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実感

 夏休みも中盤、8月16日。

祭誠志朗(まつりせいしろう)はいつもと同じ時間に目を覚ました。

小さな頃からずっと、長期休暇中でも普段と同じ時間に目が覚めた。

 スマホを開く。

メッセージ通知が1件。

修学旅行の男子グループだ。

加納(かのう)さんと祭りに行きたい』

恋する男子、浅井和輝(あさいかずき)からのメッセージ。

1:24にこのメッセージを送っている。

何時に寝てんだ。

『いってらっしゃい』

応援メッセージだけ送ってスマホを置いた。

ブーッ、ブーッ。

すぐに返信が来た。

『修学旅行のメンツで行こう』

『そっちのほうが誘いやすい』

浅井くんからだった。

今は6時だから、寝てないのか?

まぁ、彼の言いたいことは理解できるが、僕らは関係の進展には邪魔だ。

二人きりになったほうが色々といいのは中学時代に知っている。

『二人でいったほうがいいと思うよ』

そのままのアドバイスを送る。

『それができたら苦労しないって』

彼からの返信。

本当に好きなんだな、加納さんのこと。

中学時代のあの子は僕を誘うのに抵抗なかった。

端から本気じゃなかったんだ。

なんだか悲しい気持ちになった。

『勇気出せ』

僕としては、彼の恋路に関与したくない。

彼には真っ当にその恋心を見せる義務がある。

隠したり、騙したりするのは無礼千万。

『じゃあ誠志朗が誘ってよ』

なにが『じゃあ』だ…。

『なんでだよ』

『加納さんと遊びたいのは和輝でしょ』

ウジウジするのは構わないが、僕や他人を使うのはよしてくれ。

『きびしい〜』

『じゃもうシンプルに俺たちで行かね?』

男子たちだけってことか。

『それは別に構わないけど』

それで浅井くんは本当にいいのか?

『さんくす』

『8月の20日な』

…。恋路って、わからんな。


 約束の8月20日。午後4時45分。

三津家貴輝(みついえたかき)の最寄り駅、大正神宮駅。

そこに、僕と、なぜか、蘇我三玲(そがみれい)

たまたま被ったのか…?

電車が来るたび改札からぞろぞろと人が出てくる。

今度は三田晴奈(みたはるな)が出てきた。

蘇我さんと合流している。

修学旅行の、僕らの班の女子のメンツが揃い始めている。

僕が三津家くんと合流したとき、もうすでに田沼優羽(たぬまゆう)加納沙織(かのうさおり)が合流して修学旅行の女子のメンバーは揃いきっていた。

少し距離をおいて立っていたため、向こうはこちらには気づいていないが。

これは、浅井くんが図ったのだろう。


 その予想は正しかった。

彼は僕らと合流した後、すぐに女子とも合流した。

三津家くんもこれは聞かされていなかったようで驚いていた。

まぁ、僕らは誰かに恋をしているわけでもなんでもないので純粋に祭を楽しめばいいのだ。


 浅井くんに連れられた先は神社で、参道にたくさんの屋台が出ていた。

かなり大きな祭なんだろう。

人で混雑していて、僕らからはぐれて2人きりになるなんていうお決まりの展開を、浅井くんと加納さんは起こした。

残ったメンツはみんな彼らが両片思いであることを知っていたため無理に探すこともしなかった。

射的をしたり、型抜きをしたり、りんご飴やチョコバナナ、かき氷や焼きそばを買った。

気づけば空も暗くなり、遊び食べ疲れた僕らは、自然と解散の流れになった。


 「2人、何してるかな?」

田沼さんと2人で乗った電車で、唐突に彼女はそう言った。

「さぁね。」

何をするか、そんなこと決まっている。

「誠志朗くんは、そういうのしたことある?」

聞いてくるんだ。

「まぁ、一通り?」

少し驚いて返答がおかしくなった。

「そうなんだ…。」

彼女の返答はどこか不安そうだった。

その不安も、分からなくはないが、

「僕の場合は、最悪だったけどね。」

大人になる、と言えば聞こえはいい。

でもそれは、見たくないものを見たり、

聞きたくないことを聞かされたり、

知りたくないことを知らされたりすることだ。

いいことばかりではないし、寧ろ悪いことしかない。

焦ってしても損しかない。

本当に好きな人としないと、駄目なのだ。

「何があったか聞いてもいい?」

話すようなネタはないが…。

「簡単に言えば、相手が自分を好きじゃないことがだんだんわかっていった。距離近いからね。」

そう。あのとき、というより、水瀬叶(みなせかなう)と初めて関わったときから、彼女の裏側は少し臭っていた。

それがあそこではっきりわかる。

そして、振られる。

意外と堪えた。

結果が今。

「誠志朗くん、その子のこと好きだったんだね。」

田沼さんはそう言った。

「そうかも。」

本当に。実感する。

過去のことを考えてみても、その結果の今を見ても。

どれだけつらくても、悲しくても。

彼女に何と思われていたか。

それを知っていた僕が、彼女を好きだったということを。


 「田沼さんは騙されちゃダメだし、騙してもダメだからね。」

そんなキモい忠告をして、彼女と別れた。

帰りの電車。

もうガラガラになった。

都会の祭りに行って帰宅中の人は、たぶん僕しかいない。

心地のいい孤独を楽しんで、僕は家に帰った。

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