物語を終えるとき
物語を終えるとき。
その終わり方はいつ決まるのだろう。
◆
11月17日。朝5時50分。
決意の朝だ。
祭誠志朗は部屋のカーテンを開けた。
空にはどんよりと厚い雲がかかっていた。
いつも通り弁当を用意し朝食を済ませ準備をして家を出る。
いつも通りの電車に乗って、いつも通り一人で学校へ向かう。
いつも聴く音楽、いつも見る景色。
それでも、心の中だけはいつもとは違っていた。
◆
午前8時40分、1時間目は数学B。
いよいよ群数列にはいる。
僕にとっては懐かしい範囲だが、皆にとっては違う。
この時期になると、来年度以降の数学選択についての
悩みはほぼ消えているだろう。
午前9時40分、2時間目は体育。
男女別だからだろうか、少し気分が楽になった。
午前10時40分、3時間目は英コミュ。
彫刻家の話を聞いて読むだけ。
コミュニケーション、そんな気分ではなかった。
午前11時40分、4時間目の論国。
夏目漱石『こころ』
今の僕には、少々重すぎるテーマだった。
12時30分から昼休みを経て、
午後1時15分、5時間目の数学II。
数学に関しては懐かしい気持ちになる範囲しかない。
微分かぁ…。
必死こいてやってたな。
昔の自分が、今の自分を作る。
そうやって、大人になるんだろう。
そんなふうに人生について考えていた。
午後2時15分、6時間目のLHR。
いよいよ受験に向けて考えを固めなければいけない。
ということで大学調べ。
志望校とその理由、偏差値、キャンパスなどなど。
いろいろ調べさせられた。
前までは将来なりたいものなどなかった。
けれど今は、違う。
大学検索のサイト。
『志望学系』をタップして表示する。
そして、
僕は『教育学系』を迷うことなくタップした。
◆
そうやって、気にしないようにしていた。けれど着々とそのときは近づいていた。
午後3時15分
「起立、気をつけ、礼。」
号令係の挨拶で、僕の闘いは始まった。
◆
誰よりも早く教室を出て、駅へ向かう。
僕は伝えなくてはいけない。
すべての感謝と、この気持ちを、あの子に。
電車に乗って、彼女が帰ってくる、あの駅へ向かった。
改札から人はとめどなく溢れてくる。
それでも、そこに彼女の姿はない。
気づけば雲もどんどん近くなっていて、雨の気配がより濃くなってきた。
◆
午後4時40分。
待ちに待っていた、
けれど、
来てほしくはなかった。
その時の、合図だった。
目が合うと、彼女は微笑んでこちらへ来た。
「どうしたの?」
1つ、息を吐き出す。
「僕は、君みたいな人になりたい。」
伝えるんだ。
想いの、すべてを。
彼女はただ黙っている。
「まっすぐで、やさしくて、芯がある。そんな君みたいな人になりたい。」
鼓動が早まる。
こんなにも、苦しいとは思わなかった。
「だから…。」
だからどうか…。
震える手を握りしめる。
弱い僕とはおさらばするんだ。
だから…!!
「俺を、君のそばにいさせてください。」
こんな俺が、彼女の隣に彼氏として立てるのか。
そんな自信はどこにもない。
けれど、この不安に、恐怖に、闘いを挑んだことだけは、誇れる気がした。
「いいに決まってるじゃん。」
彼女は笑みを含んだ声で言う。
顔を少し上げる。
「遅いよ、バカ。」
笑顔の彼女がそこにいる。
…やっぱり。
彼女の、蘇我三玲の笑顔は、
暗い世界に一筋差し込む、太陽のように眩しかった。
厚くかかった雲も、もう、気にならないくらいに。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
しかし、彼らの物語は続きます。
誠志朗が選んだもの、選ばなかったもの。
その結末を、是非見届けてください。
34話&35話 『終章:後日談編』
3月1日公開です。




