今は、まだ
蘇我三玲は、僕と同じ小学校だった。
衝撃的だが、まぁそれだけの事実が発覚してから2週間。
10月20日。
定期テストも終わり、いよいよ、修学旅行がやって来た。
「楽しみだな!誠志朗!」
浅井君はいつもよりテンションが高い。
「そうだね。」
中学の時の修学旅行は正直何も覚えていない。
恋とか、そういう話をするテンションではなかった。
とにかく、受験に向けて必死だった。
でも、今は違う。
彼だって、浅井君だって、恋をしている。
人と関わりたい。
恋をしたいと思えたのは、多分、彼の影響が大きい。
そして、目で追ってしまう人がいるのも、僕が恋をしていることの証明だった。
「何見てんだ?」
浅井君は不思議そうに尋ねる。
「いや、なんでもない。」
まだ、いい。
胸を張れる自分になったとき、彼女にこの思いを伝えられるように。
今は、まだ。
「京都駅に着いたら班ごとに並んで点呼。バスに乗って一旦奈良へ向かいます。そんで大仏とか鹿とか鹿をみたらもっかいバスで京都。1日目はそんな感じ。」
新幹線で担任の丸山先生は言った。
僕らの修学旅行は3泊4日。
初日は奈良を巡り京都に宿泊。
2日目と3日目は班別の自由行動。
京都と大阪、どちらを巡るのも自由。
チェックポイントは大阪城と金閣寺。
自由行動の2日のうちにその2カ所を巡ればあとは好きなところへ行ける。
僕らは2日目、明日は京都観光に費やし、明後日3日目に大阪観光。
3日目の18:00には大阪の宿にいなくてはいけないから、大体の班がそうしている。
ちなみに京都では金閣寺、嵐山、映画村に、
大阪では大阪城とあべのハルカス、道頓堀に行く。
そして、修学旅行の最終日、4日目。
朝から夕方まで1日中ユニバーサルランド・ジャパン、通称ULJで遊び倒し、午後8時に東京駅に戻る。
その夜は姉さんの家に泊めてもらうことになっている。
「奈良行く意味なくね〜?」
浅井君は中学時代、奈良も巡っているので不満気だ。
「僕は行ったことないから行きたいけど。」
僕は中学兵庫だから修学旅行は東京だった。
「それ誠志朗が珍しいだけだろ。」
窓際から声が返ってきた。
三津家貴輝だ。
「貴輝も奈良は行きたくないんだ。」
「いや、そういうわけじゃないけど。」
じゃあどういうわけだ。
「三田とは…まだ話せてないから。」
抑えがちな声量で彼は言った。
そうか…。
ほんの一ヶ月前。
同じ班の女子、三田晴奈は彼に告白して失敗した。
そこからまだ話せてないのか。
振られた側の心情ならぎりぎり分かるが、
振った側の心情は僕には分からん。
「まぁ、対角にいればいいんじゃない?」
とにかく距離を置けば大丈夫なはず。
「露骨に避けるわけにもいかんし…。」
そうか。余計に彼女を傷つけてしまう。
かと言って、告白を忘れたような態度も取れない。
「ん〜。向こうの出方次第?」
三田さんが話したがらないなら話さなくていいが、彼女が来たときにはちゃんと対応。
「そうだよな。」
大変だね。モテ男。
心のなかに、彼へのかすかな嫉妬を抱えた。
京都駅には予定時刻ぴったりに到着した。
日本の新幹線の技術は素晴らしい。
班ごとに点呼を済ませバスに乗り込む。
最初の目的地は奈良県。
『東大寺は華厳宗大本山である日本の仏教寺院。奈良時代に聖武天皇が国力を尽くして建立した寺である。』
旅のしおりにはそう記載されている。
どでかい大仏も、鹿も、初対面。
ワクワクを抱えてバスに揺られること1時間弱。
東大寺に到着した。
南大門の前で集合写真。
大仏の拝観を済ませて、1時間の自由行動。
皆は鹿の餌やりをしに公園へ行った。
僕も一応後ろから続く。
「誠志朗くん。」
その後ろから声をかけられた。
「田沼さんと蘇我さん。どしたの?」
2人は少し顔を見合せて言った。
『ちょっと、ついてきて。』
2人に連れられ、僕は皆とは逆方向、龍松院のほうへやって来た。
いいところだ。
「誠志朗くん。」
田沼さんが話し始めた。
「この修学旅行で、一番気を遣わないといけないのは何だと思う?」
気を遣う…。
「三田さんかな。」
正直、浅井君と加納さんはもう誰が気を遣っても変わらない。
「そう。分かっててくれてよかった。」
…。その三田さんはどこに?
「修学旅行中は三津家君をよろしく。」
今度は蘇我さんが言った。
「晴奈は私たちが相手するから。」
なるほど。
その2人が2人きりにならないように、か。
「わかった。」
今はいいんだろうか?
「だからってわけじゃないけど」
「この1時間は、私たちと周ろう?」
ーこの旅行で、もし、仲が進展したなら。
そんな期待をしていた。
ーそれは、彼女たちも同じだったんだ。
…。
「そうだね。」
今はまだ、良いんだ。
いつか、必ず。
だから、今だけは。
同じ学校の生徒は見つからない。
たった3人だけで、僕らは歩いた。




