第6話 新たに用意された客間
ある日、レイフォードさんの書斎で彼の研究に付き合っていたときのこと。執事が気配もなく忽然と現れ、よろしいでしょうかと彼に尋ねた。手元の記録に目を走らせながら彼は小さく頷いて許可した。
「ヒューバート様がお見えになるとのことでしたが、お部屋はどのようにいたしましょうか?」
(ヒューバート様? 誰かお客さんが来るのかな)
「いつもの部屋でいい」
(いつもってことは、よく来ている人?)
「恐れながら、現在はリリアナ様がお使いです」
そこでようやく彼は顔を上げると、虚空を見て少し考えた後に言った。
「ヒューは、屋根裏でも納屋でも構わない」
執事の眉がほんの少し動いたように見えた。
「さすがにそのような訳には参りません」
私はいたたまれなくなって思わず口を挟んだ。
「あの、私が屋根裏へ移動しましょうか?」
(納屋は嫌だけど屋根裏なら。私は居候だし)
「駄目だ」
彼は私に視線を向けて間髪入れずに言うと、「使ってない部屋を新たに客間にしてくれ。最低限の設備でいい」と執事に指示した。
「では、そちらにリリアナ様が移られるということで?」
分かりました、と言いかけたけどレイフォードさんに鋭く遮られた。
「違う」
中断された仕事の続きを始めた彼は視線を書類に落としたまま淡々と言った。
「最低限の方がヒューだ」
「……よろしいのですか?」
執事が答えた時、目の端で私を見た気がした。
「無論だ。あいつは気にしない」
なおも言いたげな執事の様子に私はまた余計な口を出してしまう。
「私、最低限の部屋でも大丈夫ですけど」
「駄目だ」
レイフォードさんの有無を言わせない口ぶりに、執事も私もそれ以上何も言うことができなかった。私を優先してくれたようだったけどよかったのだろうか。
(どんな人なんだろう。納屋でもいいって、どういう意味なんだろう)
私はまだ見ぬヒューバート様に好奇心をくすぐられるのだった。




