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恋を知らない素導師様は  〜君という難問に抗えない〜  作者: 井ノ上 杏
第三章 源素と祭り

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第41話 どこでも君を見つける

 お祭りの会場である村の広場の中央には、特別に設えられた舞台と祭壇があった。そこで午後にレイフォードさんが儀式をするのだ。

舞台の周りを含めた至る所がランタンや花、旗で飾られていて、広場に通じる道には露店が立ち並びまだお昼前だというのに人で溢れていた。


「すごい、こんなに人が集まるんですね」

「この村以外にも周辺から沢山来るからね」


 私はあちこち目移りしながらヒューさんと並んで歩いていた。

「ほら、こっち」

大きな荷物を持った人が近くを通りかかってぶつかりそうになった。それに気づいていない私の腕をヒューさんが自分の方に引いた。

「あ、ありがとうございます」

「人が多いから気をつけて。はぐれないように手でも繋ぐ?」

そう言って彼は優しい微笑みで片手を差し出した。


 手を繋ぐのは気恥ずかしい。ちょっと距離が近すぎる気もするし。

でもその手を取らないのは彼を傷つけそうで、代わりに私はその腕に自分の手をかけた。

「手を繋ぐのは子どもみたいでちょっと恥ずかしいから、腕で」

そう言って彼に微笑み返した。


「リリーちゃん、最近服装が変わったんじゃない?」

「旧都に行った時にレイフォードさんの実家で色々貰いました」

「へー、いいじゃん。似合ってるよ」

「ありがとうございます」

てらいもなく彼は率直に褒めてくれる。だから自信のない私も褒め言葉を自然に受け止められる。


「あそこ見てもいいですか?」

飴細工の屋台を私は指さした。職人が熟練した手つきで熱い飴を扱い、動物や何かのモチーフを作っていく。子どもに混じって私も次々に出来上がる飴を眺めていた。

「すごい……なんの形なのかな」

「あれが土のモチーフだよ。いくつかパターンがあるんだ」

思わず口にした私の疑問にヒューさんが教えてくれた。


「あの、これを二つください」

飴を買った私は受け取ると、その場で一つをヒューさんに差し出した。

「私のおごりです。私がこの世界で稼いだお金で買った、記念すべき一回目の買い物です」

「これ……ウサギ?」

「はい。オオカミの飴はなかったけど、ウサギがあったから。二匹のウサギになっちゃいましたが」

私は笑った。

「ありがと……でも、リリーちゃんどうやって稼いだの?」

「レイフォードさんのお母さんが私のデザイン画を買ってくれました」

私は旧都でのことを彼に話して聞かせた。


 彼は感心したように私に言った。

「君はすごいな。源素(げんそ)の証明書といい、自分で色々考えついて。もっと幼いかと思ってたけど……思ったより大人なんだね」

「すごくはないですけど、ほぼ大人ですよ。子どもではないです」

「……そうだね」彼は少し考え込むように言った。

「ねえ、ちゃん付けは面倒だし、リリーって呼ぶのでもいい?」

そんなに面倒かな? とちょっと不思議に思ったけど、私は快諾した。


「あ、髪留め売ってる。下を向くと髪が顔にかかるから欲しかったんです」

「見てみよう」

彼は大抵のことに賛成してくれる。それは適当なわけでも自分の意見がないのでもなくて、多分誰かと分かち合うのが好きなのだろう。一緒に彼自身も楽しんでくれるし、快く「いいね」と言って一歩踏み出すのを応援してくれる。彼はそういう優しい人だ。


「この世界では、自分の源素の飾りを身につけるものなんですか?」

「そうだよ。よっぽどそのデザイン自体が好きとかでなければ」

「じゃあ、私も買ってみようかな」

「いいね、一緒に探そう」

ほら、やっぱり後押ししてくれる。私は自然と微笑みがこぼれるのを抑えられなかった。


 私はうきうきした気分で髪留めをあれこれ見ていた。

革もいいしガラスのようなキラキラした石の飾りもきれい。動物の角を削って彫刻を施した簪やエナメルの髪飾りもある。目移りしてしまってなかなか選べない。


 最終的に二つの選択肢が残った。

土の源素を象徴する紋様が浮かび上がった金属細工の髪留めと、うっすら透けた白い貝殻でできた花の形の髪飾り。

散々迷った結果、私は金属細工の髪留めを買うことにした。二つ買うには結構値が張ったし、貝殻の花の髪飾りは繊細な作りで普段使いには向かなそうだった。


 文句も言わずに付き合ってくれていたヒューさんが私に尋ねた。

「それにしたの?」

「はい、せっかくだから土の源素のモチーフがついたものにしました」

「つけてあげようか?」

彼は器用に私の髪を手ぐしでまとめると髪留めを留めてくれた。そうか、彼もいつも髪を結んでいるんだった。

「はい、できたよ。お祭りっぽさが出ていいじゃん」

彼は満足げに私を見た。


 またぶらぶらと二人で他の露店を見ていると、おもむろに彼が言った。

「ちょっと喉乾いたから飲み物買ってくる。リリーはレモネードでいい?」

「あ、はい」

言うなり彼は私を置いて行ってしまった。

(え? はぐれちゃわない?)

長身の彼は見つけやすいかもしれないけど、私は群衆に埋もれてしまう。

「ヒューさん! 私、このお店で待ってますねー!」

大声で彼の背中に呼びかけると、彼は振り返りもせず片手を高く上げてひらひらと振って応えた。


 私は巾着袋の中をちらりを覗いた。ヒューさんへ渡そうと思って持ってきた手紙だ。一緒に何か光のモチーフの雑貨でもプレゼントしようかと露店を探したけれど、土のお祭りというだけあって土以外の源素のものはほとんどなかった。しかも男性が使えそうなものとなると更に選択肢が限られてしまって、これというものが見つからなかった。


(今日は手紙だけ渡そうかな)


「はい、おまたせ」

わずかに息を弾ませたヒューさんが飲み物を持って現れた。

「結構並んでて時間かかっちゃった」

私は防水加工のされた厚手の紙の入れ物に入ったレモネードを受け取った。

「ありがとうございます。ヒューさんだけ並ばせちゃって……私も一緒に行けばよかったですね」

「いや、君はせっかくのお祭りを楽しみなよ。俺は去年来てるし」

私がじっくり見られるように気を使ってくれたらしい。


(だから、一緒に行こうって言わなかったんだ)


「でも、こんな人混みじゃ、はぐれたら二度と会えないかも。もう別行動しないでおきましょう」

大げさに冗談めかして言ってみた私に、彼は微笑んで言った。


「俺はどこでも君を見つけられるよ」


 私は冗談を言った笑顔のまま、固まった。

「……やだ、私そんなに目立ちます?」

乾いた笑いで誤魔化すような返事をする。


 彼はそんな私の様子をただ黙って見つめていた。

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