初めて
修学旅行初日、10月20日、午後5時20分。
今日の目的地、京都の旅館に到着した。
なんだかこじんまりとした印象を受ける。
駐車場には車5台分のスペースしかない。
この大量の生徒たちを収納するスペースは果たしてあるのだろうか。
そんな疑問を抱えつつ、
一度部屋に入り荷物を整理する。
僕たち5組は6時30分から入浴なので、それまでにしおりの記入を進める。
ちなみに部屋は行動班の男女別なので、
僕は三津家君と浅井君と同室だ。
「なぁ、これ彼女のこと書いていいんかな。」
感想欄を見ながら浅井君ははしゃぐ。
「恥ずかしくねぇの?」
三津家君はいつも通り冷静にツッコむ。
「帆波先生なら読みたがるだろうけどね。」
いつもなら黙って見てるだけの僕だが、
もう口下手も卒業したい。
「お、誠志朗が喋った。」
浅井くんは驚いたようにこちらを見る。
「喋るだろ。」
三津家君はまたツッコむ。
この2人を、僕は信用している。
心の底から。
だからなのだろう。
うっかり口が滑ったのは。
「俺、好きな人がいる。」
駄弁りを終えて、しおりに戻っていた2人の目が大きく開いてこちらへ向いた。
「誠志朗、お前。」
黙ってろって言ってなかった?
そんな質問を三津家君の目は投げる。
「おぉ、まじか…。」
浅井くんでも流石に騒げないらしい。
「ひくよね。自分でもわかる。」
でも、だからこそ、
「だから、変わりたい。」
初めて、誰かに恋を打ち明けた。
漫画なんかじゃ、こうやって涙を流すキャラもいる。
けれど現実は、清々しいものではないか。
「お前、マジで誠志朗か?」
「誰かの恋にひくわけないだろ?」
そんなふうに2人は僕の背中を押す言葉をくれた。
けど、大丈夫。
言葉がなくても、2人はもう、僕を変えてくれた。
ここまで引っ張ってくれた。
『改めて、友情の素晴らしさを知った。』
初日の感想欄を、僕はそう締めくくった。
しおりの記入を終えると、風呂の準備もそこそこに僕らは隣の部屋へ移動した。
そこはクラスでのカースト上位男子の部屋だった。
カースト外に位置する僕はここにも入ることはできるが、
「お前、やばすぎだろ!!」
「そんなに〜!!」
ついてはいけない。
もう既に上裸が3人、パンツ一丁が2人いる。
浅井君や三津家君は一緒になって騒いでいる。
ここのグループは楽しいけれど落ち着きがないんだよな。
もうちょっと分かりやすい関わり方をしてくれ。
あまりに目に悪いので窓の外を見る。
学校だろうか。
不思議な形の建物があった。
「誠志朗って軍足?」
不意に後ろから声がした。
派手グループの一人だ。
5本指ソックスを軍足呼びする高校生。
「うん。」
見ての通りだろ。
「なんで?」
そこ食いつくのか。そんなに変か?
「臭くなくなると言うか、蒸れなくなるから気持ち悪くならない。」
中学時代に住んでいた家の給仕さんから聞いた。
「え、まじ?」
そう言うと、彼は僕の足の匂いを嗅ぎ始めた。
「正気かお前?!」
あまりに驚いてらしくもない大声を出してしまった。
「ほんとに臭くないじゃん。」
彼は驚いて言う。
そんなことどうでもいいだろ。
「お前やばいわ。」
机の向こうから1人が声を上げる。
ほんとだよ。
「人の足の匂いは嗅ぐもんじゃないだろ。」
これはドン引き案件である。
これと比べると、僕の恋愛など、引くほどのことではないと、自信を持てる。
こんな自信の持ち方はしたくないのだが…。
ともあれ、彼のおかげもあって、風呂までの時間を、僕は楽しく過ごすことができた。
最初この宿を見たときは、正直狭いな〜、とか思っていたが、
「広〜〜!」
浅井くんがはしゃぎながら駆け込む。
「走ると危ない。」
あとから追う形で僕も浴場にはいる。
本当に広い。
こんなスペースを隠していたとは。
この宿は1階と地下1階に大浴場がある。
2つともこんだけでかいのかな。
「これ、すごいな。」
三津家君も驚いている。
このスペースを、僕らのクラスの男子15人だけで。
「ほんとに。」
静かに掛け湯をして、体を洗う。
その間も派手グループの皆は誰のがでかいとか、誰のがジャングルだとか、中学生みたいな話をしている。
まぁ、中学時代にそんな話をしなかった僕は、がっつり聞いて、がっつり巻き込まれたのだが…。
入浴時間は着替えの時間も含めてわずか15分。
一般のお客さんがいるからという話だが、そんなことは知ったこっちゃない。
僕らだっていいお風呂には気の済むまで入っていたいのだ。
ちょっとした反抗をして、6時45分を過ぎて、先生が怒鳴り込むまで、僕らはみんなで耐えた。
ちなみに先生に朝風呂はOKか問うと、俺と一緒にはいることになるぞと言われた。
やめておこう。いろいろ危なそうだ。
午後7時。
夕食は大広間ですき焼き。
肉が大量に届いているので好きなだけ食べてほしい。
と言う宿のオーナーの話で、男女問わず食べ盛りの高校生は歓声を上げた。
逆に脂質とか糖質とかを気にしている人たちは少し嫌がっていたが、前者のほうが圧倒的に多い。
僕らは当然大量に食べる側だ。
僕としてもすき焼きなんて食べる機会は滅多にない。
人生で一番美味しいすき焼きを、人生で一番限界になるまで胃袋に詰め込んだ。
僕らのテーブルは6人。6人で6皿の牛肉を食べ尽くした。
具体的な重さは分からないが、一皿直径は大体30センチくらいだ。
まてよ…。とんでもない量食べたんじゃないか?
ご飯も4回おかわりした。
合計で5杯。
…。太っちゃうかも…。
人生で初めて、そんな事を気にした。
布団を敷いて横になる。
時刻は23:00消灯時刻。
先ほど一般客から苦情が入ったと、宿の人に怒られ、その段階で僕らは部屋に戻ったが、隣室は騒ぎ続けていたため、先生が怒鳴り込んでいた。
それを聞いて、僕らは当然大喜び。
そんな、修学旅行。
2年前とはえらい違いだ。
楽しい。
その感情を胸に、僕は眠りについた。




