第20話 『皆』に私は含まれない
その晩、レイフォードさんは出かけると言って家で夕食を取らなかった。
出かける前、私にそのことを伝えに来た彼は正装を脱いだ普段着姿で素導師姿のときより幼く見えた。
「すまない、他人の家で見知った者もいなくて気まずいだろうに」
「いえ、大丈夫です。昨日レイフォードさんのお母さんと服のことを色々お話して、仲良くなれたので。乗馬服のこともお願いしてみようかと思っているんです」
「ああ、いいと思う」
老師と会ってから、私に対する彼の態度から皮肉めいた雰囲気はめっきり姿をひそめていた。優しいけれど、どこか一線を引かれたような気持ちがする。彼は仲の良い人には辛辣な冗談を言うタイプのはずだから。
たぶん、私のことをヒューさんか誰かに相談しに行くのだ。
私がいると話しにくいのだろう。
今後の私の処遇についても話すのだろうから。
――『皆で相談しよう』って言ってくれたのに、「皆」の中に私は含まれないのね。
そう訴える自身の心に、私は冷徹に事実を突きつける。
私にその権利はない。だって生殺与奪は彼の手にあるんだから。
大丈夫、誰にも優しい人だからきっと悪いようにはしないはず。
責任感が強い彼のことだ、私のことを急に放り出したりはしないだろう。
ヒューさんだって、いくらなんでもレイフォードさんが私を路頭に迷わせるようなことを見過ごしはしないだろう。
いざとなったらレイフォードさんのお母さんに頼み込んで、ここのお店でお針子としてでも雇ってもらおう。
なんとでもなる。たぶん、きっと大丈夫。
この世界に一人きりの私にとって、本当の意味で我が身を案じ頼りにできるのは自分自身しかいないのだった。
*
レイフォードは源素庁を訪ねていた。源素大学校を修了後、二年ほど前までここに籍を置いていたのだ。短期間ではあったが勝手は知っている。
「カエリムじゃないか、珍しいな」
年嵩の素導師に声を掛けられる。振り返ると胸元で手を重ねて会釈した。
「ご無沙汰しております。最近はほぼ田舎の素導館におりますので」
「自分の素導館か、いいね。しかし隠居した素導師でもあるまいし、じきに旧都に戻るんだろう? なんてったって希望の星だからな」
「まだ二年も経っておりませんので」
「落ち着いたらいつでも待っているよ。君を田舎に閉じ込めておくのは宝の持ち腐れだ」
「恐れ入ります」
去っていく素導師の男性の後ろ姿を見て小さく息をつくと、ヒューバートの部屋へ向かった。
叩きつけるように無遠慮なノックをして返事を待つこともなく部屋に入る。ヒューバートは椅子の背に身を任せ、首を後ろにそらして逆さまに訪問者を見やった。
「来ると思ってた」
伸びをしながら椅子から立ち上がると、窮屈な正装を脱いでシャツの上に別の普段着を無造作に羽織ってレイフォードに言った。
「外に出よう、どっかで飲みながら話すのがいいだろ」




