第7話:仲間
アカネたち一行は林を抜け、周囲は比較的見渡しがきく街道沿いを進んでいる。
先ほどまでの林とは違い、まわりには魔物の気配は感じず、足取りも軽くなっていた。
アカネは城に向かう帰路の中、アランたちに自分の情報の開示を始めていた。
まずは、謎の光に包まれ、気がついたら草原に飛ばされていたことからだ。
アカネは自分が転移してしまうまでのいきさつをアランたちに告げる。
「というわけで、私はそのルーベンっていう家庭教師的な人と、とある絵を見ていたら突然光に包まれて、二人とも気がついたらこの地にいたのよ」
アカネの発言に、にわかには信じがたいという表情を見せるアランたち。
とはいえ、アカネが嘘をついているようにも見えず、アランはいったん話を落ち着かせようと、アカネが見ていたという絵について問いかけた。
「アカネちゃん。そのアカネちゃんが取り込まれたという絵はどんなものなんだい?」
アランがアカネに問いかけた。
すると、アカネは待っていましたといわんばかりに
「あら。アランさん。そこ、気になっちゃいます? じゃぁ、説明しないわけにはいかないわね」
なぜかアカネは得意げに
「その絵はね、というか、絵というよりもそれはすごく素敵な女性が描かれている肖像画で、子どものころから大好きなものなの」
アカネの表情はにこやかで、楽しそうな感情が伝わってくる。
「でもね、とても古くから私たちの国に伝わっている肖像画なんだけど、じつはその女性が誰なのか詳しいことは全く残されていない不思議な女性なのよ。ただ、漠然と私たちの国を救ったらしいっていうことだけが伝えられているわ」
「へー。国を救ったほどの女性らしいのに、何も情報が残されていないとはなんとも謎めいているね。それで、その人はいったいどんな女性なんだい?」
アランからの問いに、アカネはさらに饒舌に語り始める。
「その女性はね、髪は少し長めの茜色で、凛々しくもどこか可愛げなんかも感じられる女性剣士の肖像画なの。とにかくすっごく素敵なのよ!! 見た目の感じから、たぶん年齢的には10代後半くらいかしらね。初めて見た時から虜になっちゃったわ。その後、国を救ったらしいって話を知ってますます好きになり、私の憧れになったわ!!
そういう流れがあって、子どもの頃の私は彼女に少しでも近づきたいなと、髪を伸ばし始めて、剣術の稽古も始めたのよ」
アカネはひと際楽しそうにその女性や、自分の憧れについて話し続けた。
「へー。アカネちゃんが剣をふるえるいきさつにはそういったことがあったのか。でも、まわりには反対されなかったかい?」
「えぇ。とても大変だったわ。お父さまからは反対されるし、稽古や大会の対戦相手なんかには、なめられた態度をとられることが多かったし。失礼しちゃうわよ」
少しムスッとしたアカネに、アランは笑いながら
「ははっ。それは仕方ないよ。こんなにかわいい子が強いだなんて誰も想像しないだろうさ」
アカネはかわいいというセリフは聞き流したように
「アランさんまでそんなことを。こう見えても私、前回の国の剣術大会で優勝しているのよ。結構うちの国の大会ってすごいもので、優勝者はそのまま近衛兵や、国防などの重要な役に就くものも少なくないんだから」
アカネは自身の活躍ぶりをアピールしながら
(そういえば、剣術大会優勝なんてつい最近のことなのに、ここしばらくの怒涛の流れでなんだかもうかなり昔のことみたいだわ)
アカネはふと最近の出来事をふり返り、少し感傷的な気持ちになっていた。
「へー。戦いの前に言っていた大会の優勝ってその出来事なんだ。確かに、アカネちゃんの腕前ならうちの騎士団でもだいぶ、いい線いってるんじゃないかな」
「え? 本当。お世辞じゃなければ、うれしいわ!!」
「お世辞なんかじゃないよ。ね? リロイ」
「えぇ。じつは私も少々みくびっておりました。申し訳ありません。さきの戦いでも、本心はどうなるものかと……」
リロイは正直に打ち明ける。
「ふふ。わかってもらえればいいのよ。でも、アランさんにはまだ少し勝てなさそうね」
「あっはっは。確かに、まだ少し僕の方が上かな!! アカネちゃんはおもしろいね」
アランはアカネの返しに思わず大笑いしてしまう。
「むっ。馬鹿にしているわね。今度少し手合わせしてもらえないかしら」
「ごめん、ごめん。でも、そのかわいい顔を傷つけたくないからできたらそんな機会はもちたくないな」
「やっぱり。最初から勝った気でいますね!!」
「いやいや、そんなことは……あるかな」
「もう!!」
アカネとアランは楽しそうに掛け合いをしている。
「ところで、今のその肖像画の特徴を聞くに、その女性って、アカネちゃんをモデルにしているみたいだね」
「えぇ。私もそう思いました」
アランたちが何気なく口にした言葉にアカネは驚いた。
「え?」
「だって、茜色の長めの髪で、凛々しく、かわいく、かっこいい女性だっけ? まるで、アカネちゃんじゃないかい」
アランの言葉にアカネは顔を赤くし
「え? そ、そんな、こと。私ではないわよ? ていうか、そんなこと言われたのははじめてで、え、でも、あ、あぅ」
突然憧れの人のように言われて狼狽しているアカネにアランは
「おや? そんなことはなかったのかな。特徴だけ聞いていたらまさに、アカネちゃんのことだと思ったけど。でも、さっきまでの堂々としたアカネちゃんと違って、そういううろたえているところもかわいいね」
「からかわないでください!!」
「ごめん、ごめん」
(確かに特徴だけで言えばそうなのかもしれないなんだけど、ルーベンの語っていた討伐の話が事実なら私なんてまだまだよ。でも、そんなふうに言ってもらえたのはやっぱりうれしいわね!!)
アカネは少し上機嫌になっていた。
「さて、話を戻すけど、アカネちゃんが転移してきたということが事実だとしたら、何らかの魔法によるものかもしれない。それゆえ、ミサちゃんたちに相談にいくところだったと」
「えぇ」
「確かに、その話が事実なら魔法の可能性はあるよね。そんなことができるような人間がいるなら限られるとは思うけど、それなら確かにミサちゃんたちが適役か。ところで、ミサちゃんたちを紹介してくれたアイナ王女とはどういった経緯で知り合ったんだい?」
「えぇ、それは、私たちが転移してきた草原で、アイナたちが切り裂きカラスの集団に襲撃されていて、そこに助けに入ったことから知り合ったのよ」
「ははっ。助けに入ったか。アカネちゃんらしいね」
「じつは、本物の魔物と戦うのはそれが初めてだったんだけど、思った以上にうまくいったわ!!」
「え? 初めて? 確かに切り裂きカラスはそれほど強い魔物ではないけど、それでも、いきなりとなると……」
「ふふ。こんなこともあろうかと、子どものころから魔物についての書物はよく読んでいたから、頭の中で対策はばっちりできていたわ!! 実際、魔物自体はわりと見たこともあったしね」
「ということは、もしかしてフライングライオンとの戦いも……」
「えぇ、当然初めてよ。というか、あれは本物を見るのも初だったわ。でも、さっきも言った通り、書物で魔物の特徴はつかんでいたから、なんとか対処することができたわ。とはいえ、ほとんどアランさんたちのおかげでもあるから大きなことは言えないわね。ふふ」
戦いについてまるで、日常の出来事のように語るアカネだったが
(な、なんだって? 魔物と普段から戦いなれていたわけではなく、そんななか、フライングライオンとの戦い? それでいて、あのような動きや心構えができる。普通じゃないよ…… ん? というより、僕はそんな経験しかない子を前線に送り出してしまったのか!!)
アランはアカネの告白に驚愕し
「本当に、ごめん!!」
「え?」
アカネは突然のアランの謝罪にあっけにとられ
「いや、出会ったときにはすでにフライングライオンと対戦中だったでしょ。さらには一撃も食らわせていたようだったから、てっきりアカネちゃんはある程度魔物に慣れているものだと思ってさっきの戦いに向かわせたんだけど、そんな事情を知っていたら絶対に戦わせられなかったよ!!」
「え、えぇ。私もそれを聞いて今さらながらまた肝を冷やしています」
リロイの顔もひきつっているようだ。
「あぁ、それは問題なかったわ。だって、あの場ではああするしかなかったでしょ」
「いや、それでも、何か別の方法を……」
「あれでよかったのよ。結果的に、これも、あの憧れの人への第一歩になったわ!!」
戸惑うアランたちに、アカネは胸を張っていた。
(本当にこの女の子はただものじゃないね。とにかく無事に守ることができてよかった。いや、半分守られてもいたかな)
様々な思いを抱くアラン。
「アカネちゃん…… キミなら本当に英雄に……」
アランが話し始めたところ、いつの間にか一行はマグダット城へとたどり着いていた。
眼前には、大きな門がたち、周囲には衛兵の姿が見える。
アカネは改めて見るマグダット城に、
(うーん。アカネイト城とは違うんだけど、やっぱりどこか面影があるようなないような……)
「おっと、もう城に到着か」
アランはいったんアカネとの話を切り上げ、城門前の衛兵たちのもとへ駆け寄った。
城門は固く閉ざされ、その前には何人かの衛兵たちが、アランたちの帰還を前にし、一糸乱れず整列している。
「アラン団長ご苦労様です!!」
「警備の首尾はいかがでしたでしょうか?!」
衛兵たちの問いかけに
「うん。問題はなく、いくつかの魔物討伐にも成功した。これには新たな力によるものも大きい」
「新たな力?」
衛兵たちの問いかけにアランは一瞬アカネに視線を向ける。
「あぁ。しかも、とてもかわいいね。とにかく、マグダット騎士団、本日も無事役目を果たすことに成功したよ」
魔物を討伐したという成果に衛兵たちはにわかに沸き
「さすが、アラン団長です」
「今すぐ、城門をお開けいたしますので、お待ちください」
ぎぎぎぎっと音を立てて開いていく扉。
すると、同時にそこから3人の人影が現れた。
それは、アイナ、ルーベン、カインであった。
3人はそれぞれ血相を変えたような表情をしており、ひどく慌てている様子だ。
「ちょうど、門が開きましたね。カイン。とにかく、お姉さまを探しにいきましょう」
「わかりました。アイナ様はとにかく、私のそばを離れないよう。しかし、まずは、馬車の到着まで今しばらくお待ちください」
「アカネ様、いったいどこへ……」
アイナは、ミサたちのもとへと訪れるべくアカネを誘いに部屋へと赴いたものの、しばらくして部屋にはアカネがいないことに気がつき、その後、アイナたちはアカネを知るものらを募って城中を探しまわるという、ちょっとした騒動が起きていた。
そして、城内にはアカネがいないことがわかり、今まさにアイナはカインを伴ってアカネの捜索にでようとしていたところだった。
そんなこととはつゆ知らず、アイナたちの姿を見つけたアカネは、いつものようにアイナに駆けよった。
「アイナー!!」
一方、騎士団の中から突然姿を現したアカネに3人は驚くも、アイナは一目散にアカネへと抱き着いていった。
「お姉さまー!!」
「おっと」
アカネはアイナの強めの抱き着きに少しよろけつつ
「アイナごめんね。少し待たせちゃったかな」
「そんなことより、お姉さま、一体どちらに行っておられたのです?」
アイナは少し泣きそうになりながら問いただす。
そこに、ルーベンも
「全くです。アカネ様、突然いなくなられて、どれほど私たちが心配したかと……」
「ごめんごめん。ちょっと想定外の出来事がおこってね」
「無事でよかったですが、城内では少し騒ぎになっていましたよ」
やれやれという表情と無事でよかったという表情を見せるルーベン。
「え? 騒ぎ?」
「えぇ。突然アカネ様が消えたものですから。まだ、アカネ様のことを知るものも少ないですが、それらの方たちにも手を借りて、城内をくまなく探していたのです。それこそ、物置小屋やトイレまで…… 私は、もしかしたら、また転移的なものでもあったのかもしれないとまで……」
アカネは、自分がいないことで起こっていたという騒動を知り
「う。本当に、ごめん!! ごめんなさい。まさか、こんな事態になるなんて思いもしなくて」
アカネは皆に向かって頭をさげた。
「ところで、どうして騎士団の方々と一緒に帰還を?」
そこで、アカネは、朝の出来事を3人に伝えた。
話をすすめるたびに顔が曇っていくルーベン、はらはらしているようなアイナ、そしてなんとも言えない表情になっているカイン。
アカネの話が終わるや否や、ルーベンは
「アカネ様、無茶をしすぎです!!」
物凄い剣幕でアカネを叱る。
「う。ごめんなさい。でも、私も魔物と戦うなんて想定していなかったわ」
「無事だったからよかったものの、一歩間違えばどうなっていたか。今後は何かありそうなときは一声かけてからにしてください」
「はい。反省しています」
アカネは少ししゅんとする。
「ルーベンさんの言う通りです。お姉さまがすごいことはよくわかっていますが、いくらなんでも無謀だと思います。でも……ご無事でなによりです」
アイナも今度は本当に泣きながらアカネに再度抱き着き、カインもアカネに声をかけた。
「本当に、無事で何よりでした」
「カインさんにも迷惑かけたわね」
「いえ、私もですが、アイナ様がひどくご心配なされていて。アカネ様の身に何かあったのではないかと……」
「えぇ。ごめんなさい」
アカネは自身の行いを省みながらも、気を取り直して
「とにかくこうして戻ってこれたし、3人にも紹介するわ。というか、ルーベン以外はたぶん知り合いよね? こちらの方々が、林で私を助けてくれた……」
アカネがアランたちを紹介しようとしたところ
「よっ!! カイン。元気そうだね」
「兄上!!」
アランがカインに声をかけた。
「兄上?」
アカネはカインの一言に驚きをあげる。
(そういえば、アランさんはアラン=シーカーって名乗っていたわね。シーカー……どこかで聞き覚えがあると思ったら、カインさんと同じだったからか。でも、まさか兄弟とは)
「ん?驚いたかい? しかし、アカネちゃんはすでに弟とも知り合いだったか。まぁ、アイナ王女とも知り合いと言っていたからひょっとしてと思ったけど」
「えぇ。カインさんにはお世話になっているわ」
「それはうれしいね。カインは自慢の弟だからね」
アランはにっこりとカインをたたえるも、カインは固い表情を崩さず
「いや、私など、まだまだ兄上の足元にも……」
「謙遜しなくてもいいよ。カインもザインでは立派に騎士団の副団長を務めてるでしょ」
「いえいえ、兄上にはかないませんよ」
「うーん、カインはいつもまじめなんだから。もう少し肩の力を抜いてもいいと思うよ」
「アランさんは、少し抜きすぎなのでは?」
「おや、これはアカネちゃん。厳しいつっこみだね」
ふふっとしているアランに、
「でも、お二人は兄弟にしては、あまり似ていらっしゃらないんですね」
何気ないアカネの発言に、にわかにアランとカインの顔が曇る。
しかし、アランはすぐさま
「ん? それは僕の方がかっこよすぎるという意味かな? 確かにカインも男前だけど、僕はさらにその上をいく男前だからね!!」
と、おどけてみせた。
「……」
カインは言葉を発さず、アイナも黙っている。
周囲の静寂に、なにかあることは一目瞭然で、アカネは慌てて
「あ、私、なにか気に障ることを。似てないとか、ごめんなさい」
どうやら二人には込み入った事情があるようだったが、
「いや、謝ることなんてなにもないよ。似てない兄弟なんてごまんといるし、それに、僕たちが本当の兄弟なのは間違いないんだから」
「はい。私も何も気にしておりませんので、どうかお気になさらず」
「……」
二人の発言にもアカネは声を詰まらせてしまう。
「いや本当に、何もないから気にしないで……」
アランは優しく諭し、話を変えるように
「アイナ王女もお久しぶりです。相変わらずかわいらしい」
「ふふ。アラン様も相変わらずですね。そうやってたくさんの女の子に声をかけているのは知っていますよ」
「おや、アイナ王女も手厳しい」
はははっと一同に少しの笑いがおこる。
アカネはアランの言葉を受け、先ほどのやり取りから気を取り直して
「アランさん、そしてこっちが話していたルーベンよ」
「はじめまして。私は現在アカネ様の従者を務めております、ルーベン=スタッドと申します。この度はアカネ様の危機をお救い頂きまことにありがとうございました」
「いやいや、僕はほんの少しだけ力を貸しただけで、ほとんどはアカネちゃんの頑張りだよ!!」
ルーベンはそれを聞きながら、改めて深く頭をさげた。
「キミの主人は本当にすごい人だね。僕は驚かされてばかりだよ」
アカネをほめたたえるアランに、ルーベンはやれやれといった感じで
「はい。すごいのは確かなのですが、アカネ様は昔から無茶なことをすることが多く、こちらはてんてこまいになっております」
「それは、想像できる」
「もう、二人とも!!」
「ははははっ」
先ほどとはうって変わって和やかな空気が流れている。
すると、アランは、ルーベンを横目にアカネにひそひそ声で話しかけた。
「ねぇ、あのルーベンくんってなんかリロイに似てない? 見た目や雰囲気とか」
「あ、やっぱり、アランさんもそう思いました? 私もずっとそう思ってていて、戦闘時もルーベンがいるような錯覚があったわ」
二人は、髪型やメガネ、顔つき、背格好、口調など、どこか共通点が多かった。アカネは初めてリロイを見た時からそう感じ、アランもまたこの会話でそう感じたようだ。
「今度二人の特徴を言い合ってみるのも面白いかもね。ルーベンくんもまじめで口うるさそうなのかな?」
「あはは。それはリロイさんがそういう人間だと?」
「う。 これは、失言だったか? リロイには内緒に」
「ルーベンにもね、ふふ。では、リロイさんも皆に紹介させてもらうわね」
アカネは少し離れたところにいたリロイに呼びかけ
「やっぱりアイナたちは知っているのかしら。今、こちらに向かってくる、リロイさんも私を助けてくれたのよ!!」
リロイはアカネたちのもとに駆け寄り、アイナ王女を前にひざまずくと
「アイナ王女、お初にお目にかかります。マグダット騎士団所属、リロイ=モニックと申します。魔導士をしております」
「初めまして。アイナ=ザインです。改めまして、お姉さまを助けてくれたこと、私からも感謝申し上げます」
「少しでもお役に立てていたら幸いです。それに、無事に戻れたのはアカネさんの実力ですよ」
「あら、アイナは初対面だったのね」
「はい。カインたちから話は聞いたことありましたけど、お会いするのは初めてです」
「カインくんも久しぶり。どうやらアイナ王女に私の噂話をしていたようで。どんなことを吹き込まれてしまったのか少し怖いね」
「そ、そんな、悪い話なんてしていませんよ。それに、くん付けは、ちょっと……」
「はは。確かに、もう、くんを付けるような年じゃないかな。でも、昔からの流れでどうもね」
カインはぎこちない感じで応対するが、顔は穏やかだった。
「はい。カインからはマグダット騎士団に、アラン様の側近にとても優れた方がいるといつも聞かされておりましたわ」
「おや。それは、本当かな。でしたら大変光栄ですね」
リロイはアイナに一礼し、ルーベンに顔を向ける。
「そしてルーベンさんでしょうか? 初めまして 私、リロイ=モニックと申します」
「こちらこそ初めまして。私はルーベン=スタッドと申します」
互いのメガネが日の光を浴びてきらりと輝く。
「私からもアカネ様への助力につきまして、感謝申し上げます」
「ルーベンさんの主人はとても素敵な方ですね」
「いやいや、素敵というか、なんというか……」
二人はその後、アカネの話で盛り上がると、しばらくやり取りを続け、互いにメガネをかけ直すしぐさをして、頭を下げて話を終えた。
………………
(なんか、この人と話していると不思議な気持ちになるな……)
二人は同時に同じ思いを抱いていたようで、それは無意識に自分と話しているような感覚になっていたのかもしれない。
周囲にいた騎士団たちはすっかり解散しており、歓談を終えた一同は
「では、お姉さまも戻られたことですし、改めてミサちゃんたちのもとにいきましょう」
「そうね。少し遅くなってしまったわね。では、アイナ、案内よろしく頼むわよ」
「はい。お姉さまの捜索用に準備した馬車もちょうどありますし、あれで街まで参りましょう」
捜索用と聞いて少しバツが悪そうなアカネ。
アランは馬車のもとへ向かうアカネたちに
「では、僕とリロイは国王様に報告などがあるから、ここでお別れだね。じゃ、アカネちゃん、戻ったらお茶に行こう!!」
「行きません」
アカネは即座に切り返す。
「アカネちゃんは、つれないなぁ」
その後、アランはカインのもとに向かい肩をたたきながら、じっとカインの目を見つめ
「では、カイン。アイナ王女はもとより、アカネちゃんのこともよろしく頼むよ!!」
「はい、お任せください」
「うん。では、またね」
アランはしばらくの間優しい視線でカインを見送り、アカネたちは馬車に揺られながらミサたちのもとへと出発して行った。




