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 夏休みが明ける。

9月1日。

鬱屈とワクワクが混じった気持ちを抱えて僕は電車に乗り込む。


 始業式、長ったるい校長の話を聞く。

なんだかAIが台頭して光は絶対でときが止まる的な話だった。

何も聞いてません。

退屈な始業式が終わり、教室にもどる。


 二学期は行事が目白押しだ。

9月のうちに体育祭、10月2週目の修学旅行、10月終わりから11月はじめに文化祭。

間に1つ定期テストがある。

12月のはじめの定期テストを終えれば二学期も終わる。

誠志朗(せいしろう)って勉強できたよな。」

浅井和輝(あさいかずき)は僕の机に手を置いて聞く。

「まぁ、普通よりかは。」

自分で言うのもなんだが、成績はいい方だ。

クラスでも2位から5位を行ったり来たり。

学年でも一桁台には入っている。

「どんな勉強してんの。」

来た。困った質問だ。

僕は引っ越す前に高校入試を一度推薦で終わらせた。

普通の受験生が勉強している間やることもないので塾で高校範囲の予習を済ませていた。

だから高校に入って困るなんてことはない。

「ガッツリ詰め込んで、実践?」

数学で言えば片端から公式を覚えてあとは問題を解いて解いてときまくる。

本気でやれば1単元に3日とかからない。

「やっぱやるっきゃないんだよな〜。」

浅井くんはそう言ってうなだれる。

楽に成績を伸ばしたいのか。

「でも和輝、やるときはやる男だろ。」

夏休み、加納(かのう)さんとも。

「含みを感じるな。」

気づいたか。

「まぁ、やるかやるかだな。勉強は。」

もうあの時のように必死こいて勉強はできない。

頑張りたい理由がない。

「サンキュ。」

彼がこういうことを聞いてきたのは、彼として、勉強ができる自分になりたいんだろう。

それは、加納さんに誇れる自分であるため。

羨ましいな。

僕にもできるだろうか。

頑張る理由が。

周りを見回すと、1人の生徒と目が合った。

蘇我(そが)さんだ。

そう言えば、蘇我さんってあんまわかんないよな。

同じ班のなかで一番わからないのは蘇我さんだ。

加納さんも浅井くんから話を聞かされていたし、

田沼(たぬま)さんとも一緒に帰る仲だ。

三田(みた)とはちょくちょく話していたから元から仲はいい。

かといって、話しかける気も起こらない。

弱男でごめんね。

僕は彼女から、すぐ目をそらした。


 放課後、図書館へ向かう。

田沼優羽(たぬまゆう)から昨日連絡をもらった。

『相談があるから明日帰り付き合って』

てっきり相談事というのは田沼さんからだと思っていた。

が、

「こちら三田ちゃん。」

田沼さんはそう言って三田晴奈(みたはるな)を紹介した。

「いや知ってるけど。」

三田は口を開いた。

三津家(みついえ)君の好きなタイプってわかる?」

…。この手の相談、前も受けた気がする。

とは言え、三津家貴輝(みついえたかき)の好きなタイプか。

「聞いたことないな。」

そういう話は浅井くんの専売だからな。

「そっか…。」

三田はガクッと肩を落とした。

「三田は貴輝が好きなんだ。」

知らなかった。

2人とも最初の席が近いということくらいしか分からない。

まぁ、三津家くんは顔が良くて背が高い。

運動もできて気遣いもできる。字もきれいなのに、絵だけは描けない。

かっこよさと可愛さを兼ね備えた最強のメンズだ。

勝つ気はないが、勝てる気もしない。

「うん…。」

彼女はうつむきがちに答えた。

待てよ。

この手の相談を僕が受けやすいのは、意識をされていないからか。

まぁ、正しい人選だと言えよう。

だが、身近な人を好きな人がこんなにいると、変な気持ちにはなる。

嫉妬か?

僕もモテたいんだな。


 なんの収穫もないまま放課後の会議は終了。

三田とは駅も間逆なので校門で別れた。

「いいねぇ〜。恋。」

田沼さんは言った。

その表情はにこやかだ。

「そうかも。」

最近、本当にここ一ヶ月くらいで、恋に対しての感情が大きく変わった。

それは、彼女だけじゃない、皆がいたから。

いつか、恋をしたい。

そう思ったのはいいものの…。

誰と…。

一番恋しやすそうなのは隣を歩く田沼さんだ。

ただ、そんな事を考える下劣な奴に恋をする資格はない。

自分が誰かに好かれない限り、僕には恋はできない。

それが、ここ1週間でたどり着いた結論。

「誠志朗君は、恋しないスタンスだっけ?」

田沼さんはそういった。

「自分からは、まだね。」

誰かが来てくれればというのも、おこがましい願望だ。

話しながら思った。

こうなるともう無理だ。

思考は一生ぐるぐる廻る。

これはたしかに苦しみだ。

「誰かが誠志朗君を好きと言ったらするってこと?」

流石田沼さん。

持ち前の察しの良さで、僕の次の言葉を当ててみせた。

「そんなことがあればね。」

現実的に考えて、それはあり得ない。

こんな卑屈な時点でもう無理…。

「あるんじゃない?」

誠志朗君はいい奴だし。

右を歩く彼女はそう言った。

単純だな…。僕は。

お世辞かもしれないが、それでも、嬉しかった。

「田沼さんは優しいね。」

それは、お世辞ではない。

僕らの距離感。

これが、なんだか心地良い。

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