体育祭
体育祭。
それは、地獄の祭典。
夏休み明けの体育から早速練習が始まる。
直前になれば朝練に放課後練、応援団旗の制作に駆り出される。
運動は苦手ではない。
苦手ではないが、みんなの前で何かすることが苦手なのだ。
あがり症というわけではないが、緊張は人よりするタイプだ。
やけに足が速いせいで毎度選抜リレーに駆り出される。
選抜リレーは得点が特に高くなるため、責任重大だ。
僕は第一走者に選ばれた。
第一走者はアンカーほど注目されないにしても実力差が目に見えて現れる。
僕の50メートル走のタイムは6秒74。
遅くはない。むしろ速い方だ。
だが、いくら地元じゃ負け知らずとはいえ、高校に入れば凡人になり下がる。
他のクラスには6秒5台が何人もいる。
つまり、確実に負けるのだ。
それを抜きにしても、体力には自信がない。
個人種目の短距離走、
全員参加の綱引き、大繩、学級対抗リレー。
借り物競争にも駆り出される。
そのあとに選抜リレー。
僕の三日分の体力がそこに使われる。
…無理だな。
応援団旗デザインの話し合いの最中、祭誠志朗は一つ、決めた。
リレー以外は、手を抜こう。
体力温存のためには必要だ。
ごめんね。みんな。
応援団旗の制作は田沼優羽が率先して行っていた。
美術部に所属している彼女にはうってつけの役割だ。
その他もろもろ女子を中心にキラキラパヤパヤした旗のデザインが完成していく。
もう少しかっこいいのがいい…。
なんてことを言える男子は、このクラスにはいないらしい。
ていうか…制作陣以外帰ってよくね?
周りを見回すと、どうやら大体の人は僕と同じ考えらしい。
壁際によって教室を眺める人。
友達とスマホゲームで遊ぶ人。
やっぱり、一致団結というのは幻想なんだろう。
迎えた9月25日、土曜日。
いよいよ体育祭の当日を迎えた。
朝から校庭に教室の椅子をおろす。
それだけで、体力の何割かは失われる。
みんなもそうなんだろうか。
だが、今の校庭は高揚感に満ちている。
疲労を湛えているのは僕くらいか。
何でこんなイベントが人気なんだか。
6列横隊に並んで椅子を並べて座る。
隣には修学旅行でも同じ班になった三田晴奈が座っている。
なんだか普段よりおしゃれをしているように見える。
汗だくになるのに…?
何でだろう。
それを聞けるほどの親密度ではまだない。
いや、彼女が三津家君のことを好きなのを知っているのは、現状僕と前方に座る田沼さんくらいだ。
もしかして…告白するの?!
ぐったりしていた背筋が、なぜか伸びた。
最初の種目は個人種目。
女子短距離走。
僕らのクラスからは加納さん、最近やたら目が合う蘇我さんその他もろもろが出走する。
女子の短距離が終われば、次はすぐに男子の短距離だ。
男子からは派手グループのみんなが参戦してきた。
浅井君や三津家君は他クラスの男子との交流に夢中。
はい、浮いてますよ。
正常運転です。
一人で周りをぐるぐる見渡したり意味もなく体を動かしたりする。
他クラスのメンバーは顔は知ってるような人がほとんどだ。
名前も足の速さも知らないけれど、キラキラ度合いでもう負けた気がする。
そんな風にまた気落ちしていると、ピストルの音が響いた。
女子がスタートしたらしい。
男子は100メートル、女子は50メートルを走らされる。
一位から三位まで順に3点、2点、1点。
1レース8人で10レースを行う。
クラスから出場する10人が全員一位なら30点、男女合わせれば60点。
それだけ稼げたら後がどれだけだめでも最下位はないだろう。
まぁ、現実はそんなに甘くない。
女子10レースが終わった時点で、僕らのクラス、2年5組の得点はわずか2点。
多分一番稼いでるクラスは10点くらい。
最初の種目で最下位争いがほぼ確定した。
男子のレースが始まっも、僕らの劣勢は続いた。
8レース目の僕より前で三位以内は一人だけ。
合計3点。
さすがに、ちゃんとやった方がいいかな…。
まじめにやってだめだった時が一番堪えるんだよな~。
「位置について~。」
まぁ、もういいや。
「用意」
前足に力をこめる。
パン!
ピストルの合図で一気に開放して走り出す。
すぐ後ろに人の気配を感じながらなんとか2位に滑り込んだ。
1位の人はあれか、陸上の何かで表彰されてた人か。
勝てなかったな。なさけない。
そんな反省に反して、クラスの反応は上々だった。
結果、短距離走で5組は6点を獲得した。
順位は8クラス中6位タイ。
ドべ争いだ。
その後もなんやかんや時間は過ぎていった。
大繩が3回で終わったり、綱引きが3連敗だったり、学級対抗リレーも最下位だったり。
まぁ、頭に振り切ってる側のクラスだから運動が苦手な人もそこそこにいる。
しょうがないよな。
借り物競争では三津家君が三田さんに引っ張られていった。
楽しい記憶もある。
あるが…。
迎えた選抜リレー。
こちらも女子が先に行う。
まぁ。わかっていたことだが。
6位。
最大30点獲得のチャンスだったが、10点どまり。
合計得点は21点。
当然の最下位。
雰囲気が、あまりよくない。
リレーのバトンを受け取る。
さっきまで女子が使っていたものだから当然だが、まだ温もりがある。
遅い。バトンパス下手。
そんなことはどうでもいい。
彼女たちも必死だったんだ。
すっかり沈んでしまったクラスを見る。
…なんだかムカついてきた。
「位置について」
クラウチングスタートの姿勢をとる。
「用意」
パン!
一気に駆け出す。
すぐにカーブを迎える。
バックストレートに出ればレーンは関係なくなる。
一気に加速して前に出る。
バックストレート側は生徒たちの観戦場所だ。
割れんばかりの歓声が聞こえる。
…。
やっぱり、体育祭は苦手だ。
クールに。そんなことを思っていたつもりはない。
自分を隠して生きてきた。
そうじゃないとすぐにぼろが出るから。
なのに…。
勝ちたい。
必死こいて、歯食いしばって。
本気で、自分のままで、走る。
第2走者にバトンを渡す。
コース外に出てレースを見守る。
何とか粘り、男子は2位でゴールした。
合計得点は46点。
8クラス中6位。
最後の最後で2クラス抜き。
真ん中より下だったのに、クラスは大騒ぎ。
その歓声が、自分に向けられているようで、うれしかった。
最後の最後、クラスは一つにまとまった。
そうして、僕らの体育祭は、幕を閉じた。




