65話 平らに整地された「虚無の焦土」と、サボりの再開
世界を更地にする、たった一瞬の閃光(2)
大地を幾重にも陥没させ、天を持ち上げるほどの超弩級の衝撃波が、円状に波打って地平線を塗り替えていく。山々は紙細工のように無惨に崩壊し、数百メートルを超える巨大な岩石群は、まるで目に見えぬ巨大な刃に微塵切りにされたかのように形を失い、原形を留めぬ砂粒と化した。大森林は根こそぎ引き抜かれ、万物が空へと弾き飛ばされて粉砕されていく。それはもはや自然現象などという生易しいものではなく、地上の全てを更地へ変える、絶対的な暴力の蹂躙であった。
最後に待っていたのは、すべてを無へ返す冷酷な仕上げだった。
爆心地に向けて、一瞬世界の大気が悲鳴を上げてギュウリと引き絞られる「爆縮」が発生する。続く猛烈な大爆風が、吹き飛んだ灰や粉塵、そして大地から剥がれ落ちた全ての残骸を、塵一つ残さず地平線の彼方へと掃き捨てた。
そこには先ほどまでの狂気も、魔物の気配も、大地を揺らしていた生命の鼓動も、何もかもが完全に消え去っていた。
あとに残されたのは、完全に平坦に慣らされ、鏡面のように磨き上げられた不毛の大地だけ。そこにはただ、絶対的な静寂と冷たい虚無が漂っている。
それはまるで、世界を最初から設計し直すかのような、恐ろしく、そしてどこまでも冷徹で、残酷なほどに美しい「破壊の儀式」であった。
平らに整地された「虚無の焦土」と、サボりの再開
狂乱の叫びも、地鳴りの轟音も、すべてが幻だったかのように消失した。
地獄の業火が通り過ぎた後、そこに残されたのは、数万の魔物の死骸でも、死臭漂う血の海でもなかった。ただ、あまりの熱量によって岩石や土壌そのものが溶け出し、ガラスのように滑らかに焼き固められ、地平線の彼方まで寸分の凹凸もなく完璧に平らに整地された、文字通りの「虚無の焦土」が果てしなく横たわっている。
それはあまりにも完璧すぎる、究極の消滅だった。
先ほどまでこの地を蹂躙していた、悍ましい魔物の腐敗臭や、鉄錆びた血液の匂いすらも、この異次元の破壊の力によってすべてが清浄に焼き払われ、大気へと還元されていた。ただ広がるのは、生命の痕跡を一切許さない、冷たく清浄で、そしてどこまでも静寂に支配された白々しい不毛の平野。
ヒビキは、これほどの規模の破壊を成し遂げたというのに、煤一つ、塵一つついていない上着の肩を、まるで小さな埃を払うかのように、これ以上ないほど退屈そうに軽く叩いた。
「ふぅ……」
肺の底から、安堵と倦怠が入り混じった溜め息を吐き出す。
「よし。これでサボり場所は無事に守られたな」
遠くで見えているはずの領地や、いまや彼にとってはどうでもいい屋敷の方向を、ヒビキは一瞥すらせずに呟く。
「ま、あんな派手に消し飛ばしとけば、生き残ったバカな魔物どもがノコノコと近づいてくることもないだろうし、屋敷のルートにも干渉しないはずだ。親父たちも、こんな訳の分からない平野が突然出現してりゃ、驚いて腰を抜かすか、あるいは敵がいなくなったことに気づいてすぐに警戒態勢を解いて解散するだろ。……これで、面倒な慰労会とか報告会とか、そんな無駄な時間と労力を全部すっ飛ばせる」
そう言って、ヒビキは再び、自分を呆然と見上げていたシアの方へと振り返る。
先ほどまでの世界を滅ぼす魔王の面影は微塵も感じさせず、そこにはただ、少しだけ疲れたような気だるげな青年が、午後の昼寝を待ちわびるように立っていた。
「……シア、悪い。だいぶ中断させちまったな。膝枕の続き、いいか?」
悪びれることもなく、当たり前のようにそう告げるヒビキの姿。
世界をリセットした当の本人が、何事もなかったかのように平穏を求めてくるそのギャップに、シアは一瞬だけ時が止まったかのように瞬きをした。しかし、その瞳にはすぐに、主に対する絶対的な崇拝と、とろけるような愛おしさが戻ってくる。
彼女は何も言わず、ただ幸福そうに笑みを浮かべると、再びその柔らかく芳しい膝を、主であるヒビキのためにゆったりと差し出した。
風さえも止まった静寂の焦土の上で、二人の穏やかな時間が、何事もなかったかのように再び動き出した。




