第52話 もう遠慮はしない
リリーは最初、ただの田舎の女の子だった。なんとなくもう随分会っていない故郷の妹を思い起こさせた。源素がないなんて、不可思議なおまけが付いていること以外は何も特別なところがない平凡な子だと思っていた。
話すと面白いし賢くて、それに言葉選びが謎すぎて、俺の心に妙に引っかかった。ご多分に漏れず、彼女もレイに熱を上げてるみたいだった。学生時代からそうだが、あいつの見た目は女子受け抜群だからな。でも勝手に期待した女の子があの合理的すぎる中身とキツイ受け答えを目の当たりにして、離れていく。彼女もそうなるだろうと、ちょっと気の毒に思って見ていた。
――愛だの恋だの。あいつなら「その定義は?」「愛と恋の違いは?」とか言い出しかねない。
どこで彼女を見る目が変わったんだろうか。
たぶん、あの時。
レイの素導館の庭にある東屋で『オオカミとウサギの旅』の話をしたとき。ふと漏れた俺の本音に彼女は思いがけない熱量と手の力で返してくれた。
照れも色気もなく『ヒューさんは中身も外見もすごくかっこいいですよ』と言い切る彼女。素導師の立場とか体格、髪や目の色、そういうのは褒められ慣れていたけれど。子どもみたいなあけっぴろげな言い方が、心の奥まで驚くほどまっすぐに届いた。
これまでにも女の子と付き合ったことはある。でもいつも友達の延長線上だった。結局、俺たちは友達みたいだね、と別れる。
――俺は誰かの特別にはなれないのかな?
人は好きだ。仲間と過ごすのは楽しい。友人は多いと思う。助けてくれる人も、他愛のないことを話せる人もいる。だから孤独じゃないかというと、そうではなかった。
一緒にいるのに感じる孤独。
浮いてるでもなく、沈んでるでもなく。
皆の中で俺は存在しているのか分からない。
――俺を感じさせてくれる誰かが欲しい。
時にこの世はあまりに辛辣で過酷だ。高すぎる絶望の壁に押しつぶされそうになる。とても乗り越えられないと何度思ったことか。でも俺だけの誰かがいてくれたら、その人のために俺は強くなれる気がする。
レイから手紙でリリーの世話を頼まれたときは驚いた。てっきり、あいつはリリーのことが好きなんだと思っていた。だから手を出さずにいたというのに。
理由はよく分からないが、どうせ難しく考えすぎているんだろう。リリーとレイの性格を考えると、決定的な相違が出てきて一緒にいたくなくなったというより何か誤解がありそうな気がしたが、あえて詮索はしなかった。
あいつがリリーから手を引く決意をしたのなら、もう遠慮することはない。
あいつも大概、間抜けだな。意外と抜けてる所あるからな。
それを指摘するのがいつも俺の役目だったけど、今回はしない。
あいつ、俺の側にいるリリーの姿なんて耐えられるのかな?
自棄になってあの従姉妹と結婚したりしないだろうな。
それか、反動で一生独身を貫くか。
――でも悪いけど、俺も必死だから。




