59話 極上の日だまりと、愛玩の時
極上の日だまりと、愛玩の時
いつもの広大な平原には、天上の楽園を思わせるほどの、穏やかで極上の平和が満ちあふれていた。
どこまでも続く青々とした芝生が、心地よいそよ風に吹かれて青緑色の美しい波を作り出し、さらさらと微細な音を立てて揺れている。雲一つない青空からは、万物を等しく祝福するような、ぽかぽかと暖かい太陽の光が惜しみなく降り注いでいた。
その穏やかな陽だまりの中心で、ヒビキはシアの太ももを枕にして、完全に無防備な様子で目を閉じていた。
シアの纏う美しいドレスのなめらかな生地、そしてその下に隠された、マシュマロのように柔らかく芳しい極上の太もも。頭の後ろに伝わるその至高の弾力と、シアの身体から発せられる心地よい体温に、ヒビキはすっかり魅了され、普段の怠惰に拍車をかけて深い安らぎに身を委ねている。
「ああ、なんて愛おしい……。シアは今、世界で一番幸せ者ですわ……」
シアはぽうっと頬を愛らしい薔薇色に染め、蕩けるような甘い微笑みを浮かべて、ヒビキの寝顔を見つめていた。
かつて魔界の全軍を率いた恐るべき鋭い爪は完全に隠され、いまや白く繊細な指先となって、ヒビキの柔らかな黒髪を一本一本、壊れやすい極上の宝物を扱うかのように優しく、そっと梳いている。指先が髪を滑るたびに、かすかな衣擦れの音と、シアから立ち上る魅惑的な甘い香りが、ヒビキをさらに深い微睡みへと誘っていった。
二人のすぐ側では、非の打ち所がない完璧な姿勢のまま、直立不動で佇む執事アゼルの姿があった。
アゼルは主の心地よい眠りを一瞬たりとも妨げないよう、衣擦れの音すら立てない極限の静粛さをもって、太陽の傾きに合わせて日傘の角度をミリ単位で静かに、エレガントに調整している。主を不快な直射日光から守り、完璧な日陰を提供する。彼にとってもまた、この静寂こそが至高の義務であり、至福の光景であった。
まさに、邪魔するものの何一つ存在しない「平和の極み」と言える時間。
心地よい風が通り抜け、草いきれと甘いラベンダーの香りが鼻腔をくすぐる中、ヒビキはゆっくりと細い目を少しだけ開き、空に浮かぶ白い雲を眺めながら、気だるげにその本音を漏らした。
「……このままずっと、100年くらいこうしてサボってられたら最高なんだけどな」
それは、全ての義務と面倒から解放されたいという、ヒビキの極限まで純化された怠惰の極致。
その何気ない独り言を聞いた瞬間、シアは胸を締め付けられるような愛おしさに瞳を潤ませ、ヒビキの頬へ自らの顔をそっと近づけた。彼女の銀色の髪がさらりと零れ落ちてヒビキの首元をくすぐり、甘く熱い吐息が耳元に届く。
「シアも……、ヒビキ様と一緒なら、永遠にこうしていたいですわ。お日様を浴びて、ただヒビキ様をこうして撫でていられるなら、100年でも、1000年でも……。シアの太ももは、いつだってヒビキ様だけのものですのよ……」
シアは心から蕩けた、蜜のように甘い笑顔を浮かべて、その指先をいっそう優しくヒビキの髪に這わせた。
ヒビキの「サボり魂」と、シアの「愛玩の欲求」が、この極上の陽だまりの中で完璧なハーモニーを奏でて溶け合っていく。
そしてその背後では、アゼルが音もなく、けれどその真紅の瞳に苛烈な狂信の光を宿らせて、心の中で静かに、けれど固く誓うのだった。
(100年、いえ、我が主が望まれるなら永遠に、この平穏をお守りいたしましょう。その安眠を妨げる愚か者が現れたなら、その瞬間、この私が世界の果てまで追い詰め、魂の一片すら残さず綺麗に消し去って差し上げます――)
穏やかな風が、三人を優しく包み込むように平原を吹き抜けていく。
主の知らない裏側の守護と、膝の上の甘い熱に守られながら、ヒビキは再び心地よく目を閉じ、至高の怠惰な眠りへと沈んでいくのだった。




