第13話:草原の激突 2
誘惑鳥の攻撃を受け催眠状態に陥り、無防備な魔導士たちのもとを一斉に火球が襲う。
後方で戦況をうかがっていたリロイは、火吹き鳥の攻撃が行われる前にその動きを察知し、アルバンに進言していた。
「アルバン様、火吹き鳥に動きが感じられます」
アルバンは意に介さず
「そうだね。でも今はミアたちの方に注力しよう。なに、ミサたちは全く問題ないよ」
そう返答した直後、火吹き鳥たちが一斉に火球を吐き、催眠状態の魔導士たちに襲い掛かった。
「なっ」
リロイは思わず目を背けそうになってしまったものの、ミサが
「あまり私を見くびらないで欲しいわ。さっきは少し油断してしまったけど、この程度どうということはないわよ」
「ブライトレッドウォール(紅蓮の障壁)」
ミサが唱えるとそこに、無数の炎が巻き起こる。それは一瞬のうちに魔導士たちの周囲を補って余りあるほどに広がっていった。それは、先ほどアルバンが作り出した炎の壁の数倍はあろうかというもので、敵が撃ち出した火球のすべてを飲み込んでいく。
その光景はまさに圧巻で、誰もが息をのむものだった。
そうして、全ての火球を打ち消した炎の壁は役目を終えると、静かに姿を消していく。
「ふふ。父さんに負けてられないわ」
ミサは笑顔で後方にいる父の方向を向いていた。
「ね? リロイくん。問題なかったでしょ」
「は、はい」
「さぁ、ミアの方は……」
アルバンは当然といった感じで微動だにせず、ミアたちの方を注視している。
リロイは返答しながらも、あまりの魔法に言葉を失っていた。
(これが、大賢者様の血筋ということか。久しぶりにミサ様の魔法を見ているけど、前に見た時よりもずっと力があがっていそうだ。正直、私程度とはレベルが違いすぎるな……)
(な、なによこれ…… ミサってこんなにとんでもないの? さっきの石の壁もすごかったけど、こんな魔導士見たことないわ)
一方、アカネもまた、ミサの魔法を目の当たりにし、絶句していた。
「ふぅ。これでとりあえず、この場は大丈夫かしら。無事な魔導士たちは誘惑鳥を中心に、無防備となっている火吹き鳥にも攻撃を仕掛けて。私は催眠をといてまわるから、みんな、その辺よろしく頼むわよ」
『はい。ミサ様お任せください』
催眠から逃れていた魔導士たちはミサの指示を受け、次々に敵を討ち落としていく。
「アカネ。なに、ぼーっとしているのよ。あなたには、まだ催眠耐性の魔法が残っているわ。思い切って戦ってみなさい。危なそうだったら私がサポートするから」
あっけにとられていたアカネにミサが進言する。
「ミサって本当にすごいのね? さっきから驚かされっぱなしだわ」
「ふふ。だったらアカネもいいところ見せてよね」
ミサはにこっとアカネに向けてウインクをする。その姿はおよそ、戦場には似つかわしくないツインテールの美少女だ。
何も知らないものが彼女を見れば、先ほどこの場に広がっていた炎の壁をつくりだしたものだとは思いもよらないであろう。
「えぇ。わかったわ。やってみる」
アカネはミサの言葉を受けると剣を握りしめ、一匹の誘惑鳥に狙いを定めて、斬りかかる。
相手もまた、覚悟を決めたのか玉砕上等といった様子でこちらに突っ込んできた。
アカネは、剣の腹を使って上手に敵の攻撃を弾き、勢い余ってアカネの後ろに飛んで行ってしまった個体をふりむきざまに斬りさり見事に討ち果たした。
アカネは親指を立ててミサにアピールし、ミサもやったわねと言いながら味方の催眠をといて回っている。
そうして周囲を見渡せば、あれほどいた敵の集団はほとんどが討ち落とされ、今まさに最後のブラックコンドルがアランによって倒された。
アランは、ふぅっと汗をぬぐいながらアカネたちの方へ向かっていく。
「よし、なんとかなったかな」
「さすが、アランね。なんか腹立たしいけど実力は本物よね」
「ははは。ミサちゃんに認められるなら、いばってもいいかな」
ミサはつんとした表情をしながらも、ほっとした感じでもある。
「アランさんって本当にすごかったんですね」
「ん? アカネちゃんも僕に惚れちゃったかな?」
「アカネちゃんもって、なんなのよ、もって。私は全く惚れてなんていないわよ」
すかさずミサがつっこむ。
「ははは」
アランは軽く笑いながらも、戦闘中に聞こえた声を気にかけていた。
(さっきの敵に指示する声のようなものは何だったんだろう。あの声の持ち主はこのなかにいたのだろうか……)
しかし、ここではそれを確認する術はなく、気を取り直してアカネへ声をかけた。
「そうだ、アカネちゃんに紹介しておくよ。こちらが、マリカ。さっきの城内で紹介しようと思ってたんだけどね。こんなことになってしまったから」
アランの隣には、先ほどアランと一緒に戦っていた女性が立っている。紫の長い髪が特徴的で、すらっとした体型だ。まさに剣士という容貌をしている。
年齢はアカネより少し上といった程度であろうか。
「はじまめまして。アカネさん?でよかったかしら。 私は魔法兵団所属のマリカ=オルセン。黒竜王の討伐に選ばれたようで腕前はさぞ凄まじいんでしょうね」
マリかは悪意があるのかないのか、冷たい雰囲気を醸し出しながら告げる。最後の言葉は少し嫌味な感じをしていた。
「えぇ。黒竜王に挑むものとしては、そうあるべきだと思っているわ」
アカネは負けじと返答するも
「ふーん」
マリカの返しは、そっけないものであった。
アカネはマリカの雰囲気に少し気圧されながらも、気になっていたことを質問した。
「マリカさんは魔法兵団所属だと名乗られましたが、先ほどは剣で戦っておられたようですね。剣術が得意でいられるのですか?」
マリカはめんどくさそうに
「いいえ。魔法で戦っているわ」
そう答えたマリカにアランが補足する。
「マリカは魔法剣士なのさ。自身の魔法を武器に移し、その魔法属性を活かしながら戦う。これはかなり難しいことで、魔法、剣術どちらも高レベルでこなすことを求められるからね。とても優秀な団員だよ」
「アラン様からそのようなお言葉をもらえるとは、まことに感激です」
アランの言葉を聞いたマリカは顔つきがパっと明るくなり、先ほどまでのアカネとの対応とはうって変わって満面の笑みでアランを見つめている。
(なによ。私のときと反応が全く違うじゃない)
アカネはマリカのアランを見る視線と、自分への視線を比べてもやもやしていた。ただ、魔法剣士という存在にひかれるものがあり、思わず
「マリカさん。今度よかったら私にその技を披露してもらえませんか? できたら、指導もしていただきたいです」
「いやよ」
アカネは指導を乞うものの、マリカは即答で断りを入れる。おまけに、あっかんべーのポーズまでしていた。その姿はとてもお茶目である。
考える暇もなく断られたことにアカネは顔を紅潮させつつ
(むっか~。なんなのよ、この人。私、なにかしたっけ?)
「あはは。アカネちゃん、怒らないであげて。マリカはだいたいいつもこんな感じだし、悪いやつじゃないんだ。きっとそのうち仲良くなれると思うよ」
だが、アカネとマリカは一斉に
「それは、ないかもしれないわね」
「ないわね」
ともに同じ言葉を口にした。
「あら? 気が合ったわね?」
マリカの言葉にアカネは
「えぇ。そのようですね」
二人は、ばちばちと視線をやりあっている。まるで、火花が散っている様子が見えそうだ。
しかし、アランは、特に気するでもなく
「さて、それよりも、こちらの被害状況をあらためて確認しよう。怪我をしたものなどはいるか? もしいるようだったら、こちらへ。そのときは、ミサちゃんよろしく頼む」
「えぇ。任せて。でも、私が見て回った感じでは、大事に至っているようなものはいない感じだったわ」
「そうか、それなら何よりだ。皆、優秀で鼻が高いよ」
おぉーっという、騎士団の歓声が周囲で巻き起こる。
「アラン様。私のことも褒めてくださいませんか?」
マリカは期待を込めてアランを見つめている。
「ん? もちろん。マリカには助けられたよ。きみがいなかったらかなり危なかったかな」
マリカはその言葉を聞いて照れながら
「いえいえ、アラン様は私などいなくても、負けるはずがありませんわ」
「いや、今回は、数も多かったからね。マリカの力があってよかったよ。それにしても相変わらずの剣さばき。これからも頼りにしているよ」
「もちろん。お任せください。アラン様のお側は私がお守りいたします!!」
マリカはピタッとアランの側にくっつき、アカネの方を振り返ると、アランとの距離を見せつけるように、再びべーっと舌を出していた。
(な、本当に、なんなのよ。この女!!)
アカネはマリカの態度にわけもわからず、ただただむかむかしていた。
アランは団員たちを一回り確認すると
「よし、みんな無事だったようだね。今回はありがとう。そして、向こう側ではまだ仲間たちが交戦中かもしれない。助太刀にいくよ」
アランはカインたちが戦っているであろう方向を指さし、団員たちを鼓舞する。
おぉーっと、再び騎士団から歓声があがった。
「よし、じゃぁ、いこう。アカネちゃんも大丈夫かな?」
「えぇ。問題ないわ」
アランからの声掛けに、アカネは自身の気合を入れ直すも
「アラン様の隣は譲らないわよ」
「はいはい。どうぞ、どうぞ。お好きにしてください」
こちらをむすっとした目で見つめるマリカから言葉を投げかけられ、アカネははぁっとため息をするかのようにあきれ気味に返答していた。
しかし、アランのアカネの安全を思って放った次の言葉に
「ん? アカネちゃんはあまり僕の側を離れないで欲しいな」
マリカはキッとした目でアカネをにらんだ。
そこで、アカネはようやくマリカがつんけんとした態度をとることを察し
(そうか。マリカさん。きっとアランさんのことが好きなのね。それで、私にぶっきらぼうなんだわ。私は、別にアランさんにそんな気持ちなんてないのに。確かに強いし、かっこいいけど、そういうのはないんだからー)
アカネは悶々としながら、ぶんぶんと手を振りながら体を動かしてアピールしている。
残念ながらマリカには伝わっていないようで
「というわけで、アカネちゃんはこっちへ。一緒にいくよ」
アランは、アカネに手を伸ばし自分の方へ招き入れる。
(あぁ、もう。アランさんもまたそういうことをするー)
アカネは、アランの横に移動しながらおそるおそるマリカを見ると、やはりこちらを鬼の形相で見つめていた。
「ん? 二人とも見つめ合っちゃって、やっぱり仲良くなれそうかな?」
『見つめ合っていません』
「うん。仲良しだね」
二人の返答は息がぴったりだった。
「では、これより、カイン、ミアちゃんたちの応援に向かう。みんな、準備はいいね」
アランの合図に一同が応じたとき、遠く空から、なにか巨大なものが羽ばたいているような轟音が近づいてくるのだった。




