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気持ちを、声に。

 修学旅行の2日目は、期待していたほどのことは何も起こらなかった。

京都観光。

人生で初めての京都だった。

嵐山は絶景だし、舞妓はさんは綺麗。

映画村はでっかいし、お化け屋敷は本当に怖かった。

三津家(みついえ)君がいなければ一瞬で気絶していたかも知れない。

金閣寺は本当に金ピカで驚いた。

足利義満もあの出来には満足だったろう。


 迎えた3日目。

朝のうちに大きな荷物は預ける。

今日の夕方には大阪の宿に着いていないといけない。僕らは真っすぐ京都駅へ向かった。

2日目のうちに京都観光を済ませたのは、今日の大阪観光のためだ。


 電車に揺られて、約1時間。

大阪駅に到着した。

…。大阪…!!

僕は静かにテンションを上げていた。

中学時代に何度か来たことはあるが、観光のために来たのはほぼ初めてみたいなものだ。ワクワクする。

僕らは早速道頓堀へ向かった。

とはいえ、ここでは写真を撮るだけ。

「はい、チーズ。」

僕は女子組の写真撮影を任された。

男子とは違い、やっぱり女子には強い写真へのこだわりがある。

昨日も何枚も写真を撮らされた。

けれど、まったく嫌な気分はしない。

写真を撮るという行為自体めったにしない僕にとって新鮮な経験だったし、

それで喜んでもらえるなら何よりだ。

「もう一枚おねが~い。」

今度は彼女たちは斜め下を見て顔を隠す謎のポーズ。

「はいチーズ。」

浅井(あさい)君と三津家君がマネして馬鹿にしているのがちょこっと見える。

後が怖いな~。


 続いて、僕たちはあべのハルカスへ向かった。

通天閣の存在をすっかり忘れていたため、前を通り過ぎて、歩いてあべのハルカスへと向かった。

当然、通天閣でも写真を撮った。

ついでに近くにあったたこ焼き屋で昼食もとった。

さすが本場、と言いたいところだが、僕にはさっぱり味の違いが分からなかった。

普段からたこ焼きなんて食べない。だから、しょうがない。


 昼過ぎに到着したあべのハルカスは、予想よりも大きかった。

「でっけ~。」

浅井君が声を漏らす。

そういえば、東京スカイツリーもこのくらいデカかった気がする。

スカイツリーのほうが高いのは知っているが、どのくらいなんだろう。

後で調べよう。

あべのハルカスはチケットを購入しておけば60階まで登ることができる。

地上60階…。

想像できないな。

チケットを見せてエレベーターへ乗り込む。

このエレベーターで60階まで一気に上がる。

思ったよりも早い。

「ちょっと怖いかもね。」

そう言って田沼(たぬま)さんは笑う。

「確かに。」

星が降ってくるような箱の中の演出も、この生暖かい空気も、僕を興奮させた。


 到着した60階。

「すげぇ~~!」

窓に張り付いて、浅井君が大きな声を上げる。

「おぉ~~!」

蘇我(そが)さんもその横ではしゃいでいる。

少々興奮しすぎだとは思うが、まぁこの景色はテンションが上がる。

「すごいな。」

三津家君も感動しているようだった。

本当に、すごい景色だ。

こんなにこの景色が美しいのは、たぶん、みんなといるからなんだろう。

そんな恥ずかしいことを思いながら、最後の目的地、大阪城へ向かった。


 大阪城。

豊臣秀吉が、何年かに建てためっちゃ昔の城。

そんな予備知識はこの際どうでもよかった。

僕らにとってのメインイベントは大阪の主要スポットを船から眺めるツアーだった。

7人全員で15,000円近くかかったが、それでもみんな乗りたいということで予約をした。

もちろん、僕だって乗りたい。

場内の散策ももちろん楽しかったが、そろそろ船着き場へ向かう。


 結構混んでいて、僕は加納(かのう)さんと隣同士になった。

蘇我さんと田沼さんと三田(みた)さんはだいぶ前のほう。

三津家君と浅井君は通路を挟んで隣だった。


 時間になり、船が動き出す。

思ったより大きなエンジン音が鳴る。

水しぶきもそれなりに上がっているが、窓が張ってあるので大丈夫。

さっきから加納さんは窓の外を見ている。

そりゃ、彼氏の浅井君と隣同士のほうがよかったというのは僕だってわかっている。

でもしょうがないじゃん。

係の人無理やりだったし。

そんなに外が気になるかね。

なんだかつまらない…。

「ねぇ、誠志朗君。」

不意に、加納さんが僕を呼んだ。

「どうしたの?」

「ちょっと困らせること聞いてもいいかな。」

おっと、それは困る。

「ヤダ。」

「誠志朗君はさ。」

加納さんは僕の返事を遮るようにして言った。

「二人の気持ちには気づいてるんだよね?」

本当に、困ってしまった。

「あぁ…」

返事は濁った。

その気持ちについて、僕は気づかないふりをしていた。

気づきたくなかった。

「そっか。」

加納さんはそれだけ言って、また黙ってしまった。

船はなんとか橋の下をくぐっている。

「じゃあ、どう思った?」

また少しの沈黙を挟んで、加納さんが聞いてきた。

ほんの数か月前まで、浅井君の好きなタイプを気にしていたあの女の子と同一人物とは思えない。

どう、思うか。

「二人の気持ちっていうのは、加納さんは聞いたの?」

「まだだけど…。」

そうか。

なら、これは、僕と、加納さんの妄想。

二人の気持ちは、まだ、二人にしかわからない。

だから、妄想。

「うれしいに決まってる。でも、まだ、ダメなんだ。」

もしそうなら、そりゃうれしい。

うれしくないはずがない。

でも、僕はまだ僕を好きじゃない。

「なんで?」

彼女はそう聞き返す。

なんで、だろうね。

俺が聞きたいよ。

波が立つ。

エンジン音が強くなる。

スピードが上がる。

「僕は、」

この気持ちは、嘘じゃない。

「俺は…。」

ずっと前からそうだろう?

波がまた立つ。

エンジン音がすっと遠くなる。

「好きだ。」

世界に一気に音が戻った。

床を這うような振動も、耳を刺激する波音も、鼻に刺さるエンジンのにおいも。

「…そっか。」

加納さんはまたそう言って窓の外へ目線を戻した。


 そっか。

そうだよ。

俺はずっと、いつからかなんてわからないけど。

好きだ。

船から降りて、宿へ向かう。

自分の気持ちを、声に出した。

‘‘誰‘‘を好きなのか。彼女の名前を、ちゃんと言った。

だから、もう戻れない。この恋からは、逃げられない。

さぁ、恋路が動き出しましたかね。

次回はいよいよ修学旅行最終日。

何か動くでしょうか。

…多分動きません。

2/13(金)20:00更新です。

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