物語が終わるとき ②
文化祭の最終日。
教室の片付けでも、クラスの打ち上げも、帰り道でさえ、
僕は極力男子たちとだけ過ごした。
その間蘇我さんがどんな顔をしていたのか。
僕は見ていない。
◆
こういう行事の時の帰りはいつも田沼さんと一緒だった。
けれど今日は、どうしても1人でいたかった。
もし、彼女たちの優しさに甘えたくなってしまったら、僕はきっと抗えない。
窓に映る僕を、静かに僕は睨んだ。
◆
翌日の振替休日。
特に何をする気にもなれず、ただダラダラと時間を潰し、
夕方になってようやく、買い物をしに外へ出た。
買い物が終わったらまたダラダラして、課題だけ終わらせてすぐに寝た。
◆
ー学校、行きたくないな。
こんな事を思ったのは、いつ以来だろう。
制服のネクタイを締めながら思う。
どうしてこうなったんだろう。
僕がいけないんだろうか。
「好きです。」
あの時、彼女はそう言った。
それは…君だけが持ってる気持ちじゃない。
なのに。
なんで…。
やっぱり行きたくない。
それでも、ずる休みをするような度胸も、僕にはない。
◆
学校ではいつも通り過ごすだけで問題はなかった。
男女でグループがきっちり分かれているから。
いつも通り男子の友人たちと楽しく時間を潰すだけで良かった。
けれど、心の中には、いつまでも彼女の言葉が響いていた。
そしてそれが、僕をいっそう焦らせた。
ー逃げるな。
違う。まだ決められないのは、逃げているんじゃない。
待っているんだ。
ー何を?
僕が一番わかってる。
僕を好きな人の、その想いを聞くことを。
ーいつまで待つ?
それは、分からない。
ーそんなんでいいの?
いいはずないのは知ってる。
けど、その誠実さだって周りからの押し付けで僕自身の性格じゃない。
ーじゃあ迷う意味ないだろ。
駄目だろ。ちゃんと考えないと。
ー逃げてるんだ。
違う、違う、違う、違う。
そんな自己問答を繰り返した。
◆
…今日の授業、なんだったっけ。
気づけば終わっていた学校からの帰り道。
今日も僕は1人で歩いていた。
前まではそれが普通だったのに、なんで今更、寂しくなるんだ。
ー噛み締めろ。それがあの子の寂しさだ。
また出てくる…。さっきからなんなんだ…!
「誠志朗くん?」
背中から、僕を呼ぶ声が聞こえた。
「なにかあった?」
泣きたいくらい、叫び出したいくらい。
その優しさが僕の胸を締め付けた。
声のする方へ振り向く。
「…一緒に帰ろう?」
そう言って、田沼優羽は微笑んだ。
無言のまま、時間は過ぎた。
多分だけど、田沼さんは昨日のことを知っている。
どうすればいい…?
そんな事を、聞ける相手ではない。
「誠志朗くん、私ね。」
そう、彼女は口を開いた。
「私ね、今までずっと恋した〜いって言ってたじゃん?」
そうだね。
しかしその相槌は、喉につかえて出てこない。
「でも実際、恋って簡単じゃないらしくてさ。」
あの導入から、僕が恐れていない方向の話題は断たれていた。
だから、黙って聞こう。
「想いをつたえたって、届かないこともあるし、伝えられる側にだって都合がある。」
やっぱり、彼女は優しい人なんだ。
「もう知ってるとは思うから、一応。」
こちら見て、また微笑んで彼女は言った。
「準備できたら、言ってね。」
もう…逃げられない。
何度も、何度もそう思ってきた。
覚悟を決めた…。
そうやって、自分に嘘をついていた。
「…準備なんて、できるわけない…。」
どうしたって、僕は2人が大切なんだ。
2人といる時間が、大好きだった。
だから、何とかその時間を続かせようとして、
一本道をわざわざ行ったり来たりした。
この苦しさは、多分そのことへの罰なんだろう。
「そんなの…。三玲だって、私だって…。」
田沼さんはそこまで言って、続きを言わなかった。
それでも、彼女の震える声は、僕の耳の奥まで届いた。
…クソ!
悔しかった。
情けなかった。
まっすぐ、誠実に、そうやって生きれるように。
頑張っていたつもりでいた。
でも、
自分はみんなに迷惑をかけることしかしてない。
「わかってる…。」
だから…もう。
「…準備なんかしない。」
いつ、この物語が終わろうとも、
その終わり方は、もう決まっている。
すべて、僕が決める。
◆
物語が終わる時。
それは誰かが何かを選び、捨てたときである。
次回『物語を終えるとき』
長かった恋の物語。
いよいよ、選択のとき。
明日2/27 20:00公開です。




