第13話 膝枕はしてもらうもの?するもの?
レイフォードさんの実家を目指して再び馬車で出発することになり、私は据わった目で馬車を見ていた。
「これから先は道が良くなっていくから揺れは落ち着く」
その表情に気がついたレイフォードさんが慰めるように言ってくれた。
「……はい」
分かってる。分かってはいる。馬車に乗らなきゃ旧都には着けない。
しかし無事に旧都へたどり着けたとしても帰りにまたこの苦行が待っていると思うと、もういっそ旧都に行かず素導館に戻りたいくらいだった。
肩を落として馬車に乗り込む私の横顔をレイフォードさんが気遣わしげに見ているのが視界の端に映った。私が座席の隅に収まると彼はふっと小さく息をついた。
(あ、ため息)
また呆れさせちゃった。
あまりにも情けない愚痴を言い過ぎちゃったかな。
もう少し、こらえればよかった。
そんな後悔が頭をもたげかけた瞬間、馬車が揺れたかと思うとレイフォードさんが私の横に座った。
目を丸くして彼の横顔を見つめる。馬車の席は向かい合わせだ。立派な馬車だから二人で横並びに掛けることはできるが狭くなる。
(なぜ隣に座ったの?)
面食らった私にレイフォードさんはそっけなく言った。
「俺の肩にもたれればいい。少しは楽だろう」
「……いいんですか?」
水が乾いた大地へ染み込むように、彼のぶっきらぼうな思いやりが疲れ切った私の心を潤していった。
「ありがとうございます……」
涙が出そうになって小声でお礼を言うのが精一杯だった。私はそっと彼の肩先に頭を寄せた。馬車の揺れがさっきより優しくなったように感じられた。
まどろみの中から思考が浮上する。何か見えた。やがてそれが馬車の天井だと気がつく。私はいつの間にか横になっていた。馬車の振動と音から、もはや田舎の土の道ではなく舗装された道を走っているのが分かった。
(レイフォードさんは?)
かすかに頭を動かしてみると頭上の方に彼の顔が見えた。
瞼を閉じ考え事をしているような……いや、これは……。
(居眠りしてる)
彼は座席の角に背を預けてうたた寝をしているのだった。私を視るときの目を伏せる表情とは違った少しあどけない少年のような表情。
そして何より驚いたことに、私は彼の膝に頭を乗せていた。私が膝から転げ落ちないようにだろう、彼の片手は私の肩に添えられていた。
――膝枕!?
(なんで!?)
姿勢に無理があるのか、私の頭が重いのか、その両方なのか。彼の眉根がピクッと動く。
(わっ、起きちゃう)
今、私が身動きしたら、彼は完全に目を覚ますだろう。私は祈るような気持ちで息を殺し彼の整った顔を見つめ続けた。
(お願い、起きないで起きないで起きないで)
祈りも虚しく彼は薄目を開けた。藤色の瞳が彷徨うように左右に揺れ、ついに私を捉えた。しばらく真顔で見つめられた後、無情なほど冷静な声で彼は言った。
「目が覚めたのなら、身体を起こしてくれないか」
「はいっ!」
即座に私は飛び起きて背筋を伸ばし座り直した。
「私も今、本当にたった今、目を覚ましたばかりで……! ほんとにすみませんっ」
自分でも分かるくらいしどろもどろになっている。レイフォードさんを直視できず、もつれる舌で言い訳する。火を吹きそうなくらい顔が熱い。
「言っておくが、君が眠って俺の膝に頭を乗せてきたんだからな。俺がやったんじゃないぞ」
こわばった首をほぐすように左右に傾け、憮然とした声音でレイフォードさんが言う。
「もちろん! もちろん、そうでしょうとも!」
覚えてもいないのに、がくがくと頷いて同意する私。口調まで怪しくなっている。
「むしろ私が膝枕して差し上げなきゃいけないくらいなのに、申し訳ありませんっ」
何を言っているのか、自分でも分からない。口から出た言葉を彼に届く前にすべて回収できたらいいのに。しかし私が発した愚言はしっかりと彼の耳に届いていた。レイフォードさんは呆気に取られて私を見た。
「……」
「何も言わないでください!」
真っ赤な顔で涙目になった私は支離滅裂な八つ当たりをするのだった。




