64話 紫色の「球体」出現と、神罰の降下
紫色の「球体」出現と、神罰の降下
天を埋め尽くした深紫の幾何学模様が、おぞましい速度で回転を上げながら凝縮されていく。
その魔法陣の極点たる中心部。時空そのものがその質量に耐えかねたかのように、ミシミシ、メキメキと、ガラスが内側から砕け散るような不吉極まりない音を立てて軋み、歪んでいく。歪曲した空間の裂け目からじわじわと染み出すように姿を現したのは、直径数百メートルに及ぶ、漆黒の闇をその身に内包した「紫色の巨大な球体」であった。
それはおよそこの世に存在してはならない、あらゆる光と秩序を貪り喰らう絶対的な死の象徴。
その巨大な球体は、ただそこに実在するだけで周囲の存在確率そのものを希釈していくような、禍々しい存在感を放っている。球体の表面では、どす黒い紫の極太の稲妻がバリバリ、パチパチと狂暴にのたうち回り、空間の壁を幾重にも引き裂いていた。
地表に青々と生い茂っていた草木は、その球体に触れてもいないというのに、遥か上空から放たれる圧倒的な熱量と超重力だけで一瞬にして水分をすべて失って干からび、炭化し、見る影もなくさらさらとした黒い灰へと還っていく。
シアとアゼルは、ただその悍ましい終焉の球体を見上げるだけで、生存本能が完全にマヒし、呼吸の仕方すら忘れたかのように呆然と立ち尽くしていた。網膜を直接灼き焦がすような強烈な深紫の閃光が、世界最強を自負していた二人の顔を、恐怖一色に染め上げながら不気味に照らし出す。
だが、この世の終焉をそのまま形にしたかのような超巨星を頭上に掲げながらも、ヒビキの様子はどこまでも平然としたものであった。
彼は、10万の軍勢はおろか、大陸の半分を消し飛ばしかねないその天災のごとき破壊の質量を完璧にコントロールしているとは思えないほど、ただ蚊を追い払うために指先を少し動かすかのような、極限の気だるさを全身から漂わせている。
そして、天にかざしていた白皙の手を、ただ重力に逆らわずに、スッと引き下げた。
「……じゃあ、消えろ」
ドォォォォォォォォン!!!
刹那の静寂が世界を侵食した直後、大気そのものを完全に置き去りにした紫の球体が、次元の壁を叩き割りながら絶望的な神罰の質量となって地表へと降下した。
その速度はすでに光速の領域に達しており、通過した軌跡の空間を凄まじい摩擦で赤黒く焼き焦がしながら、はるか数十キロ先の地平線へと一瞬で肉薄する。
押し寄せていた10万の魔物の大群には、己の頭上に何が降ってきたのか、今この瞬間に何が起きているのかを理解する時間など、一瞬の火花ほどすら与えられなかった。
世界を更地にする、たった一瞬の閃光
紫の球体が、まるで吸い込まれるように地表へと接触した。その刹那、世界は一切の音を失い、物理法則が崩壊するような圧倒的な「純白の閃光」に飲み込まれた。
その光は、視覚のみならず、魂の深淵にまで直接焼き付くような鋭利な輝きを放っていた。
押し寄せていた数万の魔物たち、大自然の狂気に染まった獣たち、さらには数百年もの間、山脈の覇者として君臨していたギガントクラスのボスに至るまで。球体から放射状に噴出した「深紫の熱線」に触れた瞬間、彼らの存在は理不尽なまでに根底から否定された。
悲鳴を上げる暇も、自らの肉体が炭化する痛みを感じる時間すら与えられず、その細胞の一片、分子の一つに至るまでが光の奔流によって強制的に引き裂かれ、消滅した。数万の命の灯火が、ロウソクの火を吹き消すよりも容易く、この世のどこにも最初から存在しなかったかのように、ただの「光の粒子」へと還元されていく。彼らが存在していたという記憶さえも、空気に溶けていくような虚無感だけがその場に残された。
その数拍後――物理法則の遅延を破って、鼓膜を物理的に引き裂き、脳幹を直接ハンマーで叩き割るような、地獄の爆音が世界を完全に支配した。




