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4話 開かれた真理の書

兆しの目覚め


 目の前に浮かぶ透明なスクリーンを見つめているうちに、ヒビキの脳裏を奇妙な感覚が駆け抜けた。

 固く閉ざされていた記憶の扉が、錆びついた蝶番をきしませてゆっくりと開いていく。

 濁流のように溢れ出してきたのは、見たこともない高い建物、鉄の乗り物、そして画面に向かって指を動かしていた、まったく別の自分という「前世」の記憶だった。


「ん? これって……前世でやってたゲームの画面に、そっくりじゃん!」


 思わず声を上げて上半身を跳ね起こす。

 青空に浮かぶ半透明のステータス画面を凝視すると、そこには「BP」という見慣れた文字と、それを裏付けるような膨大な桁数の数字が整然と並んでいた。


「BPって……ボーナスポイントってことなのか? レベルが上がると、たしか増えるやつだよな。今まで一度も振り分けをしてなかったから、こんなに貯まってるのか」


 ヒビキは、自分の手のひらと数値を交互に見つめた。

 この世界に生まれてからずっと抱いていた、言いようのない違和感。いくら泥にまみれて剣を振っても、どれほど熱を注いで魔法を鍛えようとしても、指の隙間からこぼれ落ちるように何も身につかなかった理由。

 その残酷な謎の答えが、パズルの最後のピースがはまるように、なんとなくだが理解できていく。


 この身体は、ただ努力をするだけでは成長しない仕様なのだ。

 貯まりに貯まったこのポイントを正しく割り振らなければ、自分は一歩も前に進めない。その確信が胸に宿った瞬間、冷めかけていた心の奥底で、小さな、だが熱い火花がパチリと弾けた。



開かれた真理の書


 ヒビキは息を呑みながら、視線を「魔法」の項目へと移した。

 画面が切り替わると、そこには前世の記憶にあるゲームのスキルツリーのように、無数の魔法名がずらりと並んでいた。

 そのほとんどはまだ選択できない状態を示すように薄い文字で表示されていたが、条件さえ満たせばいつでも引き出せる強大な力が、暗闇の中で静かに眠るように出番を待っている。


 これまで辺境伯家の用意した高価な魔導書をいくら読み込んでも、一流の宮廷魔導師から手取り足取り教えを受けても、ヒビキの身体は初級のファイアショット以外、何一つ受け付けなかった。

 落ちこぼれ、無能、最弱。

 浴びせられてきた侮蔑の言葉が脳裏をよぎる。


 だが、違ったのだ。

 この身体は、本や師匠から魔法を学ぶようには作られていない。このステータス画面を通じ、システムとしてポイントを消費しなければ、新たな魔法を習得することができない仕様なのだ。


 その事実を理解した瞬間、ヒビキは心の底から深く、安堵のため息を漏らした。

 張り詰めていた肩の力が抜け、草の上にどさりと横たわる。


 自分は決して、何一つ才能のない抜け殻などではなかった。

 ただ、この世界が定める成長のルールから外れていただけなのだと確信できた今、行く手を塞いでいた重苦しい霧は、一気に晴れ渡っていくようだった。



殻を破る意思


 メニューを指でなぞるようにスクロールしていくと、魔法とは別に「スキル」という項目が目に留まった。

 そこには多種多様な能力の雛形が並んでいたが、その中からヒビキはひとつの項目を見つけ出す。結界。それは日頃から自分がサボるための言い訳に使っていた、親しみのある能力だった。

 この最果ての地で、これから一体どんな脅威に直面するかは分からない。家門を継ぐ重圧や、いつ襲ってくるかも知れぬ外敵に備えるためにも、防御の要となるこの力を強化しておくのは悪くない選択のはずだ。ヒビキは迷うことなく、蓄積されていた膨大なポイントを注ぎ込み、結界のスキルを一気に最大値まで跳ね上げた。


 さらに、周囲から嘲笑され続けてきた剣術の項目にも残りのポイントを割り振り、世間一般の平均値といえる水準まで底上げしておく。

 画面の隅々まで確認するうちに、特殊な項目として「獲得経験値3倍」「獲得BP3倍」という破格のパッシブ能力まで見つけ、勢いのままにそれらを獲得してしまった。

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