
「でも、それって、アカネが未来からきたっていうことなの?」
今度はアカネに質問する。
「いや、そうだと決まったわけではないんだけど……」
アイナもまた、アカネの発言に戸惑っているようだ。
アカネはミサたちを前に、どのように伝えるべきか思案していた……。




