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13話 白亜の東屋と、すれ違う視線

甘いクッキーと、指先に宿る熱(2)


「……ふーん。それじゃ、遠慮なくもらっておくとするか」


 ヒビキが差し出されたバスケットの蓋を開けると、中には繊細な模様が施された、手作り感の溢れるフロランタンが並んでいた。ヒビキはその中から一つをつまみ、躊躇いなく口に運んだ。

 さくり、と軽快な音が響く。香ばしいアーモンドのキャラメリゼと、サクサクとしたバタークッキーの食感が、口いっぱいに溶け合っていく。


「おぉ~普通に美味いな、これ」


 何気なく、けれど飾らない素直な賛辞。その一言が紡がれた瞬間、リサーナの表情はぱっと大輪の花が咲いたように輝いた。


「えっ、本当!? ホッとした。よかったぁ……!」


 彼女は胸の前で小さく手をぎゅっと握りしめ、弾けるような笑顔を見せる。しかし、その安堵も束の間、彼女の澄んだ青い瞳がヒビキの薄い唇へと吸い寄せられた。そこには、フロランタンの砕けたキャラメルの欠片がほんの少しだけ、お行儀悪く付着していたのだ。


 ドクン、とリサーナの胸の奥で、うるさいほどの鼓動が脈打つ。

 以前の彼女なら、汚いものを見るような目で指摘して終わりだった。しかし、今の彼女を突き動かしているのは、ヒビキにとっての「特別な存在になりたい」という抑えきれない執着と、熱い恋心だった。


 リサーナは吸い寄せられるように、細く白い指先をそっと伸ばした。

 触れるか触れないかの繊細な力加減で、ヒビキの唇の端を優しく指先で拭う。熱を帯びた指先が、ヒビキの唇に残った甘い欠片を拾い上げる。体温の伝わる微かな接触に、ヒビキが怪訝そうに目を瞬かせた。


 リサーナは指先に戻ったキャラメルの欠片を見つめると、あろうことか、吸い込まれるようにしてその指を自らの唇へと運んだ。

 そうして、はむ、と柔らかな唇で指先を吸い込むようにして、付着した小さな甘さを自ら味わったのだ。

 彼の湿った唇の感触が、指先を包み込む。


「……っ!?」


 しんと静まり返るテラス。

 一瞬、いや、数秒遅れて、自分が今しがた犯してしまった「間接キス」という途方もない事実の重さが、リサーナの脳内を直撃した。


 顔面から火が出るのではないかというほどの猛烈な熱さが、彼女の顔、首筋、そして耳たぶの先までを瞬時に支配していく。あまりの恥ずかしさに頭が真っ白になり、リサーナはそわそわと落ち着きなく視線を彷徨わせると、目の前に置かれていた冷たいお茶を、まるで喉の渇きを潤すかのように凄まじい勢いでがぶ飲みし始めた。


 その日の夜、自室の天蓋付きベッドの上で、今の出来事を鮮明に思い出しては赤面し、枕を抱きしめて悶絶しながらベッド中をのたうち回ることになるのは、もはや避けることのできない確定事項だった。



白亜の東屋と、すれ違う視線


 庭園の奥にひっそりと佇む白亜の東屋に、辺境伯家の使用人たちが手際よく淹れたてのお茶と、色とりどりの小菓子を並べてくれた。

 風が吹き抜けるたびに、ダージリンの芳醇な香りと、色鮮やかに咲き誇るバラの香気があたりに優しく漂う。


 テーブルを挟んだ目の前には、上品に腰掛けたリサーナの姿があった。

 彼女は頬をじわりと甘い桃色に染め、まるで宝物でも見つめるかのように、潤んだ青い瞳をきらきらと輝かせてヒビキをじっと凝視している。その熱をはらんだ眼差しに射すくめられ、ヒビキは椅子の背もたれに体を預けたまま、どうにも居心地が悪くてそわそわと身体を揺らした。


 確かに以前までのリサーナは、底意地の悪い性格をしていた。だが、その端正な顔立ちや、絹のように艶やかな金髪、そして少し上目遣いに自分を見つめてくる仕草は、認めざるを得ないほど完璧な美少女であり、純粋に可愛いと言わざるを得ない。


 リサーナは、ヒビキの気を少しでも惹こうとするように、弾んだ声で言葉を紡ぎ出した。


「スキルのお話よね。男の人はそういうの、本当に好きよね……。確か『三連斬』とか、わたしも聞いたことがあるわよ。鍛錬を重ねた上級の剣士になると、それが『6連斬』にまで進化するみたいよ。凄いわよね!」


 身を乗り出すようにして、一生懸命に自分の知識を披露する彼女を見ながら、ヒビキは内心で静かに乾いた笑いを漏らした。


(あー、うん。知ってる……。自分のスキル一覧に、普通に書いてあったし。でも、俺が本当に知りたいのは、それらがどう変化していくかっていう派生スキルの情報なんだよな……)

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