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繕い滑稽

 三田晴奈(みたはるな)について、僕はまだ何も知らない。

彼女が何を好きで、何を嫌いなのか。

それなのに、いや、それだからだろうか。

彼女の恋心を聞かされていた。

彼女が好きなのは、僕の友人の三津家貴輝(みついえたかき)

彼はイケメンだ。

三田さんから玉砕の連絡が入った。

それでも、三津家君の方からは連絡は来ない。

いや、そうするのが普通なのだろうが、

世の中には告白を断ったことを自慢気に語るような人も残念ながらいる。

それがどれだけ失礼な行為か、考えてみてほしいものだが、そういう奴ほどやたらとモテる。

不条理。理不尽。

誠志朗(せいしろう)くん。」

隣に座る田沼優羽(たぬまゆう)はこちらを見て尋ねた。

「三津家くんからは『彼女がいるから』って振られちゃったらしいよ。」

言いたいことは分かった。

だから、黙っていた。

「知ってたんだ…。」

冷たいと思うだろうか。

「僕は、三田さんに後悔してほしくなかった。」

打ち明けないで燃やす心など、苦しいだけだ。

「だから、告白の邪魔じゃないけど、妨げになりうる情報は伏せときたかった。」

正直に話した。

「そっか…。」

心当たりでもあるのか、それとも彼女の優しさが理解をさせたのか、田沼さんは黙った。

 

「恋をするのも、楽じゃないんだね。」

しばらくして、彼女はそう言った。

「…そうだね。」

どういう意味か分からなかった。

解釈がいろいろできる表現は嫌いではない。

「告白すれば、すぐ成就すると思ってた。」

田沼さんは言った。

「それだけ楽なら良かったのに。」

この言葉は、本心から来た言葉だった。

恋愛は、ハードルが高い。難しいのだ。

中学時代を忘れることはできない。

あの経験は、僕の血肉だ。

「なんで、晴奈じゃ駄目なのかな…。」

田沼さんは目線を落とした。

「晴奈だってかわいいし、魅力あるもん。」

それは…。

「全部、貴輝にしかわかんないよ。」

カノジョさんの写真を見た。

何も言えなかった。

車椅子に座って、目の焦点もあっていないような、そんな人だった。

貴輝は本当に、心の底から、カノジョを大切にしていた。

冷やかしでも何でもない。

『いちばん、生きてるじゃん。』

彼はそう言った。

それだけは、覚えている。

そして、僕がそれに、何も返せなかったことも。

彼はきっと、外見とか、中身とかじゃなくて、もっと本質的なところと言うか、()()を見ているんだろう。

本当に、

「貴輝はすごいな。」

気づけば、そう声に出ていた。

田沼さんは、それきり黙ってしまった。


 翌日、知らない番号からの着信があった。

『三田晴奈です。告白のお手伝いをどうもありがとう。無事フられました』

貴輝も貴輝ですごいが、彼女も彼女ではすごい。

『そっか』

それしか返す言葉が見つからなかった。

このメール下手、もとい口下手をどうにかしないと。

『貴輝くんに彼女さんがいたこと、黙っててくれてありがとう。告白のこと、黙っててくれてありがとう』

バレてたか。

『ごめんなさい。』

振られるとわかってて止めませんでした、とは言えない。

『謝んなくていいよ。誠志朗くんは優しいんだね』

彼女からの返信はどれも健気だった。

それが、田沼さんの言った彼女の可愛さなのだろう。

『貴輝のカノジョの話、きいた?』

この質問はあまり良くなかったかも知れない。

でも、三田さんに伝えたい話があった。

どうか見ていてほしい。

『見たよ。』

やっぱ、貴輝はイケメンである。

『貴輝を選んだ目は間違いないね』

励ましになっただろうか。

次の恋のとき、自分の選んだ男が間違いでした、という恐れが少しは軽減されてほしいが。

『ありがとう』

『貴輝のやつ、告白されたなんて僕にも言ってないよ。たぶんほかの誰にも話さないと思う』

だから安心してというのは違う気がする。

それを言えるのは貴輝しかいない。

『ありがとう。』

三田さんはそう言った。

やっぱり僕はメールも会話も下手らしい。


 月曜日。

三津家くんも三田さんも普通に学校へやって来た。

普通に時間を過ごして、普通に振る舞っていた。

2人は強い。

それをよく感じさせられた。

僕なら多分、学校を辞めるくらいはしてしまうかも知れない。

「誠志朗。」

三津家くんが声をかけてきた。

「どうした?」

「もしかしてお前、三田さんのこと、知ってる?」

質問に対して質問で返してきたが、彼の質問は分かった。

「バレる?」

ほかの人にも不審がられていたら二人に迷惑を…。

「いや。ただどう思ったか聞きたくて。」

三津家君は心配性だ。

告白を断って正解だ。

ただ、それをストレートに言うのは良くない。

「前、貴輝の恋人の話聞いてさ、あのときはびっくりして言えなかったけど、俺、かっこいいと思ったよ。貴輝のこと。」

恋人を選んだ理由が、ではない。

どんな人を好きなのか、自分でわかっていて、その人をちゃんと支えていることが、だ。

彼は驚いた目でこっちを見ていた。

「誠志朗、"俺"って言った?」

驚き過ぎでは?

「言ったかもね。」

すぐにいつもの調子に戻した。

やっぱり、無駄に本性曝け出さすより、こっちの調子のほうが気が楽だ。

「え、もっかい、もっかい!」

「もうだめ〜。1回限定で〜す。」

バカな会話。

それでも、皆バカじゃない。

皆、心の中に何かを持ってる。

それを曝け出せる相手が、友達であって、

恋人、なのだろう。

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