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第29話 みくるさんが欲しい

  生徒会のライブも大事だけど、麗華様の名前を入れるための作品も作らなきゃなので休んでいる暇はない。


「別に私の分なんて作らなくていいわよ?」


「ダメですよ。提出するだけで内申点が貰えるんですから」


 まぁ提出しなくても成績が悪くなるということはないんだけど、でも別にA2のポスター用紙にネットで調べたことをまとめるだけでも良いから結構簡単に評価に繋がるんだよね。だから推薦狙いの生徒はここで色々なところに顔を出して共同製作という形で荒稼ぎしている。ただ、麗華様は僕を見て呆れたような顔をしていた。


「内申点? 飛鳥、あなた進学の予定もないのにおかしなことを言うのね」


 うーん、そう言われると上手く言い返すことが出来ない。でも麗華様、それを言ってしまうと僕たちが学校通う理由も無くなっちゃいますよね。


「あっ! 進学の予定がないからこそ、逆説的に学校のイベントに参加することに意義があると思いませんか?」


「そうかしら。そもそも学校に行くことに大層な理由なんて必要ないと思わない? 勉学に励む、内申点をあげる、それをモチベーションに学校に通うというのはとても立派なことだと思うわ。けれど、別にそのモチベーションがただ友人と会うためでも私は悪いことだとは思わないもの。聞くところによると、高校時代の友人というのは一生涯の友人になると言うじゃない」


 びっくりしたぁ! まさか麗華様から友人という言葉が出てくるとは思わなかった。僕が唖然としていると、いつの間にか隣にみくるさんが座っていた。


「ん〜? あすあす大丈夫〜?」


 僕が呆けていてリアクションができなかっただけなの だが、みくるさんは僕の体調が悪いと思ったみたいで、あろうことかみくるさんは僕のおでこにその可愛いおでこをくっつけてきた。近い近い近い近い! こんなのもうチューしてるようなもんじゃん!


「だ、大丈夫です。ちょっとぼーっとしてただけですから」


「忙しいと思うけど、無理しちゃだめだよ〜」


 優しい。天使かな。そんな大天使みくるさんは僕ではなく麗華様の腕を取った。


「じゃあ麗華ちゃん借りてくね〜」


「あれ? 麗華様に用事があったんですか?」


 珍しいこともあるものだなぁ。というか、麗華様をそんな借り物みたいにできるのはこのクラス、いや学校中探してもみくるさんだけだろう。


「あら、言ってなかったかしら? 私、みくると共同製作するのよ」


「え、えぇぇ!? 聞いてませんよ!」


 麗華様、わざと黙ってたな。みくるさんと共同製作なんてズルすぎる。これ何かの法令に違反してるんじゃないか?


「えっとね、麗華ちゃんがモーションキャプチャスーツ持ってるからそれで3Dモデルやらないかって誘ってくれたの」


「まさかのV路線!? ガワはどうするんですか!?」


 いやそもそもガワがあってもモデリングが必要で……ってそんなこと分かってますよね。


「ユリカが夜通し作業したみたいで、3日でイラストの作成からモデリングまで終わらせてくれたわ」


「……ユリカさんまで巻き込んでるんですか?」


「本人はノリノリだったわよ」


 ほんとうちのメイドはなんでもできるなぁ。東大卒で勉強はもちろん、家事は完璧、ハウスメイドとしての業務の一環みたいに僕の秘書もやって、気付いたらヘリコプターの操縦免許も取ってる。さらっと絵が描けることも判明した上に次は3Dのモデリング? 本当に人間なの?


「顔出しをせずにキャラになりきって配信するというシステムはあらゆる人の参入障壁を取っ払ったわ。この流れはもう止まらないのだから、理解して利用するのが賢明よね」


 いやそれは僕も同じ考えですけど、元々サブカル的な人気だったものが一気に一般大衆に広がったせいで良くも悪くも注目度が高い。それ故に上手く一石投じることができれば世間の注目を一気に掻っ攫うことも可能だろう。

 東雲グループでも公式チャンネルを開設し、3Dモデルを活用したVtuberプロジェクトを検討しているところだ。さらに縦動画などを活用すれば若い世代に対する広告塔としてもかなりの費用対効果を望めると踏んでいる。企業の資本力とノウハウを活かすことで競合の多い業界でもブルーオーシャンで戦えるという強みもある。


「麗華様も目を付けていたんですね」


「も、ということは飛鳥も……いえ、どうせ飛鳥のことだから既にビジネスにできるようなアイデアがあるんじゃない?」


「既存のVtuberさんとは違った路線でやっていくのは確定なんですけどねぇ」


 東雲グループの強みは子会社関連企業を含めて多業種に渡ることだ。当然、各業種にその道のエキスパートがいるため業界の知識は全部あると言っても過言ではない。なので今考えているのは、東雲グループに入社した新人という設定のVtuberと、東雲グループがどういう企業なのかをクイズを通して楽しく学んでいくという言わば工場見学のような企画だ。それだけで機械、エネルギー、インフラ、金融、建設、食糧、その他もろもろを網羅し、しかもそれをやろうと思えば第二回、第三回とできるから企画に悩まされなくていい。あとは半導体やAI、自動運転のようなその時のトレンドや世界情勢などで知っておいた方がいいことなんかも専門家を招いて特集すれば同じフォーマットを何回も使いまわせる。資本力とノウハウというのはこういうことだね。


「でも3Dモデルなんて貰っちゃっていいのかな〜……」


「むしろこちらからしたらプロモーション料がそれでいいの? って感じなのだけれど。たとえ友達が相手でも仕事には対価を支払うものよ」


「えぇぇ!!?? 私の配信にそんな価値ないよ〜!」


「私なんかって言いますけど、みくるさん、最近チャンネル登録者10万人を超えたじゃないですか。それに直近の動画もちゃんと数字が取れてますし、10万人でもかなり質の良い10万人ですよ」


 配信の見どころを短く切り抜いた動画も数百万再生とかなりの人気のコンテンツだ。僕が配信にお邪魔した時のことも切り抜きになっていて、中でも僕が素で『みくるさん』と呼んだところは視聴者さんの間で百合営業だとか問題のシーンとか散々な言われ方をしている。


「だってバズったのもあすあすのおかげだし……」


「そんなことないわ。コメント欄とのプロレスを楽しんでるのもそうだけど、視聴者を大切にしているのが伝わってきて良い配信だと思うわ。やっぱり、みくるの配信は距離感の近さが魅力よね」


 みくるさんが小さくて可愛いということもあって、最終学歴保育園卒(通称ホイ卒)なんて煽りもコメントでは定番だ。ただそれだけ聞くと治安が悪いように感じるけど、視聴者さんもプロレスを理解しているし、なんなら配信の取れ高やみくるさんのバズりに繋がりそうな新しい煽りを次々と開発していくあたりよく訓練されている。


「ファンの人たちを蔑ろにしないように気をつけてるから、そう言ってもらえると嬉しいな〜。というか、麗華ちゃん詳しいね〜」


 その人通知ONにしてるガチ勢ですからね。普通に赤色のコメントどころか上限投げてますよ。


「当然チェックしてるもの。私、非凡な才能を持ってる子は手元に置いておきたいタイプなのよね」


 麗華様、人材コレクターだからなぁ。ユリカさんがその最たる例だと思うんだけど、麗華様の凄いところはこの『手元に置いておきたい』ってつまり麗華様の方が立場が上なんだよね。年上だろうと関係ないんだから、生粋のドSだよほんと。


 まぁ麗華様の嗜好は抜きにしても、確かにみくるさんはうちに欲しい人材なんだけどね。贔屓目無しに、みくるさんというパーソナリティを客観的に分析すると麗華様の言う非凡な才能というやつが見えてくる。

 みくるさんはインプレッションを稼ぐために物議を醸すような話題や、安易に性別を利用するようなことはしない。たしかに過激な配信は再生数も伸びるし登録者数につながりやすいというメリットがあるけど、その実態は世間からうっすらと嫌われていて、ファンも配信者が好きなんじゃなくて過激なコンテンツが好きなだけなので同じような配信者で代替が効いてしまう。一方で、みくるさんの場合は同性からの人気もあり、配信に集まるのはみくるさんというキャラクターが好きな質の良いファンだ。だから登録者数が10万人なのに同接が4桁後半は当たり前というとんでもない数字を出している。もうポテンシャルの塊としか言いようがない。みくるさんはこれまでまだ世間に見つかっていなかった小型株のようなもので、ちょっとした拍子にほんの数日で一気に爆発するなんてこともあり得てしまう、そんな状態だ。

 経営者としてはそうなる前に雇用契約でガチガチに囲い込むのが正解なのかもしれないけど、縛りたくはないんだよなぁ。不定期の配信になるであろう東雲グループ公式Vtuberの中の人とか負担も少なくてちょうど良いと思うんだけど……。


「僕もみくるさんが欲しいです」


「ほぇっ!? え、えっと……あすあすのことは大好きだけど、そういう風に考えたことは………ない…………?」


 えっ!? あ、いやそういうことじゃなくて、なんか僕告白したつもりもないのに振られそうなんだけど! 

 

「んー? いやでも無いとは言い切れないかも……」


「みくるさん、違くて、僕もみくるさんのこと大好きですけど…………」


「えっと、ふつつかものですがよろしくお願いします?」


 えっ? あれ? なんかおかしなことになってない?


「飛鳥、あなたそんなことしてるといつか刺されるわよ」


 嘘でしょ、麗華様もしてましたよね? 少なくとも麗華様に呆れる権利はないと思いますよ。

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