第14話:草原の激突 3
カインはミアとともに、数十メートル先に陣取っている魔物の群れと対峙する。
(この数は、正直初めて見るほどの大群だ)
カインは魔物の量に圧倒されていた。
複数の種族がそれぞれ10~30体近くは見受けられる。
おおよそが横並びになっており、その全長もまた数十メートル以上はゆうにあるであろう。
「カインさん。どう対処しましょう?」
ミアからの問いかけに、はっと我に返るカイン。
「そうですね、ミア様。ここは兄上が手配してくれている騎士団の到着を待って攻撃を仕掛けたいところですが、それまで敵側が大人しくしていてくれるかは疑問が残ります。かといって、こちらは私とミア様のみ。作戦をたてるならば、私が敵の気をひき、ミア様の魔法で攻撃するのがベストだと思います。しかし、敵の群れの布陣が……」
カインが難色を示しているところ、ミアも同調して
「そうですね。魔物がそれぞれ魔法属性の異なる耐性を持っているようですね。それが入り乱れていて、おまけにいたずら猿まで見えます。魔法による一掃は難しいかもしれません」
ミアが言うように、魔物はそれぞれ属性に耐性を持つものは珍しくない。例えば風魔法を苦にしない魔物がいれば、どんな強力な風魔法を放ったとしてもあまり効果は認められない。それどころか、その風魔法を吸収して自身の力へと変えるものも存在する。もちろんそれは、風魔法に限らず、火や水、雷など魔法全般に言えることだ。
カインたちの前にいる魔物たちは、それぞれ、得意不得意の耐性がはっきりしている種族が多く、また、それぞれの種族同士で固まっているわけではなく、ばらばらに混在していた。
なかでも、ミアが言及していたいたずら猿は、名前から受ける印象よりもやっかいな魔物で、それほど強力な魔法は扱えないが複数の系統の魔法を操り、魔法耐性もまた複数持ち合わせている。
物理攻撃に弱いことが弱点であるが、現状では、多数の群れの後方に陣取っており、なかなか接近することは困難だろう。いたずら猿が後方から魔法を繰り出し援護しながら、その他の魔物たちが一斉に突撃してくるということも容易に想像できる。
そしてそのいたずら猿の前に布陣をとっている魔物たち。
まずは、三角サイ。名前の通り、三本の角が特徴で、体は全長2mを超え、300kg近い巨体で突撃してくる魔物だ。鈍重そうな見た目とは裏腹に素早さも兼ね備えていて、まともに攻撃を受ければ致命傷は避けられないといった攻撃力を誇っている。
また、硬い皮膚も特徴的で物理攻撃や魔法攻撃の多くを防ぐ防御力を誇っている。ただし、角が弱点となっていて、一本折られるごとに動きや守備力が弱体化し、3本折られてしまうと、たやすく討伐されてしまうほどもろくなる。
魔物の強さととしては中位~上位といった実力者だ。
次に見えるは麒麟。馬のような竜のような見た目をしており、鋭い爪や牙で攻撃を行うほか、炎や雷をまとっといて、それらを操った攻撃も行う。それに加えて、雷や炎による攻撃を無効化、または吸収して自らの攻撃力へと変える能力を持ち合わせており、攻撃的な性格もあいまって非常に手ごわい魔物だ。取り立てて弱点もなく、こちらも強さとしては中位から上位に位置しているといえよう。
最後は、水妖馬。水を操る馬の姿をした魔物で、鉄砲水を放つ攻撃や、近場に湖や川などの水場があればそれらの水を意のままに操作し、大津波などを起こすこともできる。当然、水による攻撃は無効化して吸収してしまう特徴がある。また、雷魔法にも耐性があり雷魔法を受けることで雷要素を吸収し、それを含んだ水を放つことが可能になるといった特徴を持つ。ただし、耐久力は低く、水を操る以外にはそれほど脅威がない魔物であるため、強さとしては中位であろう。ただし、単体で現れた場合に、討伐はそれほど難しくないということであって、今回のように複数の魔物と現れ、サポートにまわられると対処の難度は跳ね上がってしまう。
ミアは魔物の陣を見ながら
「カインさん。敵の陣形を見るに、魔法攻撃を想定しているかのように見えます」
先ほどから見えている通り、魔物は、種族が順不同に並んでおり、例えば、雷魔法を討てば麒麟や水妖馬が強化されてしまい、水魔法を撃っても水妖馬が、火炎魔法を使えば麒麟がそれぞれ対処するであろう。
風魔法が有効にも見えるがその場合は玉砕覚悟で三角サイの突撃や、いたずら猿の動きが不気味だ。
「そのようですね。私たちを捕捉しているはずなのに、じっと構えているだけなのは謎ですが、魔物たちから殺気は感じますし、このまま手をこまねいてもいられません。しかし、不思議ですね。通常なら複数の魔物が同時にあらわれることはあるものの、これだけの数でこのように統制がとれているかのようなことは。通常ならすでに襲い掛かってきているはずです。まるで、誰かが指示しているかのようですね」
「えぇ。私もそう思っていました」
カインたちは魔物の行動に不気味さを感じながらも
「とはいえ、このままにらみ合っているよりかは、今なら先制攻撃が可能です。こちらからうってでるほうがいいかもしれません。やはり、私が囮となり、ミア様の魔法にお願いするという形で行かざるをえないでしょうが」
カインは、ミアの魔法を目にしたことはなかったが、しばしばアイナやアランなどを通じてミアやミサのことを聞いており、ミアに全幅の信頼を置いていた。
なにより、兄のアランが自分とミアの二人で対処できると考えていることが証拠であるとも思っていた。
「ですが仮に全てが一斉に突撃してきた場合、広範囲にわたっていますし耐性持ちが混ざっている以上、なにか手を打ちませんと。まずは、どれか一つの種族だけでも討伐できればいいのですが……」
カインとミアは知恵を絞り合った。
その間も、魔物たちはじっと動きを止めたままこちらをにらみ続けている。
草原には、少し強めの風が吹き抜けていった。
やがてカインが口を開き
「……なかなか無茶苦茶な作戦な感じですが、このような作戦はいかがでしょうか」
「どのような感じでしょう? おっしゃってみてください」
カインは、今しがたの風を受けて思いついたか、無謀だと思いながらも作戦を口にする。
「まずは風魔法で、敵をけん制してください。おそらくいたずら猿は自分や周囲を風から守るような魔法を放つでしょう。そこで、三角サイが動ける程度にそれ以外の敵の動きを封じてください。三角サイはいずれの魔法も効きにくいですから、彼らだけを動ける程度に魔法を調節すればこちらに突撃を仕掛けてくると思われます。そこで、私が前に出て三角サイをひきつけますので、やがて三角サイが私に向けて集まってきたところに大穴をあけて落とし、雷魔法などで討ち落とすというのはいかがでしょうか? これで、まずは三角サイの討伐ができるかと……」
カインは自分で作戦を口にしながらも、その内容の無謀さを理解していた。
それは、この場に平均的な実力を備えた魔導士が20人ほどいても実現できないと思える内容だからである。
魔法の威力や範囲の調整、次々に放たなければいけない大掛かりな魔法。それらを扱うための詠唱時間……
(いくらミア様でも、このような荒唐無稽な作戦は無理でしょうね……)
ミアは難しい顔をして考え込んでいる。
それを察知したカインは
「申し訳ございません。やはり、立て続けにこれほどの大掛かりな魔法を繰り出すのは難しいのはわかっております。忘れてください。別の作戦を練りましょう」
しかし、ミアはカインの声をさえぎるかのように
「いえ。その作戦でいきましょう」
「え?」
「ただ、カインさんがおっしゃったように、その流れを一人でやりきるのは難しいと思います。それぞれの魔法を発動させるのに、おそらく時間が足りません。ですが、後ろにお父さんが控えてくれています。なんとかお父さんに、こちらの作戦の意図を伝えられれば……。 具体的にはお父さんが穴をあけてくれればなんとかなると思います」
カインはミアの返答に思わず驚いた。
(私の提案した作戦ではありますが、これだけ無謀ともいえるものをできると判断されている。やはり、ミア様のお力は並大抵ではないのでしょう)
「ただ、作戦がはまったとしても、敵が必ずしも私に釣られてくれるとは限らないという問題もありますね…… その場合ミア様を危険にさらしてしまうことになってしまいます……」
そんなとき後方から、甲冑のすれる音とともに
「ミア様、カイン殿ー!!」
と叫ぶ声が聞こえた。声の主はドーンである。
ドーンの後ろには数十人の騎士団が続いていた。
どうやら、騎士団が到着したようだ。
ドーンは重そうな鎧をものともしないかのような走りでカインに近づき
「カイン殿、ミア様、遅ればせながらはせ参じさせていただく。リロイから説明は承り、ただ今よりマグダット騎士団はカイン殿の指揮下に加わった。今から俺を含めここのものたちはあんたの部下だ。さぁ、遠慮なく命令してくれ」
「ドーン殿。ありがとうございます。大変助かります」
カインは、懸案だったミアの護衛を含め、手始めの作戦をドーンに打ち明けた。
ドーンもまた無茶な作戦に驚いていたが、ミアの表情から作戦に疑念を持つことはなく、また自分の役割が得意分野であることに、笑みを浮かべ
「なるほど。理解した。なんだか壮大すぎる作戦だが、守備なら任せてくれ。このドーンをはじめとして、重騎士隊、この身にかえてもミア様をお守りしますぞ、なぁ、みんな!!」
「おぉー!!」
「もちろんです、お任せください!!」
ドーンの同僚である団員たちからも力強い声があがる。
同時に、カインとともに囮役を演じる団員も選抜され
「それでは、危険ではありますが、私とともに、囮役を務めてもらうものもお借りいたします」
「もちろんだ。これを怖がるようなむ軟弱なものは、ここにはおらんよな?」
「当然です!!」
再び、団員から力強い声が上がる。
「うむ、では、お前たち、頼んだぞ!!」
カインは数名の団員とともに心構えをする。
残るは、ミアの準備次第である。
カインは、考え込んでいたミアに目を配ると、やがてミアは、後方のアルバンたちに向かって風魔法を唱えた。
(お父さんならこれで察してくれるはず)
アルバンとリロイもまた、ミアがこちらに向かって放った魔法に気がつきミアの方に向き直った。
その魔法は、当然人を傷つけるようなものではなく、さながらそよ風のような強さであった。
「アルバン様、何やらミア様が伝えたいことがありそうですね」
「どうやらそのようだね。何か手伝って欲しいことがあるのだろう。しばらく様子を見よう」
「しかし、ミサ様の方にも注意を向けませんと。先ほどはアルバン様のお力で攻撃を防げましたが、再び火吹き鳥に怪しい動きがみられます」
リロイはミサ陣営にも気を配っていたが、アルバンはまるで気にしていない様子である。
「そうだね。でも今はミアたちの方に注力しよう。なに、ミサたちは全く問題ないよ」
ミアやミサたちのいる場所からは高台になっているアルバンたちの居場所は、遠巻きながらどちらの陣営の動きも察知することが可能である。
ミサ陣営の動きを気にしているリロイであったが、アルバンはやはり意にも介さずミアの方を注視していた。
(アルバン様は大丈夫と言われているが、あれだけの数の火力本当に問題ないのでしょうか。いくらミサ様といえども……)
しかし、リロイの心配をよそにミサはこともなげに巨大な火炎を繰り出して火吹き鳥の攻撃を防いだ。
「ね? リロイくん。問題なかったでしょ」
リロイはあっけにとられながら、ミサが放った大きな炎を見つめている。
すると、しばらく風魔法が続いていたところに、突如アルバンたちの目の前に大きな音とともに巨大な穴が現れた。
「な?!」
リロイは、今度は自分たちの前で起きた出来事に面をくらったものの、アルバンはすました顔でミアの方に目を向けたままだ。
そこには、かなり先に見えるミアがアルバンに向かってお辞儀を繰り返している様子がみてとれた。
ミアはどうにか伝わって欲しいとお辞儀に思いを込めていた。
その動きにアルバンは、しばし考えこむも
「ふむ。 ……なるほど。わかったよ、ミア」
「え? なにがですか?」
リロイは一連の出来事に頭が追いついていなかった。
「流れを見るにミアが風魔法で仕掛けるから、頃合いを見計らって私に穴を作って欲しいのだろう」
アルバンは目の前にできた穴を見つめながらそう返答する。
「ほ、本当なのですか? だとしても、どのようなタイミングで、どの敵を狙えば?」
「なに、それはミアや状況を見ていればわかるだろう。私はそれにうまく対応するだけさ」
アルバンは笑ってそう答える。
「おおかた、敵を誘い込むためのものだろう。さしずめ、三角サイだろうな。私はそれに備えるのみだ。リロイくんも不測の事態に備えていて欲しい」
そういうと、アルバンは、一発、大きな火球を空に向かって撃ち放った。
それは、作戦の把握を合図するものだった。
リロイはアルバンの考えが正しいのか、わけもわからぬまま立ち尽くしているままである……
一方、ミアはアルバンからの火球を確認すると、にっこりと微笑み
「カインさん、お父さんに伝わったみたいです」
「え? 本当なのですか?」
カインは、ミアがアルバンに向かってどのようなことをしていたのかは全くわからなかったため、半信半疑である。
わかったことといえば、お辞儀を繰り返していたことだけだったが、ミアの確信した表情をみるに大丈夫だと判断し
「わかりました。では、作戦を決行しましょう」
カインはそう口にすると、矢継ぎ早に団員たちの布陣を整え、
「ミア様の魔法を合図に私とともに行動するものたちは前に出る準備を、その後は私に続いてください。ドーン殿たちはミア様をお願いいたします」
「おう。引き受けた」
ドーンの力強い声がこだまする。
カインや団員たちは表情を引き締め、来たる攻撃に備えている。
あたりは、先ほどまで吹いていた風もおさまり、まさに決戦前という雰囲気が漂っていた。
「では、ミア様お願いします」
カインは、軽く目をつぶり深呼吸をしたのち、ミアに攻撃を促した。
そのとき、どこからともなく
「では、こちらも始めよう」
という声が聞こえてきた。




