第59話 本当の選択肢
ヒューさんの雰囲気がいつもと少し違っていた。
変わらず優しい、でも私に突きつけてくる。
――君が自分で考えて、きちんと答えを出すんだ、と。
彼は私の手を両手で包み込むようにそっと握った。
「リリー、覚えてる? 『オオカミとウサギの旅』の話」
「……はい」
「君に俺の”ウサギ”になってほしいんだ。思いやりあってお互いに支え合って、これからの日々を君と一緒に過ごしてゆきたい。
……俺はあの時、お互いに落ち着ける居場所が見つかると良いね、って言ったよね。それを君と探したいんだ」
彼は目を伏せて、両手で包んだ私の手を口元へ近づけた。その仕草はまるで祈っているようだった。
言葉が見つからない。
彼を傷つけたくない。
私を幾度も助け、支えてくれた彼の願いに応えたい。
――だけどこの願いだけは……真摯な想いだからこそ、簡単に受け入れてはいけない。
彼は顔を上げると穏やかに私を見つめた。
「リリー、正直に言うんだよ。今、俺にここにいてほしい? それとも一人になりたい?」
私は彼にいてほしいのだろうか。このまま彼がそばに寄り添ってくれたら、考えることをせずに甘えてしまいそうだった。一人で落ち着いて考えなくてはならない。答えは私が出さなくては。
「……今は……一人で考えたくて……頭の中ぐちゃぐちゃで……。ごめんなさい。でも、ヒューさんに言われたこと、本当にちゃんと考えるから」
「謝らなくていいよ。昨夜も言ったけど、俺にいてほしいときは躊躇わずにすぐに呼ぶんだよ。いつでもいいから。すぐに駆けつけるよ」
彼は女の子が欲しい言葉を惜しみなく与えてくれる。
――こんなこと、あの人は絶対に言わない。
「もしここにいるのが辛かったら、どこか宿を取ってあげるよ。今夜からでも移れるようにするから」
「宿……」
「そう、旧都は観光地だから手頃で小綺麗な所もあるよ」
そうした方がいいのだろうか。あれから私はここに引きこもってるから姿は見ていないけれど、あの人はここにいるだろう。でも、逃げたと思われたくなかった。
「……ううん、ここで大丈夫です。ちゃんと、自分で答えを出すから」
その言葉を聞くと彼は目を伏せた。やがて顔を上げた彼の瞳には切なそうな影が差していた。
「……分かった。一緒にいられなくても君のことを想ってるから」
「本当にありがとう……」
彼は部屋を出る時、見送る私に向き直った。
「リリー……これだけは男女じゃなくて親愛の気持ちだから」
彼はそう言って私の頭に優しく手を乗せると、屈み込んで額にそっと口を寄せた。
触れるか触れないかの、淡い口づけ。
「素導師からの加護を。君が自分のいるべき場所を見つけられますように」
私は彼の広い背中が見えなくなるまで見つめていた。




