第4話:予兆
「ミサちゃん、ミアちゃん!!」
「アイナ、久しぶりね」
開かれていた扉から、アカネたちのほうに向かってきている二人の少女たち。
一人は髪をツインテールにし、悪戯っぽい笑みを浮かべており、こちらはミサという少女のようで、
もう一人は、髪を肩口まで伸ばし、はにかんだ表情をしていて、こちらがミアという少女である。
いずれも、アイナと同い年くらいの年齢に見え、どちらも美しい金髪の髪が特徴的だった。
アイナは不意に現れた二人に驚きながらも、満面の笑みで駆け寄っていった。
「ミサちゃん、会えてうれしいです!!」
「ミアちゃんも、今日もやっぱりかわいいですね」
ミアは照れたような感じで視線を伏し目がちにしている。
そしてアイナは、ミサに抱き着いていった。
「ちょ、ちょっと。アイナ、いきなりなによ。離れなさいって」
アイナはその言葉に仕方なく少し距離を置いた。
「ミサちゃん。久しぶりに会えたのに、少し冷たくありませんか」
「久しぶりだからっていきなり抱き着いてくるなんて暑苦しいわよ」
ぷいっと、アイナから視線を外すミサだったが表情は満更でもなさそうだ。
「それに、アイナだって、今、私たちのことを知人って言ってたじゃない? 友人でもなく知人よ。そっちこそ冷たくないかしら」
その言葉にアイナは少したじろぎながら
「そ、それは、大賢者様の子孫のアイナちゃんたちを紹介するのに、私の友人とか、親友ですとか伝えたら、なにかこう、おこがましいかなと思っちゃって」
アイナは、右往左往している。
ミサは、そんなアイナを横目に、外していた視線を戻すと、顔を崩しながら
「ごめん、ごめん。別にアイナを責めているわけではないわ。ただ、知人って扱いされて少しつっかかっちゃったかな。私はアイナのことを友達だとも親友だとも
思っているわよ。アイナはもっと自信を持ちなさい」
「そ、そうですかね。えへへ」
「そ、そうですよ」
今まで、ミサの横で押し黙っていた少女も口をはさむ。二人の金色の髪が、部屋に差し込んでいる光にあてられ綺麗に光っている。
「私だってアイナちゃんとは仲良しだと思っているのに、知人だなんて言われたら、なんだか少し……悲しいです」
今度はミアが、ぷいっとアイナから顔をそらせた。
「ミアちゃん……お二人ともありがとうございます。では、改めてお姉さまたちに紹介しますね。こちらが、私の自慢の……親友ミサちゃんとミアちゃんです」
アイナの言葉に笑顔を見せつつ紹介された二人は、アカネたちに向かい
「はじめまして、私は、ミサ=ターナー。そして、こっちが……」
「ミア=ターナーです。よろしくお願いします」
ミアはぺこりと頭を下げた。
「見ての通りわかるかもしれないけど、私たちは双子よ。もちろん、私が姉よ」
ミサは、ふふんと得意げに姉であることをアピールしている。
そのしぐさに、アカネはくすっと微笑みながら
「はじめまして、私は、アカネ。アカネ=マグダット。そして、こっちのメガネは……」
「アカネ様、メガネ呼びはないでしょう。ミサ様、ミア様はじめまして。私はアカネ様の従者を務めております、ルーベン=スタッドと申します」
ルーベンの自己紹介もそぞろに
「マグダットですって??」
二人の自己紹介にミサたちは驚きを見せた。
やはり、マグダットの名に反応したのだろう。
「そう。私はマグダットよ。このマグダット王国とは関係ない……と、思うんだけど、少しわからなくなってきているわ」
「どういうこと?」
不思議がるミサたちにアカネはここまでの経緯を説明した。
一通りの話を聞き、アカネたちの状況を把握したミサは
「なるほど。事情はわかったわ。にわかには信じがたい話だけど、魔法が原因ならば、転移の魔法でならそういうこともあるかもしれないわね。他にもなにか特殊な魔法が使われているのかも……」
「ねぇ、ミア、こいういう魔法の可能性ってどういうことがあるかしらね?」
「そうだね。うーん……」
姉妹は二人して考え始めていた。
「じつは、そのことで、お二人に力になってもらえたらと思ってここまできたんです」
アイナが二人に話しかけた。
「そうだったの? 確かに面白そうな話だし、アイナの頼みとあれば聞かないわけにもいかないわね」
ミサはにこっと微笑み、ミアもまた、うなずいている。
「ありがとうございます」
「私からもお願いとお礼を述べさせてもらうわ」
アイナとアカネは二人に一礼した。
「そういえば、ミサちゃんたちはどうしてここにいるのですか? ディック叔父様は先ほど、お二人のところに使いをやるとおっしゃったばかりだったのに」
「はっ。もしや、地獄耳の魔法で話を聞いていて、駆けつけてきたとか」
「そんな魔法ないわよ」
ボケなのか真面目なのかわかりにくいアイナの発言に、ミサはつっこみながら
「じつは、国王様から私たちの家にある調査の依頼がきていて、その調査の進捗状況を伝えにきていたところだったの。そしたらちょうどアイナが見えたので、立ち寄ってみたってところよ」
「そうだったんですか。それは。すごい偶然ですね」
「えぇ。さて、さっきの話も気になるけど、それよりもまずは国王様に早くお伝えしないと」
ミサたちは先ほどまでの柔和な顔とは打って変わって厳しい顔つきになっている。
ただごとではないことを抱えているようだ。
「そういうわけなので、そろそろ国王様のところに行かないと。アイナ、またあとでね」
ミサたちが国王の間をあとにしようとしたところ、ミサたちと同様に今度は国王がこの場に現れた。
城内を駆けてきたようで、国王は少し息があがっているようだ。
「おぉ。ミサにミア、ここにおったか。二人が城にきているという話を聞いて探しておったぞ」
「国王様!!」
二人は国王に気がつくと、とっさに頭を下げる。
「おもてをあげよ。それよりも、ここへきたということは、例の調査に進展があったということか?」
「はい。その通りでございます」
先ほどまでの年相応のふるまいを見せていたミサたちだったが国王の前では臣下然とした態度をとっており、これにアカネは驚き気味である。
「では、さっそく申してみよ」
「しかし、国王様……」
ミサは、周囲に目をやり、アカネたちがいる場で話すことをためらっているようだ。
「気にせずともよい。むしろ、このものたちにも関係ある事柄かもしれんのだ」
「……わかりました」
意を決したミサが口を開く。
「結論から申し上げます。国王様の推察通り、黒竜王の封印が解け始めている兆候がみられます」
「……」
その言葉に一同は言葉を失っていた。
あまりの突然のことに、想像が追いつかない面々はそれぞれ表情を浮かべている。
かたや微動だにせず、かたや狼狽しているような、しかし、いずれもが一大事だということを認識しているようだった。
そして、報告を受けた国王はしばしの間をおいて
「……やはりそうか。あい、わかった。して、実際に封印が解けるまでの期間はどの程度になりそうかはわかるか?」
「完全な期間を述べることはできませんが、父からの報告によりますと、よくて一年程度、早くて数か月くらいだろうとのことです」
「なるほど。思っているよりも時間がないのかもしれんな」
「はい。早急に対策を練られるべきかと」
突然の告白に
「ちょ、ちょっと国王様。今の話って本当なの? ……ですか?」
思わずくだけた口調になりそうになりながら、アカネが口をはさんだ。
国王はこくりとうなずき
「うむ。まことの話である」
しばらくの間逡巡し、国王は少しずつ語り始めた。
「じつは、数か月前より、竜の目撃情報が頻繁に確認されていたのだ」
「竜の目撃情報?」
いち早く反応したものはカインである。
「うむ。竜そのものはこれまでも現れておったし、そこまで気にも留めていなかったのだが、一時期を境に明らかに竜の目撃情報が増加していったのだ。
当初はたまたまかと思っていたのだが、偶発的に起きている事態とは思えぬほどまでに竜の情報が増えていってな。そこで、万が一のことを思い、私は極秘裏ににターナーのものたちに
黒竜王の封印状況を調査するよう依頼しておったのだ」
「えぇ、それを受けて、私たちの父が調査団長に抜擢されたの」
「そしてお父さまが人員を集い、黒竜の谷の調査を行っていたのです」
ミサとミアはそれぞれにいきさつを伝える。
「うむ。私は、ターナー家当主のアルバンに依頼し、黒竜の谷の調査にあたらせておったのだ。これまでに受けていた竜の目撃情報のなかには、
その谷に向かっているものや、そこから動き出しているふしのあるものが見受けられておる。もしやと考えてな。杞憂だったらよかったのだが…… どうもそうではなさそうだな」
国王の間に、張り詰めた空気が流れている。
窓の外に見える小鳥のさえずりすら聞こえてくるくらいその場は静寂していた。
一同が驚きを隠せずにいるところに、国王は続けざまに
「おそらく、ザインで魔物が活発になっていることとも無関係ではないのであろう」
「国王様、それでは、今、我が国で起きている事象は……」
カインの言葉に国王は、
「あぁ。私は黒竜王が再び目覚めようとしていることで、魔物たちの行動が活性化しているからだと考えておる」
突然、思いもよらない情報を受け取った面々はそれぞれに、神妙な面持ちをしていた。
先ほどさえずっていた小鳥が、バサバサと羽を羽ばたかせ空を舞っていく。その羽音が、室内に響いていた。
国王は
「先ほどカインたちにマグダットへの逗留を求めたのは、実はこのことがあったからなのだ。ミサたちの報告までにもう少し時間がかかるかと思われていたが、ちょうど都合がよかったのかもしれぬ。
しかし、事象に関しては何ら都合のよいことはないようだ。明日以降、直ちに対策を考えていくゆえ、そなたたちの働きにも期待しておる。ミサたちの力も借りたいのだが、可能であるか?」
「もちろんです。私たちもそのつもりで登城いたしました」
ミサは当然とばかりに返答した。
「うむ。それは大変心強い。アイナたちも、突然このような事態を聞かされ混乱もあるだろうが、おそらくはザインはもとより
マグダットやその他の国も無関係ではないだろう。無論、大混乱を招くことであろうゆえ、大衆や周辺国への開示は時期尚早であるが、事態はひっ迫しているとも考えておる。急なことで申し訳ないが、
ザインも力を貸してほしい」
「それが事実なのであれば、もちろんザインとしても見過ごすことはできません」
「はい。お父さまにも掛け合って必ずや協力してみせます」
カインとアイナの言葉に
「うむ、それはとても頼もしい。して……」
こう述べると、国王は一呼吸おき、アカネを見据えて口を開いた。
国王からの鋭い視線が向けられアカネは、少し気圧される。
「アカネよ。先だっての発言を信じれば、そなたは突如この地に現れた人物ということになる。普通ならばそのような話は一笑に付すであろう。
……しかし私はそれが嘘とも思っておらぬ。そして、此度の事象において重要な役割をもつのではないだろうかと考え始めておる」
「私は先ほどアカネを前にしたとき、他人という感覚ではなく何かつながりのようなものを感じたのだ。もちろん、気のせいかもしれぬ、だが、
何故か、運命めいたものを感じずにはいられないのだ。奇しくも、そなたも同じくマグダット姓を名乗っておる」
アカネは、じっと国王を見つめている。
国王はさらに大きく間をおいて、
「アカネよ。我がマグダットに、そして、この大陸のために、そなたの力を貸してくれぬか」
突然の国王からの請願とも思えるような申し出に、アカネは思わず「えぇっ」という声をあげ
「こ、国王様、それはどういうことでございますか。私はわけもわからず、この地に送り込まれたものであり、未だにそれらの謎は何一つ解明されておりません。
今のところ私は、マグダット王国とは無縁の人物ということになるでしょう。そのようなものに、国家の大事を担わせるような発言をされるのは……」
「それは確かにそうかもしれぬのだが」
「それに、私は道中で多少の魔物を討伐してみせているものの、
魔法は使えませんし、私の剣技が竜、ましてや黒竜王などととの戦いになった場合どの程度お役に立てるか……」
アカネとのやり取りに国王はふっと目を閉じながら
「うむ。そなたの申すことはもっともである。そもそも単独で黒竜王に勝てるような人間などおらんだろう。だが、私が感じていることはそういう強さに期待しているわけではないのだ。
剣技が鋭い。魔法が得意。力自慢……そういったことではなく、ただ漠然と、こやつなら絶望的な状況でも何とかしてくれそうな。そういうものをアカネからは感じているのだ」
「なにを言っているかよくわからぬかもしれん。だが、それでもアカネに頼みたい」
国王はそう述べるとアカネに頭を下げた。
一国の、ましてや大国の王が、素性も知れない自分に助けを願い出ている状況にアカネは困惑しながらも、国王直々の願いを軽視することもできず
「国王様。頭をあげてください。……わかりました。しかし、もう少し考える時間をください。私自身、自分の状況すら、何がなんだかわからないままでは力を貸す以前のことでございます。
もちろん黒竜王の事象は喫緊の問題でしょうが、自身の状況が判明するまで、全てでなくともある程度のことがわかるまでは、なにとぞお時間をくださるよう願います。もちろん、並行して可能な
限りはお手伝いさせていたきだいと思います」
「おぉ、手伝ってもらえるか。確かに、自分が今どうなっているのかわからないのでは、落ち着かないであろう。そちらの解明に関しては
国からもできる限り手を尽くそう」
「私の力が、どの程度お役に立てるかはわかりませんが……」
「よいよい。私が勝手にそなたに期待を寄せているだけである。だが、きっと皆を導いてくれると私は思っておる」
「国王様……」
国王は、アカネとのやり取りを終えると
「では、皆の者、会議を開ける準備ができ次第声をかけよう。数日以内には集まってもらうことにはなるだろうゆえ、その心づもりでいてくれ」
「かしこまりました」
アカネやカインたち皆のものは大きくうなずいた。
「では、私はこれで失礼する。ミサたち二人はもう少し詳しい話を聞かせてほしいゆえ、付き合ってもらえるか?」
「かしこまりました」
そういって国王たちは部屋から出ていったが、途中でミサたちが踵を返すとアカネのもとに駆け寄り
ミサがアカネに声をかけた。
「アカネ様」
「アカネでいいわよ」
「じゃぁ、アカネ」
「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん。アカネ様は王女様なんだよ。いきなり呼び捨ては……」
「なによ、アカネがそう呼んでいいって言ってるじゃない。それをいうならアイナだって王女よ」
「ア、アイナちゃんはお友達でもあるし…… そ、それに、アカネ様は年上でもあるだろうし」
ミサとミアの二人のやりとりに、アカネは微笑みながら
「ミアちゃん気にしないでいいのよ。そのほうが私も気兼ねなく二人にお願いできそうだしね」
「アカネ様、あ、ありがとうございます」
「フフ、ミアちゃんも、気にしなくていいのに」
「あ、う、え、えと……」
ミアは少し恥ずかしそうにもじもじしていた。
「そんなことより、アカネ本題に入るわよ。さっきのアカネたちが転移してきたかもって話。明日にも詳しい話聞かせてくれる? アイナからのお願いもあったし何かしら力になりたいわ。
私たちは家で待ってるから。場所はアイナに教えてもらって。アイナ案内頼んでいいかしら?」
「もちろんです。お菓子とかいっぱい持っていきますね!!」
「……遊びじゃないのよ」
あきれ顔の中にもミサは少し嬉しそうだ。
ミサからの申し出にアカネは
「ミサちゃんありがとう!!」
「……ちゃんづけされるのはなれないわね。アカネもミサって呼んで」
ミサは少し照れたような感じで返答した。
「それじゃぁ、ミサ、頼りにしてるわね。ミアちゃんも期待してるわよ」
「任せて!!」
「はい。頑張ります!!」
二人は胸を張ると、ミアがぺこりとお辞儀をして、国王のもとへと駆けていった。
国王たちの姿が見えなくなると、場に残された4人はだれからともなく、大きなため息がもれる。
やがて、アカネが口を開き
「なんだか、とんでもない話を聞かされたわね」
「そうですね。にわかには信じがたい話ですね。ですが、本当に黒竜王が復活しようとしているのでしたら、それはもはや大陸の危機ということも全く大げさではないでしょう」
「どうしたらいいんでしょうか……」
不安な面持ちをしているカインやアイナに、ルーベンは問いかけた。
「お二人は以前に黒竜王が現れたときの様子はご存知なのですか?」
「詳しくはわかりません。街が瞬く間に壊滅してしまったとか、100人の兵士たちが一瞬のうちに焼き払われてしまったとか、そういったうわさ話のようなものを聞いたことがあるのみです」
「私も、カインと同様にそういった情報しかわかりません。ですが、多くの国や人々は絶望に包まれていたと聞いています。ミサちゃんたちなら私たちより多くのことを
知っているかもしれません。大賢者様の子孫なんですし」
「そういえば、大賢者様の子孫というけど、大賢者様ってどれくらい前の人なのか知ってるの?はっきりとはわからないんだろうけど、1000年? それとも2000年くらいはありそうなのかしら?」
アカネはアイナに問いかけた。
「?? いやいや、そんなに前ではありませんよ。ミサちゃんたちのひいおじいちゃんのひいおじいちゃんって聞いてますから、
今ここでは、正確にはお答えできませんけど、まだ200年は経っていないくらいじゃないでしょうか」
「そうですね。黒竜王が封印されてからそのくらいの年月ですから、その程度でしょう」
「黒竜王についての書物を調べればもう少し詳しいことがわかるかもしれません。ただ、年月も経っていますから保存状況はあまり期待できないかもしれませんが……」
「え??」
アカネとルーベンは何度目かの同時の驚きに
「そんなに最近に活躍された方なの??」
「?? お姉さまはご存じなかったですか? 最近というほどではないでしょうけど、太古の昔というほどでもないと思います」
「アカネ様の国ではあまり黒竜王の話は伝わってなかったのでしょうか」
「い、いえ、黒竜王のことはみんな知っているはずよ。でも……」
アカネは自分が知っている黒竜王の話とは、明らかに討伐時期が異なっていることに困惑が隠せなかった。
それはルーベンも同様である。
しばしば目にするアカネたちの狼狽具合に、カインが気をきかせて
「さて、ここまでいろいろな出来事が起こりましたし、外を見ると、もう日も落ちかけています。
アカネ様たちもお疲れでしょうし、そろそろ本日はお休みにいたしましょう」
アイナもアカネたちの様子を見て同調し
「そうですね。それがいいと思います。明日はミサちゃんたちの家まで私が案内しますので、朝にも、お姉さまの部屋に迎えにいきますね!!」
アイナは気持ちを切り替え、ふんすっと意気込んでいる。
「え、えぇ。そうね。今日は休ませてもらうとするわ。アイナ、明日はよろしく頼むわよ!!」
「はい、お姉さまこそ、寝ぼすけさんにならないでくださいね。ふふ」
そう言い残すと、カインとアイナは、それぞれ用意された自室へと向かっていった。
国王の間に残されたアカネとルーベンは互い視線を合わせつつ、やがてアカネが意を決したように
「……十中八九、間違いないのかもね」
「……信じられませんが、そうなのかもしれません」
二人は今、自分たちがおかれている状況は場所を乗り越えたのではなく、時間を飛び越え、過去に来ているであろうことに認識を強めていた。
「そうなってくると、こちらからできることなんて皆目見当がつかないわね」
アカネは、手の打ちようがないことに半ばお手上げ状態だ。
「そうですね。私もこのような事象や、魔法に関しては聞いたこともありません」
二人は、しばらく立ちすくんでいた。
窓からのぞく外の風景は、夜の帳がおろされようとしている。
「……まぁ、まだ確証はないわけだけど、明日以降はそういう前提で動いていきましょう。何か決定打になるようなものがないかも注意しつつね」
「えぇ。私も、この時代の書物等を可能な限り調べてまいります」
「そうね。ルーならそういうことが得意なんだし、お願いするわ。それに、幸い明日はミサたちが相談に乗ってくれるっていうし、そこは心強いわ」
「そうですね。私も、大賢者様の子孫でしたら、もしかしたら本当に何かわかるかもしれません」
二人は自分たちが置かれた状況がとんでもなさそうなことにも関わらず、自分たちの事情が少し判明したような気持ちになり、どこか心の平静は取り戻しつつあった。
アカネは、突如顔をパンっとたたき
「さて、国王様からの黒竜王の話も気になるけど、まずは、私たちの状況をはっきりさせましょう。
では、今日はこれでおやすみね。ルー、明日は、私の部屋に集合よ」
「わかりました。私も、ミサ様たちとの会話に備えて、いろいろ考えておきます」
「えぇ。じゃぁ、また明日ね」
そうして、二人はそれぞれの部屋へと向かっていき、夜が更けていった。




