第66話 私たちが離れることがありませんように
冬の昼下がり、レイフが散歩に行こうと私に声をかけた。彼は庭に咲いていた四季咲きの黄色いバラと白いベルのような形をした花をいくつか庭ばさみで切った。
(お花をどこに持って行くのかな)
私たちはマントを羽織って一緒に聖堂の奥に回った。少し行ったところに綺麗に刈り込まれた低木の生け垣の囲いがあって、その中に石の碑が幾つも建てられていた。
「……ここって、もしかしてお墓?」
「そう、俺の祖父母が眠っている場所だよ」
彼は持ってきた花を二つ並んだ石碑の前にそっと置いた。
「君のいた世界でも、こういうことはするのか?」
「する……お花を供えるのも同じ……その人が好きだったものを供えたり」
「好きだったものを?」
「……うん」
「ほとんど同じだな。不思議だな……違う理の元、全く別の場所なのに」
「……同じなんだと思う。人を大切に想う気持ちは……。大切に思って、大好きになって。亡くしたら悲しくて、声が聞きたくて顔が見たくて仕方がないのも、同じなんだと思う」
彼は私の言葉を目を閉じて聞いていた。切なげに少し寄せられた眉根は、もう会うことが叶わない祖父母を思い起こしているからだと思った。私はそんな彼を見つめることしかできなかった。
やがて目を開くと、彼は低い声で呟くように言った。
「大事なことはいつも報告しに来ている。君のことも伝えておきたくて」
マルガレーテさんが言っていた。以前、素導師の正装をしたレイフが突然現れたって。
「……素導師になったときも?」
「ああ。祖父は……間に合わなかったから」
やっぱり、彼は素導師になった報告をするために祖父の眠る墓地へ来ていたんだ。
彼は石碑から目を離さずに言った。
「あと1年早ければ……もっと死に物狂いでやればよかった。そうしたら……」
首を小さく振った。
「いや、恐らく間に合わなかっただろう。……それでも、考えずにはいられないんだ」
彼はかすれた声で続けた。
「時間は無限じゃない。いつも会える人が、いつまでも会えるとは限らない……急に終わってしまうことだって……」
それは彼が実際に体験したことだったのだろう。彼の後悔は今も疼いているのだ。
――急に夢から覚めたら怖いと思った。
私はユリに戻ってしまうかもしれない。それが怖かった。今も考えると怖い。それは彼も同じなのかもしれない。誰だって確実な明日があるとは、いつまでも同じ日々が続くとは約束されていない。私の不安も彼の後悔も、どこか似通った所があるのかもしれない。
彼の後悔を私が消し去ることができないように、私の不安も完全には消えない。でも、その悲しみに寄り添いたい。どうにかしてあげたいと痛いほどに願う。
私は石碑を見つめる彼の背中に頬をつけると、腕を精一杯伸ばして彼を包みこんだ。
彼は胸に回された私の手を強く握った。
――今、ここにいる私たちが、どうか離れることがありませんように。




