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打ち上げて打ち明けろ

 体育祭は8クラス中6位で終了。

良い結果とは言えないが、終わり方はよかったと思う。

教室に戻り担任の先生からそんな感じで賛辞を贈られた。

この後はみんなで打ち上げの予定だが、

気になるのは三田(みた)さんだ。

三津家(みついえ)君に告白するつもりなんだと思っていたが。

学校ではしないのか。


 打ち上げの場所は学校から3駅先にある焼き肉店。

体育祭実行委員の人が予約を入れてくれていた。

感謝。

テーブルは4人席。

浅井(あさい)君や三津家君は派手グループのみんなで食べるらしかった。

僕はどちらかと言えば目立たないメンバーと机を囲んだ。

目立ちたいわけでもひっそりしたいわけでもないが、個人的にはこちらのほうが落ち着く。

楽しさは向こうのグループのほうがあるが。

(まつり)君、すごかったね。」

一人が肉を焼きながら言う。

「あぁ、それくらいしか特技ないしね。」

謙遜、というか、僕は彼より勉強はできない。

「えぇ、頭いいじゃん。」

「そっちのほうが頭いいじゃん。」


 そんな会話をしながら時間を過ごした。

派手グループは訳の分からない注文をして騒いでいた。

それでも、店に迷惑にならない程度のラインを見極めているのが彼ららしい。

数時間前までお通夜みたいな雰囲気をしていたクラスには見えない。

今のこの光景を見ていると、少しこのクラスに貢献できた気がしてうれしかった。

遅れて誇らしさがやってきた。

体育祭…。

去年まではこんな感覚はなかった。

去年と今年で違うこと。

それは、言わずともわかる。

浅井君、三津家君。田沼(たぬま)さん、ここにはいないけれど、姉さん、父さん、婆ちゃん。

いろんな人とかかわる中でやっと少し前に進めた。

…もういい加減いいのかな。

ねぇ。水瀬(みなせ)

君は僕の何が嫌いだった。

今の僕なら、君とも向き合えたかな。


 楽しいはずの場所で、一人戻らない時間に思いをはせる。

もう彼女のことはわからないし考える意味もない。

だからせめて、今ここにいるみんなと、ちゃんと向き合おう。


 焼き肉店から出る。

しばらく歩いたところにある公園へ行く。

時刻は19時を回ったばかり。

「これから二次会行く人~。」

浅井君たちが声をかける。

そこここから手が上がる。

いったんは解散するということになった。

僕は浅井君に腕をつかまれているから強制参加だ。

三津家君も三田さんも二次会に来るらしい。


 駅前のカラオケに10人と少しで行く。

カラオケなんていつ以来だ。

記憶では中学3年生以来2年ぶりだ。

まぁ、無理やり連れてこられただけだし。

歌う必要もないだろう。

と、思っていたが、男子対女子の点数対決に巻き込まれた。

お題の曲は知っていたのでまあ問題なく歌えたが、82点。

みんなより少し低いくらい。

それでも馬鹿にするほどの点ではない。

みんなも拍手するだけで特に何のコメントもくれなかった。

立ち位置も、歌も、絶妙で申し訳ない。

だが、意外な奴が高得点だったり、

歌う姿が想像つかない人の歌う姿を見たり。

楽しかった。

気付けば僕も何曲か歌って、のどが痛くなってきた。

時刻も21時を回った。

宴もたけなわということで。

僕らの体育祭は、今度こそ本当に、幕を下ろした。


 帰り道、最寄り駅まで徒歩1分とかからない。

みんなで歩いた。

靴ひもを結んでいたので、僕は最後尾。

すこし足を止めた。

みんなを見ていると、やっぱり誇らしくなる。

僕がこの笑顔を作ったわけではなくても、

一瞬だけでも、僕が、この笑顔を作る手助けをできた。

それが誇らしかった。

…!!

二人道からそれた。

何だ。

あっちには駅はない。

誘拐か?

建物の影から少し様子をうかがう。

「突然、ごめん。」

三田さんの声だった。

「どうしたの?」

三津家君だ。

―あぁ。そうか。

この場面は見ちゃいけない。

すぐにそう察した。

彼女は今から、恋を打ち明けるんだ。

駆け足で集団に追いつく。

後ろから、二人は出てこなかった。


 二人は結局、駅にはやってこなかった。

どこかに遊びに行ったんだろう、という結論で僕らは解散した。

ここから帰るとどんくらいかかるんだろう。

帰り道を検索する。

「誠志朗君。」

いつもの落ち着いた声が聞こえた。

「田沼さん。どうした?」

そっか方向は一緒か。

晴奈(はるな)告白中だよね、たぶん。」

さすが、察しの田沼さん。

「たぶんね。」

知ってはいるが、黙っておく。

これは三田さんの口から話されるべきことだ。

「そうだよね。帰ろう。」

田沼さんはそう言って笑った。

「うん。」

告白の結果も、僕には予想がついている。


 「今日は貴輝(たかき)の恋バナ聞きた~い。」

二学期が始まってすぐ。

土曜授業の終わりに浅井君ののろけ話を聞かされながらご飯を食べた。

その時、三津家君は言った。

「俺、もう彼女いるんだけど。」

…え?

そのまま彼の馴れ初めやら、彼女の魅力やらを聞かされた。

ほぼ覚えていないが。


 その時にはもう僕は三田さんの気持ちを聞いていた。

当然だが、どちらにもそのことを話してはいない。

恋心を打ち明ける。恋心を受け取る。

僕には考えられないほどの行為だ。

その壮絶なミッションを邪魔するようなことはいけない。

後悔の無いようにしてほしい。


 告白が失敗したという連絡が三田さんから田沼さんにやってきたのは、電車に乗り込んで数分が経った頃だった。

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