第6話:才能の片鱗
身構えていたフライングライオンたちが3人にそれぞれ襲い掛かる。
その少し前、リロイは、対抗策を考えていた。
(さて、たった今アランはなんとかしてっていう作戦を授けてくれましたが、さて、どういたしましょうか…… ここでの、攻撃失敗は致命傷になりかねない。私はおろか、全体までもまきこんでしまう恐れがある。ならば、ここは動きを封じましょう)
リロイは、敵を撃破することではなく、一時的に足止めをすることで、他者への影響を防ぎ安全をはかることに決めた。
(この魔法は、決まれば圧倒的に優位になれますが、発動までに多少の時間がかかってしまうことが難点なんですよね。なんとかもう少しこちらをにらんだままでいてくれれば。万が一にも、今飛びかかられたら……)
と、思案しながら、小さく詠唱をはじめていた。
(もう少し、あと少し……)
そこにアランから
「くるよ!!」
との声が、聞こえた。
(よし、なんとか間に合った。これなら、いける)
リロイは、フライングライオンが飛びかかってくると同時に魔法を発動させる。
「密閉された空間!!」
リロイに襲い掛かってきた個体は、まだ、リロイまで十分に距離がある位置で、突如現れた魔法壁に四方を囲まれ瞬く間に捕獲されていた。
「ふぅ、なんとか無事に、処理できました」
「密閉された空間」とは、対象物を魔法壁で囲い無力化する魔法である。その効力は、術者の能力や対象物の能力によって変化し、術者の能力が高ければ高いほど拘束時間は伸びるが、捕獲された対象物の能力が高ければ高いほどその拘束時間は弱まっていってしまう。
また、対象物をきっちり納めなくてはいけないため(自分の発動させた空間から相手がはみ出していた場合は魔法が発動されない)、狙いを正確に定めることが困難である。箱を大きくすれば対象物を閉じ込めることは容易になるが、箱が大きくなるにつれ飛躍的に魔力の消費量もあがっていくため、使いこなすには高度な技術を要する高等魔法である。
そのような魔法をリロイは、ちょうど対象物と同じような大きさの箱で閉じ込めるという優れ技をみせていた。
(さて、この手ごたえ。せいぜい、持って数分くらいでしょうか)
リロイは、自身の魔法の効力を探っていた。
「アラン。こちらは一時的に足止めに成功です。しかし時間はあまりありません。数分程度です」
リロイが声をあげる。
「それだけあれば十分だよ!!」
アランから力強い返答が聞こえた。
(アランは問題ないでしょう。それよりも、あのアカネという女性のほうです)
リロイは、半ば覚悟を決めてアカネの方に振り返った。
眼前に現れた光景は、まさにフライングライオンがアカネに飛びかかってくるシーンである。
……………
前方に構えるフライングライオンが動き始めた直後、アカネは思考を巡らせていた。
(さっきのアランさんからの助言。あの対処方法は、私が、さっき決行したものと全く同じだった。私ならできる!!)
アカネは再度自らを奮い立たせ、身構える。そして
(くる!!)
迫りくる相手の動きを見極めながら、アカネは先ほど対戦した相手の時と同じように小さな幸運を感じていた。
相手の構えからして、噛みつきではなくひっかきで仕掛けてきてくれたからだ。
それでも怒りに満ちた表情でこちらに駆けてくる相手は、通常の人間なら恐怖で足がすくんでしまうだろう。
しかし、アカネは襲いくる魔物に一切ひるまず、相手が前足を振りかぶると同時に、先の対戦同様に剣を突き刺しにいった。
(……いける!! 今よ)
しかし、勢いよく飛び込んださきに獲物はいなかった。タイミングは完全に思えたアカネの切っ先は、空を切る。
相手はアカネの動きをあざ笑うかのように、アカネの剣が迫るよりも速く、翼を羽ばたかせ、後方に下がり攻撃を逃れたのだ。
「えっ?!」
わずかに宙を舞っているフライングライオンは、アカネを見て、にやっとほくそ笑んでいるようだ。
実は、この個体は、先ほどのアカネの戦闘を見届けており、アカネの攻撃パターンを読んでおり、
前足を振りかぶって襲い掛かってきたことは、アカネの動きを誘い出すフェイントだったのである。
対象物が急に目の前から消えたアカネは、バランスを崩して、今にも地面に向かって倒れてしまいそうな形に。
そして、フライングライオンはすぐさま体勢を整え、今度は本当にアカネに攻撃を仕掛けにかかり、アカネは一転して窮地に追い込まれてしまった。
フライングライオンはすでに勝負あったと、勝ち誇っているように前足をふりあげアカネを急襲する。
『アカネ!!』
すでに自らの相手を退けていたアランは、アカネのもとにかけつけるべく今まさにアカネに視線を送ったところで、アカネの戦いを見守っていたリロイもまた同時に声をあげた。
(しまった。フライングライオンがあんな頭脳プレーを繰り出してくるとは…… 頭に血が上っていると思われるこの状況で、よもや。 ぐっ…… これは、僕の責任だ。間に合うのか?! いや、間に合わせろ!!)
アランは、自分の攻撃が届くところまで、とにかく全力でアカネのもとへ急ぐ。
リロイもまたアカネを救うべく思考を巡らせる。
(今、クローズボックスが発動している以上、それほど、大きな魔法を発動させることは難しい。なにか援護できる手段が……なにか……!!)
その目に必死に追いすがるアランが映り込んだ。
(そうだ!!)
リロイは当初アカネを支援する方法を考えていたが、駆けつけるアランを見て、逆転の発想でアランに補助魔法をかけることを思いついた。
(あまり大きな補助魔法をかけることは難しいですが、持続的な効果ではなく、一瞬だけの力の向上なら今の状態でもなんとか発動可能だ。そして、おそらくアランならこちらの意図をくみ取ってくれるはず)
リロイは一瞬だけアランの身体能力を高める魔法をかけるべく、素早く詠唱をはじめ、アランへと魔法をかけた。
(なんとか、間に合え!!)
必死に追いすがるアランは自らのあやまちだとはやる気持ちをおさえ
(まだ攻撃は届かないか?! …… いや、それでもなんとかするんだ!!)
アランは懸命に走るなか、突然、自分の走力があがったことを体感する。
(ん?! これは、リロイ!! やはり、キミは頼りになるね。あとは任せて!!)
アランはリロイに目配せし、ほんのひと時であったが脚力があがったことでぎりぎり間に合いそうだと、剣をかざし敵にきりかかっていく。
すると、向かい側からも予想だにしない攻撃が繰り出され、そこには、思いもよらない光景が広がった。
攻撃が空振り思わず勢いあまって前方に倒れそうになったアカネは、とっさに切っ先を地面に突き立てると、そこを支点として体を前宙のように回転させる。
そして、剣を引き抜き勢いそのままに向かい来る相手の前足を切り伏せ、また、ときを同じくしてアランも一撃をくらわせると、フライングライオンは瞬く間に絶命してしまった。
「ふぅー。瞬時の思いつきだったけど、なんとかうまくいってよかったわ」
絶体絶命の危機をこともなげに振り返るアカネ。
「アカネちゃん……きみは……」
アランはアカネの動きにあっけにとられていたが、リロイから
「アラン。そろそろ私のクローズボックスの効力がなくなります。申し訳ありませんが、対処のほどお願いします」
「あ、あぁ。わかった」
そして、アランはリロイの魔法から解放された魔物を楽々と片づけ、改めてアカネのもとに駆け付けた。
「アカネちゃん大丈夫っだったかい?」
アランはアカネの無事を確認する。
「えぇ。もちろん、アランさんもさすがですね。一体目を倒すシーンは見られなかったけど、今の戦闘は鮮やかすぎて思わずみとれてしまったわ。口だけじゃないのね!!」
アカネは嫌味をいっているわけではなく、ほめたたえているつもりである。
「はは。これはほめられているってことでいいのかな。それよりも、まずは、危険な思いをさせて申し訳ない」
アランは真剣な顔つきで深々と頭を下げる。
しかし、アカネはなんでもないふうに
「私なら平気よ」
「いや、普通の女の子をこのような危ない目に合わせるのは私の、我が国としての失態だ。何度お詫びしても足りないだろう」
アランは再度頭を下げるも、アカネは両手をふる仕草で
「アランさん頭をあげてください。私ならこうして無傷だし、なんなら普通の女の子ではないかもしれないわよ」
アカネは微笑みながら返答した。
アランは、アカネの立ち居振る舞いから、もはや平民ではないであろうことは確信していた。
アカネの応対に少し心が軽くなったアランは
「はは。確かにアカネちゃんは普通ではないかもね」
そして、一呼吸おいたのち
「改めて自己紹介しよう。僕は、アラン=シーカー。マグダット王国騎士団・団長を務めている。そして、この魔導士が」
「ご紹介にあずかります、私はリロイ=モニック。マグダット王国騎士団の魔法兵団に所属しております」
二人はアカネに対し身分を明かし、アカネもまた意を決して
「やはり、お二人は身分のある方々だったのね。私はアカネ。アカネ=マグダットよ」
マグダットの名を出すと、やはり二人の顔つきが変わっていく。
「マ、マグダット……するとアカネちゃんは」
というアランの言葉を遮り、アカネは
「いえ。私は、マグダット王国とは関係がない、たまたま名が一致しているだけのものよ。 ……たぶん」
最後のたぶんというセリフは聞き取れないほど小さくつぶやくアカネだったが
「?? 王族ではないのかい?? でも、その身なり。とても平民とは思えないのだが……」
アランは少々困惑する。
「そうね。詳しくは言えないけど、私も平民とはいえないわ。でも、身分を明かすまではもう少し待って欲しいの。いずれ時期が訪れたら私のことを話せるときがくると思うわ」
アカネの困り顔にアランは、気をきかせて
「……。アカネちゃんにはなにか事情があるようだね。わかった。これ以上は詮索しないよ。とにかく、無事でいてくれて本当によかった」
「そうですね。もし、これでなにかあったときには、アランは今日にも罷免されていたでしょう。むしろ、罷免で済めばいいくらいでしたが」
「ちょ、ちょっとリロイさん。それは手厳しい」
「いえ。厳然たる事実になっていたでしょう」
アランたちはおどけていたものの、内心はアカネの無事を心より安堵していた。
「ふふ。二人は仲がいいのね」
「いや、リロイは私のことを上司というか、団長だと思っていないふしが端々から感じられるよ」
「そんなことはありません。私はアランの実力は認めていますよ。実力は。ただ、団長としての振る舞いは……」
「ほら、やっぱり……」
二人のやり取りで、場は和みはじめていた。
まわりの木々のゆらめきの向こうからは、集団の足音がかすかに聞こえてくる。
おそらくは、リロイが戦い前に連絡をとった騎士団たちであろう。
「ふふ。何よりも二人のおかげで助かることができたわ。改めてお礼をいうわ」
「いや、無事でいられるのは、アカネちゃんの実力だよ」
アランはおどけていた表情から一転して、真面目な口調で
「最後に駆けつける際に間に合わないかもしれないと感じた時はあった。リロイの支援を受けてなんとかなりそうだと感じたけど、結果的には僕が駆けつけなくても、アカネちゃんは敵を倒していただろう。もちろん、そんな一か八かはごめんだったから、僕が間に合っていたことも良かったものの、アカネちゃんの攻撃というかセンスには脱帽したよ」
「あら、そうなの?」
「あぁ。僕は、アカネちゃんの攻撃が外されたあたりからみていたんだけど、正直、あの時点ではやられたと思ってしまった。あいつらが、あのような頭脳的な切り返しをしてくるとは読んでなくてね。血の気が引いたよ」
「えぇ。私も見ていましたけど、アカネさんの攻撃が決まったと思ったところでしたから」
アランたちは、うつむきながらふりかえる。
「私もしまったと思ったけど、どうにかしようという思いでいっぱいだったわ。で、地面に転びそうになったとき、とっさに思いついて一か八かやるしかないと思いついたの。で、それがなんとか、うまくいったわね!! 結果オーライよ。だから、アランさんたちが気にすることなんて何もないわ。それに私の立てた作戦が騎士団長さまと同じだったっていうのもうれしかったしね!!」
暗い表情の二人を打ち消すようにアカネは何事もなかったかのように受けこたえる。
その表情にアランは思わず笑みが漏れてしまい
「申し訳ない。本来ならば市民を危機に陥らせてしまったことで問題なのだけど、そういってもらえると幾分心が救われるな。とにかく、まずはここを離れよう。アカネちゃんは、これからどうするつもりなんだい?」
「そういえば、私は約束があるのよ。お城まで、早く戻らなくちゃ」
アカネが城を飛び出した頃は、まだ早朝という時間だったものの、すでにまわりはだいぶ日が昇っている。
「ん? マグダット城に戻るのかい? ならば、僕たちもそのつもりだし、護衛させていただきましょう」
アランは仰々しく、アカネをエスコートする仕草をとった。
「いえ、お気持ちだけ受け取らせてもらうわ」
アカネは、涼やかな態度で受け流し、アランに背を向けた。
「これまた、私では頼りないってことでしょうか」
アランは大げさに落胆するそぶりを見せ、大きなため息がもれる。
そこに、アカネは笑顔で向き直り
「冗談よ。お城まで護衛をお願いするわ」
「そうこなくっちゃ!!」
アランもまたわざとらしくはしゃいでみせた。
「ところで、アカネちゃんはお城に戻るということは、やはり、城の関係者かなにかなのかい?」
「いえ、私はそういうわけではないのだけど……」
アカネは自分の境遇について語ろうか迷ったのち、
「……王国の騎士団ということはそのうち、私のことも耳に入ることよね。隠しても仕方ないから告白するけど、私、数日前に気がついたら突然この国に転移していたのよ」
「え?」
アランとリロイは同時に声をあげた。
理解ができないという感じである。
「まぁ、そういう反応になるわよね。もろもろは後ほど説明するとして。その現象の謎を解くカギを探すためにも、これからミサちゃんとミアちゃんのもとに訪ねにいくところだったのよ。アランさんたちも二人のこと知っているんでしょ?」
「ミサちゃんにミアちゃん?」
再び二人が同時に声をあげた。
「えぇ。たぶん、二人も口に出していた名前だし、知っているのよね? 大賢者様の子孫らしい、二人の女の子よ」
アランたちは大げさではない驚きを見せた。
「いやいやいやいや。なんか情報がとんでもなさ過ぎて、少し理解が追いついていかないよ。突然転移してきたということも信じられないし、ミサちゃんたちにも、会いたいと思ってもはいそうですかと会えるような子たちじゃないんだけど……」
「え、えぇ。まさに、奇妙奇天烈、摩訶不思議というものでしょうか」
「本人も全く同じ心情よ。ここからお城までは、いくぶん距離もあることだし、少し話しながら戻りましょう。それと、向こうから騎士団の皆さんも見えるわ」
「そ、そうだね。あまりにも謎すぎて聞きたいことばかりだけど、とりあえず城に向かうとしようか」
「えぇ。そうですね」
草木の向こうから数十人ほどの、兵士や騎馬隊たちが一斉にアランのもとに駆け寄ってくる。
「団長!! お怪我は、ありませんか?」
「敵は、いずこに?!」
「さぁ、我々の力を見せつけてやりましょう」
など、各々が声をかけながら陣形をとろうとするも、周囲には、絶命したフライングライオンたちの死骸が転がっていることを確認した団員から
「も、もしかして、もう、事後でありますか?」
「あぁ。今しがた、片付けたところだよ」
すると多くの団員たちは頭を下げ
「戦いに駆け付けられず申し訳ございません」
「騎士団の一員として不甲斐ない姿を見せたことをどうお詫びすれば」
戦いに間に合わなかったことの謝罪を、それぞれが口にする。
「大丈夫だよ。なんとか被害なくおさめることができたからね」
アランは、団員たちに頭をあげるよう仕草をとる。
申し訳なさそうな表情の団員たちだったものの、団長たちが強さを発揮していたであろうことは誇らしく
「でも、さすが団長です。それにリロイさんもついていたわけですから、負けることなんてあるわけありませんよね!!」
「しかも連絡があがってから、まだそんなに時間がたってもいないのに、複数のフライングライオンを倒すとは、お見事としかいいようがありません」
団員たちは口々にアランたちの称賛をはじめていた。
そんななかアランは
「いや、敵を倒したのは僕とリロイだけではないよ。一番の活躍を見せたのは、そこにいるとびっきりかわいい女の子、アカネちゃんさ!! 彼女のおかげで魔物たちは討伐されたよ!!」
アランはアカネを団員たちに向かって大げさに派手なアピールで紹介した。
団員たちもまた、そこに見慣れない少女がいることに気がつくと、周囲がざわつき始める。
林のなかで、ひと際輝いて見える赤色の髪に、不釣り合いにも見えるような剣を手にした女の子。およそ、戦場とは無縁に思えるような子である。
凛々しくもあり、華やかさや可憐さ、様々な要素が重なり合いどこか人々を魅了するような少女は、たちまち団員たちの視線を釘づけにしていた。
みんなの注目を浴びるアカネにどこか満足げなアランは
「ふふ。みんな思わず見とれてしまっているかな? 無理もない。かくいう僕も惹かれてしまっていてね!!」
「ちょ、ちょっとアランさん。適当なことを言わないで!!」
アカネは少し慌てている。
皆、アカネに関して気になっているなか団員の一人が
「団長。あの女の子は何者なんでしょうか?」
「あぁ、彼女はね……」
アランは追いついてきた騎士団たちにアカネの出自など重要そうだと思えたところはうまくぼやかし、ここで起きた戦いの顛末を話すと、騎士団からは歓声があがり、アカネを称える声が飛び交っていた。
「アカネちゃん最強ーー!!」
「素敵ー!!」
「俺もその勇姿を見たかった!!」
軽いアカネフィーバーである。
あまりの歓声ぶりにアカネは
「アランさん? 何か余計なことを伝えてない?」
「いや、僕はアカネちゃんの活躍をありのままに話しただけさ」
アランは軽くウインクしてみせる。
四方八方から浴びる歓喜の視線にアカネは、戸惑いながらも作り笑いで対応し、団員たちに向けて手を振るとなかには飛び跳ねて喜んでいるものも見られた。
「さて、みんな、この英雄・アカネちゃんに聞きたいことは山ほどあるだろうが、今は、城への帰還を優先する。後日、機会があればそういう場を設けよう」
アランの声に、ふたたび大きな歓声があがる。
「では、マグダット騎士団、これより城への帰還を開始する。各自隊列を組め!!」
すると、ここまではしゃいでいた団員たちは一斉に顔をひきしめ、みな素早く持ち場へとついた。
「城までの道のり、残党や別の魔物が潜んでいる可能性がある。油断なく警戒せよ」
「はっ!!」
「では、これより出発!!」
アランの言葉で皆が一斉にてきぱきと動き始めた。
さきほどまでのわいわいとした空気からはうって変わり、その厳かな雰囲気や団員たちのまとまりにアカネは
「少し驚いたわ。やっぱり、アランさんてしっかり団長なのね」
思わずリロイに話しかけた。
「えぇ。なんだかんだで、アランは優れていますからね。普段のチャラい雰囲気さえなければなんて思ってしまいますけど」
「ふふ。わかるわ。でも、それも含めてみんなアランさんが好きなんでしょうね」
「えぇ。そうなんでしょう」
アカネとリロイが微笑みあっているところに、アランがやってくる。
「アランさん、いろいろと本当にありがとう。しかし、さっき団員の人たちに伝えていたそういう機会とは?」
「はは。みんなアカネちゃんに興味津々なのさ。だから、アカネちゃんを囲む会なんてしたいよねって思ってね!! もちろん、僕も参加するよ!!」
アランは、飛び切りの笑顔をアカネに向ける。
「な、なによ、そんな会、私は遠慮したいわ!! それに、私にはなんの得もないじゃない!!」
「まぁまぁ、そういわずに。アカネちゃんがきてくれたら、うちの士気があがりそうだし」
やいやいとアカネとアランのやりとりが続くなか、周囲の日の明るさ具合からアカネは待ち合わせのことが気がかりになり
「そろそろアイナが迎えにきちゃいそうかしら。待たせちゃったら悪いわね」
ふと、飛び出した名前にアランの心はざわつきつつ
「ん?? アイナって。 ……もしかして、ザインのアイナ王女のことなのかな?」
「あら、やっぱり騎士団長さんともなれば、アイナとも知り合いなのね。そう、そのアイナよ」
「いやいやいやいや、アカネちゃん。一国の王女をアイナ呼びして。 やっぱり……君は一体何者なんだい?」
アランは今日何度目かの困惑した表情を見せる。
しかし、アカネはにこっと微笑み
「うーん。今はとりあえず、ただのアカネということにしておいて」と、
軽く流してみせた。
「ちょ、ちょっともう少しアカネちゃんのことを教えてくれないかな? それこそ、ほら。お茶でもしながら……」
「お茶するまでもないわ。今こうして帰りながら話せるレベルで話すわよ」
「そこは、こう、アランお兄ちゃん。ぜひ喜んで、みたいな可愛げはないのかい?」
「あら、まだお兄ちゃん呼びを諦めてないのかしら」
二人は歩きながらどこか漫才のようなかけ合いをしている。
そんなアランがアカネにあしらわれているシーンを横目に、リロイはため息まじりに
「アラン。大人げないですよ」
と苦言を呈していた。




