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物語が動くとき ②

 11月13日。

文化祭初日、16時。


『本日の文化祭は以上で終了となります。』


そのアナウンスが学校に響いた。


 …終わったのか。


最後のほうはお客さんもほぼ来なかったが、壁の装飾がはがれてその修復をしていた。


教室の電気をつける。


一気に世界が明るくなる。


いつも通りの教室、とは程遠い。


寂しさとか、つまらなさは、やっぱり感じた。

それでも、人生で初めて感じる、この高揚感。


この空気が文化祭なんだろう。


 「じゃあ明日は今言った装飾担当と文化祭実行委員のひとだけ7時半に集合な。」


丸山先生と話し合いの結果、明日の午前シフトに入る 装飾係の生徒が、壁の装飾の補強を行うことになった。


ちょっと早すぎるんじゃないか。


なんて思ったりもしたが、まあいい。


明日はみんなと一緒だ。

今日みたいな虚しさは、多分感じない。


そんな予感がした。


 翌日、朝6時。


普段なら朝ごはんを作るくらいの時間帯に、家を出た。


自転車に乗って駅へ向かう。

 

…眠い。


乗換駅まではいつも通り電車内で眠った。 

乗り換え後も日曜の早朝ということもあってガラガラの電車に、一人座って眠った。


 肩に重みを感じて目を覚ました。


もう学校の最寄りまであと5駅くらいだ。


横を見ると、田沼さんが眠っていた。


そうか、同じ電車だったか。


隣に眠る彼女は、ただただ、暖かかった。


…何考えてんだ?


 そのまま電車の時間を過ごし、田沼さんを起こして学校へ向かう。


眠い目をこする彼女は、いつもより少し静かだった。


 教室へ入ったとき、まだ誰も来ていなかった。

仕方ないので二人で壁の装飾を補強した。


その時、どんな会話をしたのか、正直あまり覚えていない。


それでも、田沼さんと過ごしたあの時間は、やっぱり、心地よかった。

 

 

 「うわぁぁぁあぁぁぁ!」


お客さんが悲鳴を上げて逃げ出す。


昨日に引き続き、僕は人形を吊るす役。


入り口付近から浅井(あさい)君たちがフルスロットルで脅かしにかかっている。


もうほぼ叫んでいるだけだが。


 中間地点、少し気が緩んだところに三津家(みついえ)君の静かな攻撃。


意外とこれが怖いらしい。


そう言えば、彼の彼女さんは昨日のうちに来校を済ませていたらしい。


「楽しかったって言ってくれた。」


そう言って三津家君は嬉しそうに笑っていた。


イケメンだったなぁ…。


 そして終盤には蘇我(そが)さん。

ロッカーから飛び出て脅かす役。


練習のうちはタイミングが合わず苦労していたのに。


今では完璧なタイミングで飛び出してくる。


やっぱり努力家なんだろう。


こういう役は彼女によく似合う。


 12:00。


今日は昨日よりも文化祭の終了時間が早い。


そのためシフトも短縮形だ。


さ〜て、今日は誰とどこ行こうかな。


なんて事を言ってみたって、僕は誘われるのを待つことしかできない。


男子の派手グループから遠からず近からずの距離でぼーっと立つ。


話しかけてくれのオーラを全開にする。


誠志朗(せいしろう)こっち。」


不意に後ろから手を引かれ、その声の主に僕はそのまま誘拐されてしまった。


 「楽しい〜!!!」


1年3組の出し物はコーヒーカップ。


初めての文化祭でこれほどのものを作るとは…。


目の前で楽しそうに笑うその女の子に、僕はいよいよ聞く。


「蘇我さん。なんで俺?」


蘇我さんは一瞬戸惑った顔をしたが、すぐにいつもの調子で答えた。


「誠志朗と回ろうって思って。」


「そっか…。」


それ以上の言葉を続ける勇気が、僕たちにはなかった。


 お腹が空いたという彼女に連れられ、昨日ぶりの校 庭へ連れ出された。


けれど、昨日は食べれなかったものも多い。


僕は焼きそばを買った。


「おいし〜い!」


そう言って蘇我さんはたこ焼きを頬張る。


彼女といると実感する。


やっぱり僕は、聞き手のほうが得意らしい。


「これも美味しいよ。」


彼女といるときは、自然と言葉を紡ぐことができる。


「そうなの?も〜らい。」


そう言って、彼女はたこ焼きに使った箸で焼きそばを掴んで口に運んだ。


「ん〜!ほんとだ!」


リスみたいだ。


口いっぱいに頬張って幸せそうに笑う彼女を見てそう思った。


「でしょ?」


けれども、僕はそれを言えるような人間ではない。


勇気も、資格も、覚悟も、まだ足りない。


祭誠志朗(まつりせいしろう)くん。」


不意に、彼女は僕の名前を呼んだ。


その声は、いつもとは違って、耳のずっと奥、心の真ん中まで響き渡った。


その声以外、聞こえなくなるほどだった。


あぁ。


僕は、これを知っている。


ー好きだ。


そうだ…


そうだよね。


「君が好きです。」


 物語が動くとき。

それは作家が作為的に作り出す、偶然ではない、仕組まれたもの。


だが、人生に作家というのはついていない。


何が起こっても、不思議はないという話である。


次回


『物語が終わるとき ①』


2月25日(水)20:00 公開

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