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14話 距離感の崩壊と、無自覚な「妹」認定

白亜の東屋と、すれ違う視線(2)


「それはすごいな……。俺も、いつかそれくらい出来るようになりたいな……」


 とりあえず、かつての最弱の立場を演じるように、ヒビキは感心したような相槌を打ってみせる。


(まあ……取得しようと本気で思えば、今この瞬間にでも、何連斬だろうがすぐに使えるようになるんだけどさ)


「うん、うん! ヒビキなら、一生懸命練習をすれば絶対に可能よ♪」


 リサーナは我が事のように嬉しそうに何度も細かく首を縦に振り、まるでひまわりが咲いたかのような、どこまでも無邪気な笑みを浮かべた。


「あー、うん。頑張ってみるよ」


 ヒビキはティーカップの縁に口をつけ、温かい紅茶を一口飲み下したが、その味はほとんど感じられなかった。


(……おいおい、一体この状況は何なんだ!? リサーナが俺の興味のある話題に、必死になって無理やり合わせてくれようとしているのは痛いほど伝わってくる。でも、それが逆にめっちゃくちゃ気まずいんですが。ここで俺がさらに深く踏み込んで、高度な派生スキルの複雑なシステムの話なんかを振っても、彼女じゃ絶対に返せないだろうしな……)


 沈黙を埋めるようにカチャリと小さな音を立ててカップを皿に戻しながら、ヒビキはかつてないほどの居心地の悪さに、ただただ内心で冷や汗を流し続けるのだった。



距離感の崩壊と、無自覚な「妹」認定(致命的な勘違い)


 どこか上の空で、ヒビキが小さくため息を漏らしながらつまらなそうに紅茶を啜る。その微かな仕草を、リサーナは敏感に感じ取っていた。


「……ごめんね。わたしと話をするのは、つまらないわよね。今までずっと、あんたにイヤなことばかり言ってたものね……嫌われて当然よね。はあ……」


 リサーナはそう言って自嘲気味に息を吐き、膝の上で握りしめた手に視線を落とした。細い指先が、ドレスの生地をきゅっと掴んで白くなっている。


「でもね、ヒビキに……わたしを少しでも見て欲しくて。本当は、元気づけたり、応援をする言葉を掛けたかったの。でもそれが、その……ちょっと恥ずかしくて。まあ……今でも、すっごく恥ずかしいんだよ……」


 俯いたまま、リサーナは頬をじわりと濃い桃色に染め、長い睫毛の隙間からチラチラと上目遣いでヒビキを見つめてきた。その潤んだ瞳には、嘘偽りのない不器用な好意が揺れている。


 しかし、ヒビキの胸中に去来したのは、甘いときめきではなく冷徹な警戒心だった。


(……何かの罠か? それとも、新手のからかいか?)


 この言葉を素直に真に受けて、調子に乗って彼女を意識し始めたりすれば、後になって陰でザックたちと一緒になって大笑いされるのではないか。ヒビキの脳裏には、これまでリサーナとザックから受けてきた、数々の冷酷な仕打ちや蔑みの視線が焼き付いて離れなかった。一度植え付けられた不信感は、そう簡単に拭えるものではない。


「そっか……そうだよな。幼馴染だし、そういうのは恥ずかしいし、照れるよな」


 ヒビキは内心の疑念を一切表に出さず、大人の対応で適当に話を合わせて笑みを浮かべた。深入りせず、のらりくらりとかわすのが一番安全だ。


「……うん。そうなの」


 リサーナは小さく頷くと、何を思ったのか、不意にすっと立ち上がった。

 そして対面の席から移動し、ヒビキのすぐ隣のスペースへと、吸い寄せられるように腰を下ろしたのだ。

 ふわりと舞い上がる、甘い果実のような彼女の体温。あまりの距離の近さにヒビキが息を呑む間もなく、リサーナは恥ずかしそうに視線を彷徨わせながら、ヒビキが持っていたティーカップへと細い手を伸ばした。

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