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恋を知らない素導師様は  〜君という難問に抗えない〜  作者: 井ノ上 杏
第二章 旧都へ

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第14話 現在進行系の反抗期

 間もなく、馬車は旧都の新市街にあるレイフォードさんの実家に到着した。旧都なのに新しいとはどういうことかと思ったら、旧都の中に、源素(げんそ)を学ぶ学校や市庁舎のある旧市街と、商店や劇場などのある新市街が存在するということだった。


 レイフォードさんの家は一階に立派な商店があり男性の服飾小物や女性のドレスなどが飾られていて、上階は住居になっていた。私はお店の中を見てみたかったが、レイフォードさんは店舗入口ではなく脇の細道を行った先にある住居専用の入り口からさっさと自宅へ入るのだった。


 レイフォードさんの両親は仕事中らしく夕食で会えるとのことだった。使用人が何人かいるし、私に用意された部屋はこじんまりとしているもののとても優美な装飾がされていて、上品なホテルのようだった。

クローゼットには襟付きの上下揃ったえんじ色の服が掛けられていて、ちょっと地味な色合いだけど凝ったディテールのデザインが気に入った。

(私が着てもいいのかな)

そうだと嬉しいんだけど。


 夕刻過ぎ、私の部屋の扉をノックする音がした。開けるとレイフォードさんが立っていた。

「夕食だ。君は場所が分からないだろう」

迎えに来てくれた彼の後について歩く。よその家族の食事に入り込むなんて、食べる前だというのにすでに胃のあたりが重苦しかった。


 案内されたダイニングには壮年の夫婦がいた。彼が私を紹介すると、商人だという彼の父親は穏やかな微笑みで会釈を返した。茶色の髪に灰色がかった目をした、いたって平凡な容姿をしていた。

一方で、母親は私の頭からつま先まで素早く目を走らせ「お目にかかれて嬉しいわ」と優雅に挨拶した。落ち着いた赤茶色の髪に、深く暗い青色の瞳。涼やかな雰囲気と鼻筋が息子に似ていた。服装は非のつけようがないほど洒落たスタイルで、彼女もカエリム家の「歩く広告塔」なのだろう。


(品定めされた気がする)

私は合格なのか、不合格なのか。その答えを聞く勇気など到底なかったけれど。


 食事が始まると、私はずらりと並んだ銀食器の扱いに迷い思わず手を泳がせた。小さな咳が聞こえて、そちらを見るとレイフォードさんがさりげなく使うべき食器を手に取って見本を示してくれた。私が不慣れなのは彼の両親にもすぐに分かってしまったのだろうが、何も指摘することなく気が付かないふりをしてくれた。


「リリアナさん、部屋に不足はなくて? 必要なものがあればすぐにおっしゃってね」

「ありがとうございます。とても素敵なお部屋です」

「明後日、源素大学校(げんそだいがっこう)へ行くとレイから聞いたけれど、先生方にお会いするのならその場にふさわしい装いが必要でしょう。勝手だとは思ったけれど服を用意したのよ」

(さっきのクローゼットの服のことかな)

「部屋にあった、えんじ色のですよね。素敵な服を用意してもらって、ありがとうございます」


 レイフォードさんが片眉を上げて口を挟む。

「いつの間にそんなことを」

「カエリム家がお世話している方なんですから、当然のことよ。レイはそこまで気が回らないのではないかと心配していたわ」

「……別に、そのままの格好で問題ありませんよ」

何か気に入らなそうな、ふてくされたような顔で息子は母に答えた。

「それはあなたが判断することではないわ。相手方がどのように思われるか、よ」

バッサリと言い返された彼は、わざとらしくため息をつく。レイフォードさんのお母さんは「明日、サイズ調整をしますからね」と、にこやかに私に微笑みかけた。


 母と息子の間に見えない火花が散ったような気がした。お父さんはというと、二人の言い合いを意に介する様子もなくお酒を美味しそうにすすっていた。


(レイフォードさんって、まだ反抗期なの?)


私は心の中でそっと小さく嘆息するのだった。

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