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27話 深淵の炎と、焦がれる肉

深淵の炎と、焦がれる肉


 料理といっても、ヒビキがしようとしているのは切り分けたワイルドボアの肉に塩コショウで下味をつけ、焚き火の熾火でじっくりと焼き上げるだけの、男らしい野生の料理だ。


「その肉は、俺の肉な。こっちはシアの肉。美味しく作ってやるからな」


 ただ単に、切り分けた塊肉の担当を割り振るつもりで言った言葉だった。しかし、シアはそれを聞くと、ハッとしたように大きく赤色の瞳を見開き、白く繊細な頬をぽっと愛らしい桃色に染め上げた。


「……う、うん。わたしも……丁寧に作るわ。美味しくできるかしら……。えっと、その、料理なんてするの、本当に初めてなのですわよ」


 ヒビキは、何でもない言葉をどこか別の意味――まるで夫婦か恋人のようなやり取りとして捉えてしまったらしいシアの反応が、たまらなく可愛らしかった。少しからかうつもりで言っただけだったのだが、想像以上に無垢で甘いリアクションを返してくれたことに、胸の奥がくすぐったくなる。


 二人並んで肉に塩コショウを振り、木の串に刺してから、パチパチと爆ぜる焚き火の傍らへと並べた。

 シアにとって、これは生まれて初めて体験する創造的な共同作業だ。自分が下味をつけた肉が台無しになってしまわないよう、彼女は細い膝を抱えて地面に座り込み、瞬きすら忘れたかのように、じっと肉の焼け具合を見つめ続けていた。


 あまりにも焚き火との距離が近く、火の粉が彼女の美しい黒いドレスに届きそうなほどだ。


「そんなに心配しなくても大丈夫だぞ。っていうか、あまり近づくとシア自身が焼けちゃうからな」


 ヒビキは少し心配になり、苦笑いを浮かべながら声をかけた。


「……だって、心配なんですもの。もし焦がしてしまったら、ヒビキ様に美味しいものを差し上げられなくなってしまうわ。それに、わたしには最高位の熱と炎に対する完全耐性がありますから、この程度の火熱など何の問題もありませんわ」


 シアは守護すべき主のために完璧でありたいという一念から、そう言って誇らしげにニコッと愛らしい微笑みを向けると、すぐに真剣な眼差しで肉へと視線を戻してしまった。


 どれほど耐性があろうとも、大切な従者が火に炙られている姿を黙って見ているわけにはいかない。

 ヒビキはこれ以上の言葉での説得を諦め、座り込んでいるシアの細い脇の下にすっと両手を差し入れると、彼女の華奢な身体を後ろから強制的にひょいっと抱きかかえた。


「きゃっ……!? ひ、ヒビキ様……っ?」


 不意に宙に浮いた身体と、背中から包み込んできたヒビキの体温に、シアは甘い悲鳴を上げた。

 抱き上げた彼女の肉体は、至近距離で焚き火にあたっていたせいもあって、驚くほどぽかぽかと温まり、心地よい熱を帯びていた。シアはされるがままにヒビキの逞しい腕の中に収まりながら、あまりの気恥ずかしさに耳たぶまで真っ赤に染め上げ、言葉にならない声を漏らすのだった。



深淵の抱擁、甘い囁き


「きゃ……っ。お肉が焦げてしまいますわ。ねえ、ヒビキ様!」


 抱き上げられたシアは、宙で細い足をばたつかせながら、なおも焚き火の上の肉を心配して赤色の瞳を揺らしていた。

 そんな彼女のひたむきな様子に、ヒビキは思わず声を立てて微笑み、耳元で優しくお礼を言った。


「愛情を込めて焼いてくれて、ありがとな。だけど、ちゃんと焚き火から程よく離してあるから、そんなにすぐには焦げないぞ。それより……お肉ばかり気にして、その間、俺のことをずっと放置しておくつもりなのか?」


「え……?」


 ヒビキはシアを腕の中にしっかりと抱きかかえたまま歩き、焚き火の熱が直接届かない、少し離れた場所にある平らな石に腰掛けた。

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