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物語が動くとき ①

 物語が動くとき。

それは作家が作為的に作り出す、偶然ではない、仕組まれたもの。


だが、人生に作家というのはついていない。


何が起こっても、不思議はないという話である。


 そう、文化祭初日、僕が一人ぼっちで校内をさまよっているこの現状にも、特段の不思議はないのである。


11月13日、土曜日。


ついに幕を開けた文化祭。


この学校の文化祭は11月中旬開催とほかの学校と比べてかなり遅い。


理由はよくわからない。


そして、僕、祭誠志朗(まつりせいしろう)が今置かれている状況。


一言で表すのなら、ボッチ、である。


初日は午後からシフトに入る予定で、ほかの仲のいいメンツはみんな午前のシフト。


一緒に回ろうと顔見知り程度の相手に声をかけられるほどの勇気は僕にはない。


したがって、校内を当てもなくうろちょろしているわけであるのだが、


あれ?


これでは去年と何も変わらない。


なぜだ。


今年は準備期間のうちから楽しみで楽しみで仕方なかったのに。


ふたを開ければ文化祭とはやはりこういう行事なのか。


気付けば僕は普段の生活じゃ使いもしない図書室の前へたどり着いていた。


 どうせ暇なのだし、ちょっと本でも読んで休憩しよう、なんて思って図書室のドアを開けた。


本のにおい、なのだろうか。

むわっとした空気が鼻の中へ入ってくる。


「あれ、誠志朗くん?」


聞き覚えのある声がした。


その声の方へ目を向けると、そこには同じクラスの三田晴奈(みたはるな)が座っていた。


「あれ、三田さんこんなところで何してんの?」


彼女もボッチに耐え切れずここへ逃げ込んだのか?


「私、図書委員だから。」


三田さんは手に持った本を小さく掲げながら言う。


「そうだったの?」


知らなかったな。


彼女とはそれなりに関わったつもりでいたが、まだ知らないことも多いんだな。


「図書委員は何か展示でも作んなかったの?」


好奇心からこう聞くと、


「特には。こうやって図書室は勉強したい先輩とか静かに本読みたい人のために通常営業にしてるの。」


彼女は答えた。


なるほど。


文化祭の時期が遅い、ということは当然三年生としては普通の高校生と比べて文化祭時点での受験までの残り期間も残り少なくなるわけだから、そりゃ勉強したい気持ちも生まれるだろう。


「そういうことね。」


何か本でも読もうと思っていたが、正直言ってあまり好きな本はない。

漫画のほうが好みだ。


時計は午前10時33分。


「三田さんはこの後もここにいるの?」


図書委員、と言っていたからにはこれは司書さんの代わりの役割みたいなのをシフトを組んてやっているんだろう。


ならこの後、一緒に回れればラッキーだ。


ボッチ回避。


「う~ん。一応シフトは11時までだけど。」


だけど、シフトの後も残ろうと。

そう言いたいのか。


「じゃぁよかったら俺と回ってよ。一人寂しいんだよ

ね。」


彼女のそんな続きの言葉を無視して。思わず本音を出してしまった。


彼女はしばらく口を開けて驚いていたが、ゆっくり笑って答えた。


「いいよ。」


 世の中には、『文化祭デート』と呼ばれるイベントがあるらしい。


気になる異性と文化祭を回ることを指すのだが、

これはそれに入るのだろうか。


隣を歩く彼女を見ながら、僕はそんなことを考える。


彼女、三田晴奈は僕の友人である男子、三津家貴輝(みついえたかき)に思いを寄せていた。


あえなくその思いは散ったのだが、

そのせいか、僕とも微妙に距離がある。


そして僕も、彼女ではない別の女の子に好意を寄せているわけだから、

男女二人で校内を回っていたとしても、

これは文化祭デートにはならないわけで。


誰へ向けているわけでもない言い訳を並べながら廊下を歩く。


窓側によって歩くので各教室の中の様子まではわからない。

さっきからずっと沈黙が続いている。

「三田さん。どっか行きたいところある?」


最近の僕は、友人にも、先生にも驚かれるくらいの変化を遂げているらしい。


僕でも、それはわかる。


前までなら、この沈黙も嫌って、この周囲のにぎやかさも嫌って、すぐ耳をふさいで目を閉じていただろう。


「別に。誠志朗くんの好きなところでいいよ。」


もう一度言う。


人ともっと関わろうと思ったのは最近の話なのだ。


だから、あまり会話する気のない人と絡むのは、まだ苦手だ。


 腹の虫が鳴り始めたので校庭に降りた。


シフトまであと一時間。


とりあえず適当においしそうな肉寿司を買って飲食用に校庭のど真ん中に並べられたテーブルに腰掛ける。


「これ、おいしい。」


安い肉を焼いて、焼き肉のたれで味をつけて、米に乗せるだけ。

それでもここまでおいしいのだから。やっぱり今年の文化祭は一味違う。


「そうだね。」


それでも、三田さんは淡泊に返した。


 時刻は13時。


シフトに入る時間だ。


僕が教室へ入るほぼ同じタイミングで、蘇我(そが)さんや田沼(たぬま)さんたちが教室から出ていくのが見えた。


三田さんはまた図書室へ戻ってしまった。


なんだか。


また心が少し苦しくなった。

何も変わっていないような気がした。


 僕の仕事はいたってシンプル。

お客さんが通るたびに上から人形をつるして脅かす。


直前に足元へ注意を向ける装飾もしてあるのでお客さんからしたら突然怖い顔が現れたように見える。


驚き方が激しい人はその人形を殴りながら逃げていく。


その様子を見て、同じ係の男子と笑う。


 けれど、やっぱり寂しさを覚える。


一切の明かりを消した、暗い教室。


同級生が、お客さんを脅かす声。

それに驚く悲鳴。


さっきは、どんな感じだったんだろう。


どんな会話をして、どんな脅かし方をして、どんな笑い方をしていたんだろう。


…どうやら、僕は思ったより、友人たちが大好きらしかった。

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