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思い出話

 「君もでしょ?瀬田誠志朗くん。」

瀬田誠志朗(せたせいしろう)。それは、僕の旧姓。

小学3年生のあの日、僕が失くした名前。

その名前を、目の前の彼女、蘇我三玲(そがみれい)は呼んだ。

「…。いつから?」

いつから気づいてた?

「一目見ただけで分かったよ。」

彼女は笑顔で答える。

遠雷が聞こえる。

もう外にいるのは危ない。

彼女といるのは、危ない、気がした。

はぁ…。

ため息を1つ吐いた。

「俺、昔のことは忘れたんだよね。」

ここにいた日々は、キラキラしていた。

そこから先、今までは、この空模様のような人生だった。

だから、忘れるんだ。

「そっか…。ごめんね。」

彼女は目線を落とした。

傷つけてしまった。

遅ればせながら、彼女の期待していた反応に気づく。

驚いて、笑って話したかったのか…。

傷つけたいわけじゃない。

思い出したくない、傷つきたくないだけなんだ。

…だから、口下手は嫌なんだ。

「蘇我さん、の話は聞きたい。」

「僕がいなくなったあとの話とか、中学の話とか。」

これが限界だった。

彼女はこっちを見た。

こっちを見て、笑った。

曇った世界に、一筋晴れ間が現れたようだった。

「メールする!バイバイ!」

そう言って彼女は駆け出していってしまった。

どうやら正解だったぽい。

また雷が聞こえた。

僕も急いで家へ向かった。


 「えぇ〜。運命じゃ〜ん!」

家に帰り、姉に蘇我さんのことを話した。

「いや、たまたまでしょ。」

運命と言うか、偶然のほうが大きい気がする。

「それが運命なんだって。」

姉はお菓子を僕に差し出して言う。

「姉ちゃんが思うに、その子は誠ちゃんに惚れてるよ。」

何言ってるんだこの人は…。

大学2年生にもなってまだお花畑なのか。

「そんなわけないでしょ。たまたま見つけた同級生には挨拶くらいする。」

姉は不満気に「えぇ〜。」と言った。

「誠ちゃん。恋とかしないの?」

したいのなら蘇我さんをとっ捕まえろとでも言いたげだ。

「したいけど、今じゃない。」

蘇我さんを好きになるにしても、ほかの誰かを好きになるにしても、僕はまだ弱い。

「そんなこと言ってると、一生恋愛できないよ?」

グッ!

思ったよりも効いた。

心臓に何か重しがついたような感覚だった。

「できない…?」

姉もこの反応は予想していなかったのだろう。

驚いたように

「いや。焦るもんでもないしね?誠ちゃんの好きにしていいよ?もちろん。ね?」

急に母親モードになった。

なんやかんや、この人は僕のことを嫌ってはいなかったのではないか?

夏の思い出を、そんなふうに振り返った。


 小学3年生の5月。

家に帰ると、見知らぬ男が2人、父とテーブルを挟んで座っていた。

よくわからないし、なんだか怖い雰囲気だったので部屋へ戻った。


 数分経って父から呼ばれた。

「今日から、この人たちについていきなさい。」

言っている意味は、わからなかった。

けれど、そうしたほうがいいこと、それだけは、

「分かった。」

その呆気なさが、父を傷つけたのかも知れない。

あそこで僕が抵抗すれば、父は奮起しあの男二人を追い返したりしたのかも知れない。

しかし、そうなれば今こうして笑い合えているとは思えない。


 試験対策の最中にこんな事を思い出すのは、多分さっき蘇我さんと話したせいだ。

そう言えば、メールするって。

スマホを開き新着通知を見る。

新規通知は4件。

メッセージのアプリを開く。

3件は蘇我さんから、1件は修学旅行のグループだった。

修学旅行のグループの方は京都での行き先のアンケートの結果だった。

僕が投票したのは清水寺と伏見稲荷大社だったが、

結果は映画村と嵐山だった。

中学の修学旅行は東京だったから京都は初めてだったのに、皆行ったことないところがいいとか言って…。

まぁいいか。

蘇我さんからのメッセージを開く。

長文が長々と。そのどれもが、僕の知らない世界の話だった。

同級生の◯◯がどこ中に行ったとか、先生が犯罪者になったとか、中学の時の部活はどうとか。

興味がある、つもりだった。

けれど、こうも当たり障りがないと…。

ん?

『先生が犯罪者ってどういうこと?』

あまりにしれっと書いてあったので見落としていた。

『やっぱそこ気になる?』


 彼女は底抜けに明るいだけの人だと思っていた。

けれど、彼女も当然繕って生きている。

僕が食いつきやすい話題を1つぶら下げる。

そこから話を拡げていく。


 こんなふうに話せたらなぁ…。


なんだか羨ましくなって、自然と口角が上がった。

ここまで話せるようになれなくても、こうして話していけば、いつか僕も普通に話せるようになれるだろうか。

ベットに寝転がる。


僕は…。


「俺は、変われるかな…」


今も動くトーク画面に向かって、そうつぶやいた。

皆さま、

大変お待たせいたしました。

これにて第一編は終了となります。

次回からはいよいよ第二編へ突入です。

誠志朗の物語がどのように動いていくのか、

ぜひ温かく見守っていただければ幸いです。

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