66話 悪魔たちの事後反応と、深まる勘違い忠誠
悪魔たちの事後反応と、深まる勘違い忠誠
ヒビキの気だるげな声音が虚無の焦土に響いた瞬間、シアとアゼルはまるで心臓を直接打ち抜かれたかのように、ピクンと大きく肩を跳ねさせた。
先ほどまで世界を根こそぎ消し去る閃光を目撃していたその瞳には、未だに消えない底知れぬ恐怖の残滓がどす黒く揺らめいている。二人は必死にガクガクと震えが止まらない膝を両手で強く押さえ込み、なんとか「いつもの冷静な自分」という仮面を、形だけでも取り戻そうと必死だった。
シアは、かつて魔界の深淵で、その容赦なき残酷さから「最恐の王女」と全魔族に恐れられていた矜持など、とうの昔に瓦礫となって崩壊していた。
今、彼女の全身の細胞を満たしているのは、プライドの欠片すらない。「この偉大すぎる神にも等しいお方に、自分の生殺与奪のすべてを完全に握られている」という、背筋がゾクリと凍りつくほどの極限の悦びと、根源的な畏怖による戦慄の高揚感のみ。
「は、はい……っ! よ、喜んで、ヒビキ様……っ!」
その声は、恐怖と興奮が混ざり合い、うわずった悲鳴に近いものになっていた。シアの太ももは、先ほどまでの恐怖とは異なる、得体の知れない神聖なる畏怖と興奮で小刻みに震え続けている。
ヒビキが再びその膝に重い頭を預けると、彼女はまるで繊細な宝物を扱うような慎重さで、先ほどよりもさらに丁寧に、そして狂信的なまでの愛情を込めて、彼の髪を震える指先で梳き始める。一撫でごとに、自らの身を焼き尽くすほどの陶酔が、電流のように全身を駆け抜けていた。
一方のアゼルもまた、言葉にできないほど酷い有様だった。
震える手で乱れた前髪を整え、眼鏡を直そうとするが、その指先は制御を失ったかのように小刻みに痙攣している。彼の精神は、先ほどの圧倒的破壊の光景によって、根底から破壊し尽くされていた。
(……なんという御方だ。数万の命を奪う天災を、あのような……指先一つで、まるで「机の上に溜まった不要な埃を払う」かのように消し去ってしまわれた。これが、我が主ヒビキ様……。私などが、この御方に対して「お掃除」などと、どれほどおこがましい言葉を口にしていたことか。……そんな言葉が、今は恥ずかしくて死にたくなる)
アゼルの中の理性が、砂の城のように崩れ落ちていく。
自分が行っていたはずの日常的な家事という行為が、この神のごとき主の前では、どれほど滑稽で、無意味で、塵にも等しい行為であったか。しかし、その圧倒的な格差、深淵を覗き込んだような絶対的な実力差を目の当たりにしたからこそ、アゼルの悪魔としての魂は狂おしいほどの熱量で塗り替えられていた。
(ですが、だからこそ……だからこそ、このアゼル、魂の最後の一滴まで、この絶対神に捧げましょう。もはやこの命は、私自身のものなどではない。この御方の安らかな眠りのためだけに存在し、この御方の影として消えるためにあるのだ……ッ!!)
アゼルは、恐怖という感情を遥かに超越した先にある、「極限の忠誠心」という名の猛毒に、脳の髄まで焼き尽くされていた。
彼は地が割れんばかりの勢いで膝をついたまま、シアの膝の上で安らかに寝息を立て始めた主の寝顔を、まるで聖なる偶像を見つめるかのように崇拝の眼差しで凝視し、音もなく、地を這うように深く、深く頭を垂れるのだった。
静寂が支配する虚無の焦土に、ただ二人の悪魔の荒い息遣いだけが響いている。
最強の悪魔二人は、たった今起きた世界の崩壊よりも、ヒビキが心地よく眠りにつくことこそが宇宙の唯一の真理であるかのように、ただ主を守護する鉄壁の像と化して、音もなく佇んでいた。




